ランナウェイ
世界にいた数多いた神は、姿を消した。
世界は、科学と政治の時代になった。
その時代も終わりを告げた。
一人の召喚師によって・・・・。
「おはようございます。」
頭が割れるような痛みが波のように襲ってくる。
毎朝の事だが、今朝は少し違った。
霞む目には、一人の女性の姿が写っている。
「よく眠れましたか?」
「すまない、これ、あんたのベットなんだろ?こんなむさ苦しい男が寝てしまって申し訳ないと思ってる。」
いつもは森の中や、雨風のしのげる程度の到底寝床とは言えない場所で寝ていた。
「いえ、私は朝も夜も、ここが夢の世界なのか、現実の世界なのか・・・・ベットで寝たこと無いんです。」
寂しげに微笑むと顔にかかったエメラルド色の髪をそっとかきあげると、朝日にあたった顔はあまりにも美しく言葉を失った。
「怪我した所は痛みませんか?」
男の肩口を触れようとしたが、男はそっと避けた。触ろうとした手は誰もいない空間を泳いだ。
「あんたのベットに寝てしまっていながら言うのも忍びないんだが、かなり・・・汚れているんだ・・・」
触ろうとした肩口を自分の手で触れながらベットから降りて、2、3歩歩いて立ち止まった。
「あんた、目が見えないんだろ?」
男の位置を追うように顔を動かす姿を見て思わず聞いてしまった。
「ええ、全く見えません。」
明るくおどけるように振る舞って見せた。
「でも、植物たちが教えてくれるんです。」
立ち上がって部屋の中にある観葉植物たちを指し示した。
「・・・植物たちが教えてくれる?」
「私の名前はロール・エンテンタル またの名を植物王 棘姫です。」
男は思わず身構えてしまった。
「王なのか・・・」
ロールは警戒させてしまったと思い、慌てて言い繕うとした。
「王と言っても私はあなたと同じ孤独王なんです。」
さらに男は身を強ばらせた。
「どこまで知っている!」
言葉に力がこもる。
「警戒しないでください。私は世界の植物たちと繋がっているのです。だからあなたの事を知っているのです。」
緊張感が部屋の空気を支配していく。
「呪符王 戌亥 天無さん、あなたが追われているのを知った上でこの部屋に匿ったのです。」
戌亥は理解に苦しむような複雑な心境になった。
「なぜ・・・。」
ロールは理解に苦しむ戌亥に歩み寄った。
「・・・戌亥さん、いえ、天無さん、私はあなたに一目惚れしたのです。」
「はぁぁ?」
部屋を支配していた緊張感は一瞬でほどけ間抜けな声が響き渡った。
「昨晩、天無さんがこの部屋に侵入した時、電気が走って、この人が運命の人なんだって思ったんです。」
屈託無い笑顔でしゃべるロール、それにたいして開いた口が閉まらない戌亥。
「・・・気に入ってくれたことはわかった。」
戌亥はその場に座り込んで、状況の理解をしようと考えた。
「なぜ、会ったことも、喋ったこともないのにその結論になった?」