楽しくない日常
ずっと向日葵のような人になりたかった。
みんなに愛されて。陽の光を浴びて綺麗に輝きながら咲き誇る。そんな向日葵のように。
なんとなく生きてきた。
特にやりたいことがあるわけでもない私はただ影のようにひっそりと生きてきた。
友人はそこそこにつくってはいたけど、親友と呼べるものは少ない。
できるだけ目立たないように生きてきた。
目立つのが怖かった。
目立って人から恨まれたりするくらいならいっそ誰にも相手にされない方がまし。
そう思っていた。いや、そう自分に言い聞かせてきた。
ここはどこだろう?教室だ。
見慣れた教室。見慣れたけど好きになれない教室。学校生活なんて所詮ただのおままごとだ。青春なんて私には存在しない。部活にでも入れば良かったのだろうか?特に運動が得意でもない私はわざわざ部活に入ってまでやろうとは思えなかった。かといって文化部に入りたいわけでもない。そう、私はやりたいことなんてない。楽しみたいことなんてない。なんてつまらない人生なのだろう。
ふと扉が開いたからそちらを見てみれば誰かたっている。誰だろう?その顔を見ることは出来ない。
ねえ誰なの?その顔はみえないけど、私にとってとても大切な人だったような気がする。
君が手を伸ばしてくる。その手を取ろうとするけれど、どんなに伸ばしても届かない。あと、少し。あと、
けたたましいアラームの音で目が覚める。夢を見た。またあの夢。最近見る夢はいつも同じだ。大切な誰かに会うけどその顔は見えなくて手を掴むことすら出来ない。あと少しで届きそうなのにそこで目が覚める。なんとも目覚めの悪い夢だ。
あの人は一体誰なんだろう。考えたところで答えは出でこないことはもうとっくにわかっている。
「陽和!朝ごはん早く食べなさい!新学期そうそう遅刻なんて恥ずかしいから!」
「はいはい」
「はいはい!?返事は1回!」
「…はい」
あぁ、本当に面倒くさい。
私は母が嫌いだ。昼間は家で怠けまくって夜は父が稼いだお金で遊び呆ける。メイク用品なんてろくに使わないうちに新しいものを買うし、服だって1回しか来ていないものが一体何着あるのか分からないくらいだ。
父はまあまあいい会社に就いて働いている。仕事は忙しくて大変らしい。
そんなふうに父が稼いだお金を平気な顔をして好き勝手使っていく。一体母はお金をなんだと思っているのだろうか。どうせおもちゃのコインくらいにしか考えていないだろう。
かといって別に父が好きなわけではない。でも、母のように嫌いなわけではない。普通だ。
「あぁ、姉ちゃん…?はよ」
「あ、碧輝?おはよ」
「あら!あおちゃん!おはよぅ。朝ごはんなにがいい??」
「あ?なんでもいーよ」
あーあ。いつもこう。弟は何しても褒められるのに私は何しても怒られる。
今から行く高校だって期待に応えるために必死に勉強してなんとか合格した。
でも、褒めてくれることなんてない。できて当たり前。なんなのほんと。こんな家にいることに嫌気がさしてくる。普通のごく一般的な家庭に生まれたかった。
なんて考えている間に時間はやって来て。
「いってきまーす」
「はいはい」
今日から新学期。新しい学校。新しい教室。新しい環境だ。特に楽しみでもない。昔は楽しみだった。春が大好きだった。
今はむしろ嫌いかもしれない。いつからだと言われるとわからない。
昔から向日葵のような人になりたかった。みんなから愛されて。陽の光を浴びながら輝いて。綺麗で、真っ直ぐで。
私の名前の『陽和』の中には『太陽』の陽って字が入ってるから太陽のような人でもいいかもしれない。
とにかく明るい人になりたかった。
あーでも、桜もいいかもしれない。
愛されたいのか。人々に。
今更人から愛されたいなんて馬鹿らしい。
今思えば昔は太陽のような人だったかもしれない。向日葵のような人だったかもしれない。少なくとも今よりは明るくて友人も多かった。いつから変わってしまったのだろう。昔に戻りたい。あのころは楽しかった。どうして時間は巻き戻せないのだろうか。
「痛っ」
「あ、ごめん!大丈夫?」
ぼーっとしながら歩いていたせいで角から出てきた人に気づかずぶつかってしまった。
「大丈夫。こちらこそごめんなさい」
「よかったー。…あれ?」
「なに?」
「あ、いやなんでもない」
なんだろう。目の前の男の子は何かを思い出したような顔をしたけど、すぐに元の顔に戻ってしまった。知り合いだろうか?全く思い当たらない。
「誰…ですか?」
「ああ俺?俺、池田陽太。お前は?」
「私は、成瀬陽和」
「そっか。よろしくな陽和!」
そういった君は太陽のような笑顔をこちらに向けて走り出す。
なんだか胸が苦しくなったような気がした。