お題小説 『僕は君を忘れない』
白衣を着た僕は卒業生に呼ばれ校舎裏に来る。
毎年、いや。数年に一度この季節になると卒業生から告白される。
高校生活の三年間親しんだ女性徒が、倍以上も年齢の違う独身の僕へと告白してくるなんて、友人に言わせれば羨ましい事らしいが、僕からしたら迷惑な話だ。
今日僕を呼びつけたのは、沢北まゆり。僕の顧問である科学部三年の女の子。
地味な女性であるが、イジメを受けることもなく、かといって非行に走るなどもしないいまどき珍しい女の子であった。
「たけ先生。明日から付き合ってくださいっ!」
「断ります。高校という閉鎖された場所で僕のような人間を好きになってくれたのはありがたいと思います。ですが、君はこれから社会にでて素敵な出会いをする人です」
「もう。こないだは、在校生には無理っていうから卒業までまってたんですよ!」
もはや定型文となった断り文句を言うと、これもまた想像した答えが返ってきた。
「駄目なものは駄目です。そうですね十年後。もう一度来てください。それでも僕の事が好きなら付き合いましょう」
「えー……。それでたけ先生が誰かと結婚していたらどうするんですかっ!」
「その時は諦めてください」
「たけ先生のばーかっ! じゃっ十年後に絶対きますからっ、待っていてくださいっ!」
実際に十年後に来る生徒は居ない。
十年もしたら、約束を忘れているか、覚えていても歳の離れた異性と付き合おうとも思わない。それにその間にはいろんな出会いがある。
校内放送が鳴り響く。
『近藤武先生、来客が来ております。職員室に至急お願いします。また近藤先生を見かけた生徒は至急連絡を――』
「たけ先生、呼んでるよ?」
「そうみたいですね。では、僕はこれで」
「はーい。じゃっ十年後くるからねー」
僕に告白してきた女性徒は手を振って別れた。
僕はまっすぐに職員室へ向かった。
見た事もない男性二人と校長と、教頭が立っている。
「何の御用でしょうか?」
「失礼、こういうものです」
懐からだす黒い手帳。
ああ、そうか……。
年配の男性が低い声で喋る。
「再開発である場所から白骨死体がでました。調べた結果、月下さくらさんと判り。遺体の一部から貴方のDNAが付いた衣類が出ました。詳しい話を署のほうでよろしいですかな?」
「そうですか……。桜綺麗でした?」
若いほうの刑事が不思議な顔をする。
彼女は――。いや先生は名前の通り桜が似合う女性だった。
僕は卒業式に告白した。
そして十年待ったのだ、待ったのに僕をあざけわらった先生、しかも結婚すると言った。
そこに僕の知っている先生はいなかった。じゃぁ、この人は誰だ? 先生の姿をした何なんだ?
気づくと僕は車を走らせ、地面を掘っていた。
「ええ、綺麗な桜でしたよ」
年配の刑事の言葉に僕は満足に頷く。
「大丈夫ですよ。僕は約束は守りますから」
誰に向けた言葉がわからない言葉が喉から出た。