向日葵の思い出
「懐かしいなぁ」大人になった僕は今、故郷の実家に久しぶりの帰省をしている。家を出て行った時は毎年帰るとは言っていたが思っていたより会社は忙しく、実に二年ぶりの帰省だ。
列車の窓からはおつかいから抜け出し、友達とお祭りに行ったあの隣町の神社が見えてきた。一緒に食べたたこ焼き、祭の喧騒も忘れて見とれた花火、、、子供の頃の思い出が蘇る。
車掌のアナウンスが次は家への最寄り駅であることを告げる。ふと外へ目を移すと紅い夕日に染まった向日葵の群れの中に帽子を振っている少年が見えた気がした。仕事の連続で疲れてるのかなとも思ったがあまりにのリアル過ぎた。ボーっと考えていた僕は駅に到着したというアナウンスで我に帰り急いで列車を降りた。改札を走り抜け僕はあの向日葵へと走る。日が暮れたらもう少年が消えてしまいそうだったからだ。
息も切れ切れ、向日葵ももう西へと傾いた時、僕はやっとその丘に辿り着いた。少年の頃の思い出よりももっと多くの向日葵がそこには咲いていた。その真ん中の中に少年はいた。友達とおにごっこをしたり、かくれんぼをしたり、、、その少年は僕だった。まるで親父が撮ったビデオテープを再生しているようだった。あの頃は楽しかった、、、少年を見ているうちに僕は涙が溢れてきた。涙を拭い目を擦るとそこにもう少年は居なかった。
帰ろう。子供の頃に。時間や仕事に追われることのないあぼ日々へ。僕は向日葵の丘を走り家路に着いた。いつのまにか日は沈み、夜空にはあの花火にも負けない美しい星が輝いていた。
列車にて 遠く見ている 向日葵は 少年のふる 帽子のごとし 寺山修司
執筆:sofia