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第2話 眼帯少女は夏候惇に憑依する

 蜀の「エリア」が魏の攻撃を受けたのはその翌日だった。

 襲撃されたエリアは三学の外れ。在野エリアの目の前の店だ。少し前に蜀が陥落させた場所だ。


「ちっ、誰がこんな端に攻撃を仕掛けたのよ?」


 一番近くにいた玲火が急いで応戦に向かった。

 そこで玲火は、眼帯の少女と鉢合わせした。その姿を見た瞬間、玲火はとてつもない大物が攻めて来たことを悟った。


「夏侯惇……七海!」


 曹操の最側近、夏侯惇の憑依を受けた玉璽代理人、七海だ。


「なぜこんな大物が攻撃を?」


 眼帯少女―――七海は、玲火を見ると面倒そうに風船ガムを噛んだ。


「なんだ、誰かと思えば簡孫糜トリオ? まあ、蜀にはまともな人材がいないから当たり前か。五虎大将軍とやってみたかったんだけどね」


 七海は玲火には興味がないと言わんばかりに名牌カードをくるくると回した。


「それで、やるのやらないの? 戦わないほうが有り難いけど。小規模戦争だから一対一ね」

「ちくしょう」


 三学の侵略戦争は、小規模、中規模、大規模に分かれる。

 このうち、小規模戦争は将帥対将帥の対決だ。

 もし防御側が対決を拒んだ場合、支配権は強制的に相手方の手に渡る。つまり玲火には「戦う」以外の選択肢はないのだ。彼女は舌を鳴らして名牌カードを取り出した。


「対決成立ね。一発勝負よ。体に直接ダメージを受けたほうが負け。手足は無効。どう?」


 対決の最も基本的なルールだ。玲火が頷くと七海は名牌カードを空高く突き上げた。


「攻! 魏―――夏侯惇!」

「ぼ、防! 蜀―――孫乾!」


《対決承認》


 空に対決の開始を知らせるホログラムの文字が現れた。七海は眼帯を指で触りながらにやりと笑った。


「じゃあ、いっちょ遊んでみようかしら?」


 まるでいたずらをするように、彼女は地面に軽く足をついた。


「はっ!」


 次の瞬間、七海が一瞬にして玲火の目の前に現れた。単純な突撃、そして体を狙って真っ直ぐに繰り出された正拳突き。単純無知としか言いようがない攻撃だ。ところが玲火はそれにもまともに反応できなかった。


「う、うああ!」


 無様に倒れながら、玲火は辛うじて七海の正拳を避けた。スタートと同時に負けるとこだった。玲火は地面を転がりながら七海と間合いを広げた。


(せ、接近戦はだめだ!)


 玲火はそれなりに接近戦には自信があった。中学の頃は喧嘩の腕だけを頼りに色んな騒動を起こしたものだ。しかし、それだけでは「武将」系である夏侯惇の「玉璽代理人」には到底敵わない。まるで実際の三国時代の英雄のように、七海の動きは超人の領域に迫っていた。


(でも対決は接近戦が全てじゃないわ。ならば!)


 玲火はすぐに自分の名牌カード使おうとした。

 ―――ところが。


「うおっ?」


 七海はすぐに玲火を追いかけ足で地面を踏みつけた。立ち上がることすらままならない。玲火はまたゴロゴロと転がりながら、どうにか攻撃をかわした。七海は玲火を休ませる気がないのかすぐに追撃した。


「ちょ、ちょっと待って!」

「冗談じゃないわ。あんたみたいな『文官』には案外小賢しい名牌技が多いのよ。発動させる時間を与えないのは基本よ」

「うっ!」


 休む間もなく攻撃を仕掛けてくる。玲火がそれなりに喧嘩に慣れていなければ、ここまで耐えることもできないだろう。


(―――この眼帯女!)


 玲火はそんな最中、七海の「特性」に気づいた。


(おそらく攻撃系統の名牌技があるなら問答無用でぶっ放しているはず。それをしないということは、この眼帯女の名牌技は攻撃系統ではない)


 武将と戦う時に一番気をつけなければならないのは攻撃系統の名牌技だ。

 下手をすれば始まったと同時にやられかねない。


(だったら私にも勝てるチャンスはある!)


 玲火は土を掴んで七海に投げつけた。


「うっ、土?」


 七海は顔についた土を払った。攻撃が一瞬止んだ。チャンスだ! 玲火はすぐに名牌技を発動させた。


【名牌技 : 論客=三寸の舌!】


「五体硬化!」

「……!」


 七海の動きが止まった。彼女は驚いたように自分の体を見た。まるで全身が岩に押さえつけられているようだ。


「言葉で相手の動きを封じる名牌技ね?」


 七海が名牌技にかかったのを確認した玲火は、勝利を確信した。


(勝った! やはり夏侯惇の智力や政治はそんなに高くないんだわ。策略や論客系統の技に弱い!)


 勝利を確信した玲火は、ゆっくりと立ち上がった。


「さあ、どうしてやろうかしら?」

「ううん―――」


 身じろぎできない七海は、ただ玲火の様子を見つめていた。


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