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第4話 問題児どもの集い

 在野の中でも特にひどい問題児集団がまさに「ござを敷いて遊ぶ一派」―――通称ござ一派だ。


 ござ一派が集まる場所は、在野エリアからさほど離れていない廃れた倉庫だ。こんなに古びた建物があるのも、三学の中では在野エリアくらいだ。

 いつものように倉庫に集まった彼らは、ござの上で何やら深刻に討論していた。


「断言する。これはレア・オブ・レア、スーパーレアをも超えたウルトラレアだ」


 眼鏡をかけた少年の真剣な言葉に周りの者は皆固唾を呑んだ。


「は、はんっ。一体何を持ってるか知らないけど今断トツの1位は私よ。これ一つで全会一致で私の勝利なんだから」


 派手な色に髪を染めた少女が眼鏡の少年に対抗して自分の宝物を見せた。彼女の宝物に皆興奮したように息を呑んだ。


「くうう。明らかに俺たちのとはレベルが違う」

「こんな貴重な品がまだ残っていたとは」


 周りの反応を確認した少女は口元を緩めた。彼女は眼鏡の少年に見せびらかすように自分の宝物を差し出した。


「ほら見なさい。これを超えられるものがあるなら出してみな!」


 派手な髪の少女が差し出したのはなんと―――


『Power80♡寝起きのイェリエル(撮影協力:ルームメイト)』


 ―――写真だ!


「見える? 隊長のこの無防備な顔! そこから感じられるギャップ! 同じ女でもよだれが出るこの愛らしさ! ござ一派の男女を一気に引き寄せるこの凄まじい破壊力を! うははは!」

「ぐふっ!」


 眼鏡の少年がうめきながらよろめいた。しかしそれも束の間、彼はクックックと笑い声を漏らした。


「去年の1学期の夏、大雨が降った」

「急になんだ?」

「そのせいで暑くはないが湿度が高くむしむしするような日が続いた。ここで注目! 魏呉蜀には「プールの授業」があるのは知ってるな? 去年は雨が降って回数は多くはなかったが、何回かプールの授業があった。―――そして在野に来る前、隊長は蜀の所属だった」

「……!お前、まさか!?」


 周りの生徒は皆、そんな馬鹿なという眼差しで眼鏡少年を見つめた。


「そうだ。そのまさかだ! 寝起きの顔だと? もちろんその破壊力は認める。だが、それはこれからチャンスがあればいくらでも手に入る写真。しかしこれは違う! プールがない在野では二度と見られないレア写真!」


 眼鏡少年は懐から自分の宝物を取り出し皆に見せた。


「見よ! 水着姿の隊長だ!」


 いつもの猫耳の帽子はない。きらめく金髪が眩しい。スクール水着を着たすらりとした少女が座っていた。


『Power99♡水着のイェリエル』


 その壊滅的な威力に周りの者は皆血を吐いた。


「「「グレイト―――!!!」」」


 ござ一派が倒れた。強烈な一撃を食らって意識が朦朧とする。


「く、くううう。ま、まさかこんな隠し玉があったとは」

「つ、強い! 眩しすぎてまともに見れねえ!」


 他のござ一派は自分の負けを素直に認めた。『Power80♡寝起きのイェリエル(撮影協力:ルームメイト)』を持っていた少女も悔し涙で頬を濡らした。眼鏡少年は勝ち誇ったように鼻を鳴らした。


「これで俺の勝ちだ。じゃあ約束通りお前らの宝物は全部俺のものだ!」


 眼鏡少年は高らかに笑いながらござの上の宝物(=写真)を持っていこうとした。


「―――ちょっと待った」


 誰かが眼鏡少年を引きとめた。今まで黙っていた月夜だ。


「何の真似だ? これは神聖な勝負だ。邪魔は許さな……」


 月夜は無言で胸元から写真を取り出した。


『Power999♡ 着替え中のイェリエル(盗撮犯:月夜)』


 そこに集まった者が目にしたのは女神の姿だった。

 眩しいとしか表現のしようがない。薄手のワイシャツの間から覗く白い肌が視線を釘付けにする。薄っすら透けて見える真っ白な下着は、純粋で清楚な少女らしさがそのまま表れており涙が出るようだ。しかもスカートは脱いだ状態。ワイシャツ一枚だけを羽織った完全無欠のボトムレスファッションだった。

 それを一言で表現するなら―――


「「「VIVA――――――!!!」」」


 皆が血を吐いてその場に倒れた。


「勝者は私よ。宝物(=写真)は全部私のもの」


 月夜に逆らうものは誰もいない。月夜は口笛をふきながらござの上の写真をかき集めた。

 その時だった。何かが月夜の頭を掴んだ。頭を押さえつける感触に覚えがあった。月夜の額から冷汗が流れた。


「何をしているの?」


 猫耳が見えた。猫は猫でも恐ろしい猫だ。少なくともここにいる全ての人間をめった斬りにできそうだ。


「い、いいい、いいいつ、ははは、入ってき……?」


 月夜の声がぶるぶると震えた。


「あんたたちが私の写真で遊んでる時」


 帽子の外にこぼれた金髪が何とも幻想的な少女―――イェリエルはにっこりと笑った。


「遺言は?」

「……私を殺しても宝物だけはどうか助けていただきたいと切実に願う月夜でした」


 イェリエルはまず宝物(=写真)から全て処理した。


「悪魔あああああ―――!」


 月夜の絶叫が遥か彼方まで鳴り響いた。


 騒ぎを主導したござ一派と数人は、罰として倉庫の隅で両手を後ろに組み頭を地面につけていた。月夜は体操服に着替えさせられ、天井に逆さ吊りになっていた。彼女は宝物が目の前で粉々になってしまったショックで放心状態だった。

 残りのござ一派は、ぶるぶると震えながら正座をしていた。


「信じられない! 人のプライバシーを無視するにもほどがあるわ! し、しかも、ぜ、全部、は、破廉恥な写真ばかり……」


 ござ一派が賭けの景品にしていたのは全てイェリエルの写真だった。


「まあまあ、落ち着きんしゃい」


 テカチュウは事件の後に倉庫に来たため難を逃れた。彼はイェリエルを落ち着かせようと脂汗をかきながら説得した。


「こいつらがそんなことしたんも全部お前のことが好きやからやろ。ここはどうか隊長の貫禄を見せてくれんか?」

「うっ」


 イェリエルの顔が一瞬にして真っ赤になった。イェリエルは帽子を目深にかぶって顔を隠した。


「と、とにかく、つつ、次こんなことしたらただじゃおかないわよ!」

「照れてる」

「照れてるな」

「カメラ、カメラはどこですか?」

「月夜! シャッターチャンスだ! 何やってるんだこのバカ!」

「脳内保存、脳内保存、妄想フィルターでセリフ転換します」


 イェリエルを見ていたござ一派はすっかり萌えモードになってしまった。


「ゴ、ゴホン」


 なんとか落ち着いたイェリエルは他のござ一派たちも呼び集めた。


「あんたたちも知ってるでしょ? 最近カンニングアプリが出回ってること」


 イェリエルは名牌カードに保存された「アプリ」を見せた。


【カンニングペーパー。by-DRAGON】


「ほら、これが最近噂のカンニングアプリよ」


 制作者の名前が一瞬表示され、すぐに名牌カードの基本画面に戻った。それを見たテカチュウが間抜けな顔で言った。


「何じゃこりゃ? 何で元に戻ったんや?」

「これで起動状態よ。ここをよく見て。数字が見えるでしょ?」


 イェリエルは自分の名牌カードの下の方を指差した。基本画面だが、確かに薄っすらと下の方に数字の「0」が見えた。


「これは今このアプリを使ってる人が何人いるか知らせてくれるの。テカチュウ、カンニングアプリを立ち上げてみて」


 テカチュウはイェリエルの言う通りカンニングアプリを起動した。するとイェリエルのカードに表示された数字が「1」になった。


「これは同じ教室内でこ乃愛プリを起動している名牌カードとリンクするの。一つのクラスで20人がアプリを起動すれば20人がつながるわけ」

「つながってどうするんや?」


 イェルエルは名牌カードに指で「1-1」と書いた。するとテカチュウのカードの画面に薄く「1-1」という文字が表れた。


「こうやって、知ってる答えをお互い共有できるの。20人がアプリを起動すれば20人の脳がつながるってこと」

「お、おおお」

「ご覧の通り見た目は普段の名牌カードの基本画面よ。教師がこれを見分ける方法はない。それに集中しないとよく見えないくらい文字は薄い。もし教師に気付かれても……」


 イェリエルは名牌カードの端をそっとタッチした。すると薄っすら表示されていた文字が一瞬にして消えてしまった。


「こうやって簡単に消える。バレるリスクは少ないわ。この学校の生徒はかなりの数でしょ? だから毎回本人確認は必須。身分証明のためにテストのたびに名牌カードを机に出しておくのを逆に利用するのよ」


 周りの生徒が歓声をあげた。


「なんかすごいぞ。これさえあればテストで良い成績がとれるってことだな?」

「テストどころか、これで魏呉蜀のやつらの鼻をへし折ってやれるぜ」

 イェリエルはアプリを終了して名牌カードをポケットに入れた。

「それでも勉強はしておきなさい。20人がつながっても20人全員が答えを知らなかったら何の意味もないんだから」


 生徒たちが「おう!」と答えた。

 カンニングアプリが実行されている名牌カードを見て、イェリエルは唇をペロリと舐めた。

 生徒たちはカンニングの誘惑から簡単には逃れられないだろう。簡単に成績を上げられるカンニングは魅力的だ。バレるリスクも少ないとなればなおさらだ。


「さあ、これからどうなるかしら? 今頃生徒会長さんの耳にもこのアプリの話が入ってるはずだけど」


 カンニングアプリは色んなところに広まっていた。イェリエルは、天月もこの事実を知っているだろうと予測していた。


「生徒会長さんはどう動くかしら? 普通ならこういう違法を防ぐ側に立つだろうけど、あの生徒会長は何やら普通じゃない感じがしたわ。……ひょっとしてアプリを実際に使ってみるとか?」


 イェリエルは首を横に振った。一応は生徒会長だ。違法アプリには手を出すまい。多分今頃対策を立てるために孤軍奮闘しているだろう。


「まっ、せいぜい頑張るのね」


 天月の姿を思い浮かべながら、いたずらっ子のように笑った。

 ―――そして。


「イェルエルさん。下ろしてください……。死にそうです」

「あんたはしばらくそうしてなさい」


 月夜はしくしく泣いた。

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