朝のない部屋
薄暗い部屋。一人暮らしなら申し分ない程度の広さの部屋には不釣り合いな大きなベッドが置かれ、今はギシギシと音を立てている。生きていくのに最低限の設備が内包された空間。私というペットを飼うための飼育小屋。全て揃っているのは外に出さなくても済むように、移動を最小限にするため、脱走させないため。
いつから私はこの部屋にいるのだろう、気づいたらこの部屋にいて、彼に世話されて、可愛がられて。それがあたりまえになっていた。最近はもっぱらこうして情を交わすことを求められている。さすがに寝ているときや調子が悪いときは求められないが。行為をするととても疲れるけど、彼に求められる以外にすることもない私にとって些末な疲労だし、なによりそうすると彼は喜ぶのでできるだけ答えようと思った。
いつもカーテンを閉めっぱなしの窓からうっすら光が入っている。まだ昼なんだろうなとぼんやりと考える。昔カーテンを開けたことがあるがそこには空が切り取られてるだけだった。何故かがっかりした覚えがあるが、私は何か探してたのだろうか。彼が来ない暇な時間時々ぼんやり眺めたこともあるが、ある日開けっぱなしにしていたら彼は苛々した様子で閉めた。そしてよくわからないことを聞いてきて、わからないという様子で戸惑っているとほっとしていたけど何故かすごく寂しそうな顔をしていたのでそれからカーテンを開けることは止めた。
一通り行為が終わって、私の髪を撫でていた彼に話しかける。
「あのね、こういうことするのは…」
「もしかして、どこか体の調子悪いの?それともこういうことするの嫌いになった?」
心配そうに私を見る彼に首をふる。
「するのが、嫌なんじゃなくて、まだ、お昼でしょう?」
なんとなく、昼間からこういうことをするのはなんだか良くない気がしたのだ。何故かわからないけれど。
「こういうことは夜にするものだと思うの、なんとなく、だけど。」
彼はしょんぼりとしていたけれど、暫く考えて
「わかった。夜だったらいいんだね?」
と聞いた。
「うん、ごめんね」
「謝らなくていいよ、大好きな君の滅多にないお願いだもの」
ちゅっと額にキスが落ちる。なんだかほっとしたのか眠くなってきた。
「それじゃあ、おやすみ」
目が覚めるとカーテンから光が消えていた。夜まで寝ていたらしい。それからまた彼が来てたくさん可愛がってもらった。そしてまた眠って、また夜に目が覚めた。昼間に寝る生活になってしまったんだなと思っていた。だけど、ある日窓の外から夜なのに鳥の声が聞こえた。時計もないこの部屋でその鳥の声が今朝なんだなぁと知る手段だった。なんとなく、嫌な予感がした。
ずっと開けていなかったカーテンをそっと開く。そこには真っ暗な“夜“が貼り付けられていた。