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それでも彼は勇者であり続けようとした

作者: からくり

ほう、そなたが女神より神勅を受けし勇者であるか。

ふむ、まだ幼き身でありながら、魔王を討たんとするその心意気大いに結構!


だが、1人では不安であろう。

そこでここにおる騎士長をそなたの旅の共に付けよう。

なぁに、実力は折り紙付きよ。


それでは良い報せを待っておるぞ。






……まさか勇者がこんな幼いとは……

どうしました?

血が怖いのですか?


……ふむ……

あなたは勇者です。

これから先より多くの血を見ることでしょう。

より多くの血を流すことでしょう。

それでもあなたは先に進まなければなりません。

後ろを振り返ってはいけません。

決して。






勇者!

よくやりましたね。

1人であの巨大なオークを倒してしまうとは。

私は嬉しいですよ……


どうして泣いているのか……ですか?


嬉し涙と言うやつです。

血を見るのも怖かったあなたがここまで成長したのを見て嬉しいのですよ。






まさかとは思いますが……そこの賊を仲間にするつもりですか?

私は反対です。

仲間にするのならば戦士とか魔法使いとか……


……そうですよね。

あなたは1度言ったら意見を変えませんでしたね……

いいでしょう。

ただし、盗賊。

私の目が黒い内は盗みなんてさせませんからね。






……は、はは。

まさか……この私が……ヘマを、と、る……と、は……


あぁ……勇者……泣かないで。

まだ……幼い、あなたを……置いて、先、に……逝ってしまう、私をお許し……くだ、さい。


盗賊……任せま、したよ……


勇者……様、後ろを、振り返らないで。


決……し……て。






いつまで泣いてやがる。

あの騎士様が死んじまったのはお前の責任じゃねぇだろう。


……いいか、いいことを教えてやる。


悲しい時は上を見るんだ。

いいから見ろ。


何が見える?

そうだ、青い空だ。

お前の悲しみなんてあのでっかい空に比べりゃちっぽけなもんよ。

だが、忘れるな。


悲しい時は泣け。


怖い時は泣け。


悔しい時は泣け。


泣いて泣いて泣いて、


涙がかれちまうくらい泣いて、


そんで笑え。


大きな声で笑っちまえ。


誰かの目なんて気にすんな。


笑って笑って疲れるくらい笑って。


それから前を向けばいい。


そうだ、それでいい。






あのなぁ……流石に俺様が言うのはなんだが……ちょいとお人好し過ぎやしねぇか?

確かにこの嬢ちゃんは見たところ困ってる。

というか見た目でわかるくらいに困ってる。

だけどな?


理由も聞かずに助けようとするなよ……


わかったわかった……そんな目をすんな……


で?

嬢ちゃんはなんで泣いてんだ?






おう、勇者。

無事だったか。

ならよかった。

あん、俺様か?

無事に決まってんだろう。

天下の大盗賊様だぞ?

魔王直近の四天王くれぇなんだ。

丁度脇腹がかゆかったところだ。


あぁ、だからそんな目をすんな。

俺様はお前のその目に弱いんだよ。

ちょっとだけ永く眠るだけだ。

目を覚ましたらまた天下に名を馳せる大盗賊様の復活よ。


魔法使い、俺様の目が覚めるまで勇者を頼んだぜ?






勇者様……スッキリされましたか?

でしたら安心しました。

私は常にあなたのお側に。

ええ、あなたを1人にさせません。


どこまでも、どこまでも、あなたのそばに。


ですので、そんな泣きそうな顔をなさらないでください。

あの日私にかけて下さった言葉を覚えていらっしゃいますか?


泣きたい時は泣けばいい、と。


ですので、まだ涙が枯れないのであれば


思う存分泣いてくださいな。

ここには私しかおりません。


見えるのは木々とその隙間を縫うように星空がチラホラでございます。


私の胸で宜しければ思う存分泣いてくださいな。

もう……あなたの辛い顔を見たくありませんので。






た、助かりました……

見ず知らずの私たちを助けて頂けるとは……お優しい方なのですね。

どうなさいましたか、勇者様?

えぇ、この方を仲間にするのですか?


勇者様が宜しければ私に反論はございません。

あなたもよろしいのですか?

私たちはかの悪逆非道の魔王を打ち倒しにいくのですが……

そうですか、よろしいのですね。

では名をなんと申されますか?


戦士……


それではこれからよろしくお願いしますね、戦士。






あぁ……勇者様。

お約束をお守り致しませんで申し訳ありません。

私はどうやら……ここまでのようです。

ですが、魔王城は目と鼻の先。

ここからはお二人で頑張ってください。


私は四天王を1人でも多く道連れにしますので。


勇者様……そんな悲しそうな顔をなさらないで。

私は……幸せでした。

あなたと共に旅ができて。

あなたと共に色んなことを知れて。

あなたと共に色んな景色を見られて。


ですので、私は幸せなのですよ。


戦士、勇者様をくれぐれもよろしくお願いしますね。


最後に勇者様。


大好きでございました。






……あー……そのなんだ。

泣かれても困るが……泣かれねぇのも困る。

お前さんは確かに勇者だ。

だが、年端もいかねぇ少年が泣くことを我慢するんじゃあねぇよ。


大人だって悲しい時は泣くもんさ。


俺だって泣く。

魔法使いの嬢ちゃんがいなくなって1番泣きそうなのは俺だったからな。


何しろお前さんと魔法使いの嬢ちゃんに俺は救われた。

その恩を1つも返せねぇで、いなくなっちまった。

あとはお前さんだけだ。

俺は必ず勇者、お前を魔王の元に送り届ける。

安心しろ。


俺は強い。


必ずお前と共に魔王を倒してやるよ。


あぁ、約束する。

必ずだ。






ここが魔王城か……

中々におっかねぇなぁ。

うん、どうした?

いざ目の前にして怖くなったか?

ガハハハハハ!


そういう時はな、笑えばいいのだ!

笑ってりゃ怖さなんて無くなるし、怖いもん知らずだ!

俺は怖い時はいつだってそうしてきた。

だから、な。


勇者、お前も笑ってみろ。


そうだ、それでいい。


さぁ、行くぞ!

魔王を打ち倒しにいざ行かん!






あー……そのなんだ。

先に謝っとく。

すまねぇな、勇者。

俺、お前と一緒に魔王倒せねぇや。


だから……先に行ってろ!


そんな顔をすんな。

俺は必ず追いつく。

この魔物の群れを何とかしてな。

コイツらを何とかしねぇ限り、俺たちは常に背中に気を配らなきゃいけねぇ。

が、俺達がここで魔物を一々倒していたらキリがねぇ。


だからここは俺に任せろ。


お前の背中は俺が守る。

お前は魔王を倒すことだけに専念しろ。


必ず追いつく。

だから魔王を倒して待ってろ。






おお、勇者よ。

よくぞここまでたどり着いた。

よくぞここまで


仲間の屍を積み上げ歩いてきた。


褒めてやろう。


歴代の勇者の中でお前は最年少だ。

だが、この魔王がなぜお前より前の勇者を知っているか。

それは誰もこの魔王を打ち倒せていないからだ。


お喋りを楽しみたいところだが……そうはいかんようだな。


いいだろう。

その脆く積み上げた屍の上に新たにお前の屍を積んでやろうぞ。






「後ろを振り返らないで」


「泣きたい時は泣け。疲れるくらい泣いて笑って、前を向くんだ」


「勇者様、あなたのことが大好きでございました」


「お前の背中は俺が守る。必ず追いつくからな」


みんな、ありがとう。






くくく……くくくかかかか!


見事!

あぁ、見事ぞ、勇者よ!

よくぞ我を討ち滅ぼした!

よくぞ勇者を討ち滅ぼした!


この魔王は、この勇者はここで死ぬ事が出来る!


次はお前の番だ。


……お前たちと共に同じところに行きたかったが……どうにもそうはいかんようだな。

またどこかで……会おう。






おお、勇者よ!

よくぞ戻ってきた。

その様子だと魔王を討ち滅ぼしたのだな!

よくぞやってくれた!

だがな……勇者よ。

他国とのバランスというものがあるのは知っておるか?

我が国だけが勇者を保有するわけにはいかんのだよ。


なのでお前には選択肢が2つある。


ここで死ぬか。


それとも世界のために死ぬか。


さぁ、選ぶが良い。






「『僕』はかつて勇者だった。色んな人と出会って、旅をして、いくつもの出会いと別れがあって、それでも魔王を倒すために旅をして。ついに魔王を倒した。それでも世界はそれ以上を望んだ。


だから『僕』は泣いた。


戦士の身体はズタズタの状態で見つかった。決して後ろを振り返らず、前だけを見たまま立っていた。


『僕』は戦士のために泣いた。

そして涙が枯れつきたあとに笑った。

戦士のために笑った。

笑い疲れた頃、前を向いて歩き始めた。


魔法使いの身体は見つからなかった。

『僕』がかつてプレゼントしたネックレスだけ綺麗な状態で見つかった。

彼女は四天王全員を巻き込んで死んでしまった。

それでもネックレスだけは無事だった。


『僕』は魔法使いのために泣いた。


泣いて泣いて泣いて泣いて。


涙が枯れなかったからそのまま前を向いた。


盗賊の身体は下半身が消えていた。四天王の攻撃で消えた。『僕』を庇って。


だから泣き止まない『僕』は笑った。

泣きながら笑った。

笑いが止まらなかったのでそのまま前を向いた。


騎士のお墓は綺麗なまま見つかった。誰かが花を供えてくれたのだろうか。綺麗な花が置いてあった。


『僕』はそこで笑うことも泣くことも出来なかった。

騎士のために涙を流そうとしても、騎士との約束を守るために笑おうとしても、


出来なかった。」


見つけたぞ、魔王!

この俺が成敗してやる!


「その次は王の元へ行った。そしたら死ねと言われた。後ろを振り返ってはダメだって騎士に言われたけど、その時初めて約束を破った。みんなとの約束を破った。なるほど、後ろを振り返って魔王の言っていたことが初めてわかった」


覚悟しろ!


「俺はみんなの屍の上を歩いてきたんだなって」


『さぁ、勇者よ。この俺を打ち倒すことが出来るかな?』


それでも『僕』は前を向いていなくちゃいけない。

だって勇者なんだから。

ここまでお読みくださいましてありがとうございます。


ファンタ……ジー?ってなんだっけ?

と書きながら思いました。

元々ファンタジーっぽいのを書こうとしたものがこちらです。


なんだこれ?


最後の方とかなんだこれって思いながら書いていました。

まぁ……こんな物語もたまにはいいでしょう、多分。

ちょっと暗めな物語でしたが、いかがでしたか?


書きたいものを書いてみたらこの結果なのです、はい。


それではまたどこかで。


5/4追記

もしも……もしも、地の文ありで読みたい方がいらっしゃれば感想まで

ここまで評価されるとは思ってもみなかったので……

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[一言] 心が……揺さぶられますねぇ
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