Restart
俺が現実世界に帰ってきてはや一週間。亀やフォルテは元気しているだろうか。こっちの世界の俺は掃除当番に案の定余ってしまい一人の男子生徒と組むことになってしまった。その男子とは俺の眼の前に座る原田という男だ。俺が言うのもなんだが変わり者であるに違いない。こうして図書館にいる今も小説片手にお茶を飲む現代の高校生あるまじき行為だろう。自然と俺は原田をそういう目で見てしまう。
『なぁ鬼頭、あぁ鬼頭と呼ばせてもらうよ。俺の事を詳しく教えよう。
俺は実を言うと元はあちらの世界の人間だ。あっちの世界ではマレーロという名だった。こちらの世界に来たのは二年ほど前のことだがな。あちらの世界ではセレジアという師匠と共にいろんな世界の時間を管理する仕事をしていた。まぁお前は何も知らない、いやお前以外のやつもきっと知らないだろうが少しばかりまずいことがあってな。こちらとあちらの世界の時間のズレは感じていると思うが俺があっちの世界にいるときはズレなんてなかったんだ。ある日いつもの様に世界の時間を管理していた時にブリッツと名乗る一人の男に職場を荒らされてしまってこちらの世界の砂時計を奪われてしまったんだ。それを機に今俺たちがいる世界との時間にズレが生じてしまったんだ。
このままではいけないって訳でセレジアの師匠に言われてこの時間のズレちまった現実世界に来た訳だが戻り方は分からんし直す方法も分からん。そんな時に鬼頭を見てピンと来たって事だ。』
なんだかすごい話だな。そんな事亀からも何も言われてないぞ。原田の言うことが本当だとすればそれは良くない状態だ。しかし原田が俺に声を掛けた事と時間のズレの原因はわかったが、だからと言ってどうすれば良いのだ。原田が長々と話した事を整理しようと図書館の文庫本一冊を近くの本棚へ取りに行き適当な本の適当なページを開いた。
その時だった。
『その話は本当ですかなぁ!お久しぶりでございます鬼頭様。忘れてはないですか私です亀のクロードです!時間についても詳しく聞きたいですが、鬼頭様!一ヶ月も顔を見せないなんてどれだけ寂しかったことか!私は感激です!』
おい、近づくな。涙を流すな。亀が涙流すのは卵産むときだけで充分だ。俺にとっては一週間ぶりの亀のことを懐かしいとも思ったがどこから湧いて出やがったこの亀。異世界への扉はどうやらどこでもいいらしい。
『おい鬼頭、この亀はなんだ。そうかお前の知り合いみたいだな。なら丁度いい。おい亀、あんたも俺の頼みを聞いてくれないか。』
原田があっちの世界の人間とはいえ喋る亀というのは不思議に思わないのか。おれの疑問などには耳を向けずに原田は俺と亀に話を始める。
『俺が今回あんたらに頼みたい事はさっき話したブリッツという男からこの世界の砂時計を奪い返して欲しいんだ。ブリッツという男について俺はよく知らないがおそらく師匠ならわかるはずだ。まずはあちらの世界にいったら王都バッドラックから西へ進んだ所にシーコンという街がある。そこにいるセレジア師匠の所へ訪ねてくれ。マレーロという俺の名前を出せばきっとわかるはずだ。よろしく頼む』
訳の分からん事に巻き込まれそうな気がする。まぁこんなにめんどくさい事亀の奴がしっかり聞いてるわけもないし。亀の事だ、きっと鼻ちょうちんを膨らませて居眠りしてるに違いない。そう思い俺が横を見るといままで見せたこともない真剣なまなざしで原田の話を聞き任せなさいと言わんばかりの雰囲気を漂わせている。
『原田様とやら!お任せなさい!』
ほら言った。おい、言ってやりましたみたいな顔するのやめろ。どうせ解決するのは俺だろ。ここにもう一人のやんちゃ娘がいなくて心底よかったと思う。勝手に話を進めているが今は学校の昼休み中で三日で十日の異世界になんていったら今度こそ捜索願いを警察に出されるかもしれない。俺は原田を刺激しないように助けたいのは山々だが時間のズレがある以上あっちの世界に行く事はできないと伝えた。すると原田は心配はないと答えさらに続けた。
『時間のズレに関する鬼頭の学校生活の心配はいらない。前にも言ったように俺も異能力者だ。その能力は『時は金なり』この力は時間を調整することができる力だ。この力で鬼頭があっちの世界に行ってる間の現実世界は俺がなんとかしよう。それに俺のいつも読んでる小説はあちらの世界の状況をいつでも観れる、まぁ言わば覗き見カメラみたいなものだ。俺も鬼頭たちの行動を見守らせてもらうよ』
時間のズレがないんだったら仕方ないな。面倒だがこれが解決すればあっちの世界にも行きやすいし少しは色んなことを知ることができるかもしれない。わかった、引き受けよう。こちらの世界の学校生活は頼むと俺が言うと、任せろと原田は黙って首を縦にうなずいた。俺にとっては一週間振りの異世界。ブリッツという男から現実世界の砂時計を取り返す為、亀とフォルテの二人を加えていつもの三人での異世界生活がリスタートする。
『今回の問題は色々と大変そうですな鬼頭様。私たちの力でなんとか取り戻しましょう。それでは行きますよ。異世界へゴー!』
こうして俺の現実世界はひとまず休憩時間に入り異世界ライフはまた始まりを告げるのであった。