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異世界ライフ!  作者: 白告ハリ
第1部
7/11

一期一会

朝日が眩しい。そう思って目を覚ます。至って普通の日常。この世界での日々がなんとなく不思議に思わなくなってきた。フォルテが起こしに来る。亀の奴が新聞を読んでいる。人間は適応力が高いもので二日前であれば驚いていた事がまるでいつも通りの事だと感じる。人間はこうして進化をしてきたのだと改めて確信する。なぜこんな事を冒頭から話をするのかと言うといきなりではあるがこの世界に来て三日、俺もそろそろ現実世界に帰ろうと思うのだ。いや、帰ろうではない。帰りたいのだ。この事はまだ誰にも話してはいない。それに時間の流れが違うとはいえあまりに帰りが遅いと、家族だけではない俺の少ない友人達も心配するだろう。ただこの世界が嫌になって帰りたいわけではない。もちろんこの世界に来たばかりの頃はそう思っていたが、馬鹿な事を言いながらも俺にいつも構ってくれてこの世界の事を俺に教えてくれた亀のクロード。時には天然でツッコミどころ満載だけど俺に対して常に友好的なフォルテ。その他にもこの世界で出会った全ての人や全ての出来事を考えるとこの世界が惜しいとも思う。たかが三日だ。でも俺にとって長く重く今までとは比べ物にならないほどに充実した三日だ。こうしている間もこの世界での三日目が始まっている。きっと今までの俺なら早く俺を元の世界に帰すようにと文句の一つも言えただろうが、簡単にこの世界と縁を切ってしまって良いのかともう一人の自分が問いかける。俺は早く二人に思いを伝えたい。だがしかし、それがこの世界との永遠の別れにもなりそうで怖いというのが本心だ。

『鬼頭さん?鬼頭さんってばぁ?!』

フォルテか。何か俺に言っていたのか。全く気がつかなかった。俺はここまでの気持ちをぐっと抑えてフォルテの声に耳を傾ける。

『もー、しっかりしてくださいよぅ。それじゃ!今日はどうしましょうか?買い物ですか?さんぽですか?それともまたどこかの調査ですか?!あ!ごめんなさい。はしゃぎ過ぎました。で、どうしますぅ?!』

フォルテは相変わらずどんな事にも張り切っている。俺がこの世界を楽しいとか惜しいと思えるようになったのはフォルテの存在が大きいことは確かだ。

『まぁ落ち着きなさいませ。フォルテ様。二日続けての調査は流石に体を壊しかねません。今日は町の清掃依頼へ行きませんか』

フォルテは大きくうなずく。亀が確認に俺の方を見る。俺は亀に親指を立ててサインを送った。


三人で近くの町の清掃へ出かける。何気ないこんな事が恥ずかしながら寂しいと思ってしまう。現実世界では十五分の学校の愛校作業も全くやる気が無く、早く終われと思っていた俺が二時間という町の清掃を終わらなければ良いと思った。俺の袋にだけ一向にゴミがたまらない。清掃に気が入らない。清掃がしたくないとかやりたくないとかそういう感情では無く、なんとも言葉に言い表せない気持ちでお腹がいっぱいになる。何度も『帰りたい』この五文字を言おうと思うが二人を傷つけるのではないか、もう二度と会えないのではないかと思うと言葉が急に出なくなる。二時間という清掃は思っていたよりもあっという間だった。

『お疲れ様でした。鬼頭様、フォルテ様。人の役に立つ、これは非常に気持ちがいいですねぇ。これからも三人で頑張りましょう。』

亀の言うこと一つ一つに体が重くなる。我慢できずに俺は言葉を発した。

『悪いな。少し一人にさせてくれないか。』


俺はこの場を逃げる様に立ち去った。別にどこへ行くというあてもなくとりあえず河原に座った。ただただ二人といるのが辛かった。俺の中で何度も何度も帰りたい自分と帰りたくない自分が争っている。馬鹿馬鹿しいがあいつらと過ごした三日はそのくらい充実したものだったのだ。どうすればいいのか。

『何を悩んでおられるか。若者。』

誰だ一体。今の俺は変なキャラにツッコムほどの元気はない。

『誰だあなたはみたいな顔してますな。わかりませんか私ですよ。ソウテツです。鬼頭さんの姿が見えたので声を掛けてみたらなんだか情けない顔をして。らしくありませんよ』

俺はソウテツに全てを打ち明けた。ソウテツに打ち明けるほどに俺は弱っていたのかもしれない。

『なるほど。よく分かりました。鬼頭さんにとってもクロードさんやフォルテさんにとっても奇跡といっていいくらいの出会いでしょう。私はそう思います。そんな出会いの中心にいたのは何を隠そう、鬼頭さんあなたではないですか。鬼頭さん、困った時は直感で動きなさい。その時その場所にいるあなたのその感情や考えがきっと正しい判断です。それにあなたの判断をあの二人が反対するとお思いですか。あなたのお仲間を信じてください。そしてあなた自身を信じてください。旅路の僧侶が出過ぎた真似をして申し訳ない。』

ソウテツの言う事は説得力がある事は俺も分かっているしなんだかうまいこと乗せられてる様な気もするが、ここは自分の正直な気持ちに乗って見るとしよう。

『ああ。ほんとに余計なお節介だ。まぁ世話になったな。あんたも頑張れよ。』

『感謝します。しかし今は僧侶はやめて地区の子ども達にフォークダンスを教えています。いやー、町外れの集落に大きな施設がありましてね。今はフォースダンスの資格を活かしてそちらに没頭してるんです。』

お前、ブレブレじゃねーか。僧侶がフォークダンスって。想像したら笑えるかもな。少しの薄ら笑いを浮かべながらソウテツとは別れ二人のもとに帰った。俺は二人に向かって真剣に思いを伝えた。意外と亀の奴は驚かなかった。

『そうですよね鬼頭様。よろしい。今すぐお送りしましょう。ただ気をつけてください。こちらとあちらの時間は違うので最初は戸惑うかもしれません。それと私はいつでも近くで鬼頭様を見守っています。鬼頭様もお元気で。それにまたお迎えに必ず伺います。また近いうちに会えますよ』

『私もクロードさんと一緒に鬼頭さんの応援します!暖かく見守ってます!』

亀とフォルテにそう言われて俺は安心した。なんだか今までの悩みは嘘の様になくなった。ありがとう。また会おう。

『鬼頭様。参りますよ。あちらの世界に着いたら私はいませんからここでお別れです。それでは現実世界へゴー!』


………………………………


少し寒い。日は沈んでいる。夕方か。確か昼休みに亀と出会ったから五時間ほど経ったのか。

『鬼頭!どこに行ってたんだ!心配したぞ。みんなお前を探したし親御さんだってどれだけ安否が気になったことか。』

何の話だ。安否?心配?まるで行方不明みたいな事を言われても大げさだぞ。

『俺が言いすぎたのかもしれないな。悪かった。これから気をつけるよ。だから失踪とかするのはやめてくれ。お前のいなかったこの十日間、俺だって相当心配したんだ。』

なんだと。十日間だと。まさか!あっちの世界の方が時間の流れが遅い。つまり現実世界の方が時間の流れが早い。とんでもない勘違いをしていた。ん、なんだこれは。俺の胸ポケットから一枚のメモが落ちてきた。


『鬼頭様へ。時間の流れ違ったでしょう(笑)

元気にお過ごしくださいねぇ。では!』


あのクソ亀やろー!!!!

現実世界に戻ってきたが最初から最後まで亀に振り回された。まぁ俺はこっちの世界でもう少し頑張ってみようかな。とりあえずあの二人にまた会うまでは。


あ!これ最終回じゃないですよ!次回もお楽しみに!

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