異世界で人助け?(後編)
まずは知名度を上げることだと亀の奴に言われて掲示板を拝見したところその中の依頼をフォルテに勝手に決められ、その依頼主の僧侶であるソウテツに上手いこと乗せられて森林にある寺院の調査をすることになってしまった。まだ気分は乗らないが調査に出発した。
『ソウテツさん!おやつは200エレス以内にしておきました!』
おい。なんで遠足気分なんだ。そしてなぜソウテツに確認を取るんだ。
『フォルテ様。遊びに来てるわけでは無いのですよ。これだから子供は困りますよ』
おい亀。甲羅の隙間からUNOがはみ出してるぞ。なんでUNO。この世界でもUNOって人気なのか。誰が広めたんだよ。俺の仲間は相変わらず騒がしいが依頼主のソウテツは緊張感のある顔つきだ。ソウテツによると距離はそう遠く無いと言う。
『さぁ皆さん。そろそろ到着します。万に一つの場合は武力行使もやむを得ません。その時はよろしくお願いします。』
いや、幽霊相手にどうしろと言うんだ。むしろ僧侶のあんたがお経でも読んでくれよ。
『ちなみに私はお経は読めませんので。あ、これですか。この数珠はこの寺院に来た時に落ちてたので拾ったものです。』
落ちてたからって拾うなよ。その幽霊、おそらくその数珠が関係してるんじゃ無いのか。そんなことを思いながら俺たち三人は寺院の調査を始めた。至る所を調べてみたが怪しい人影はない。亀とフォルテに関しては調査ではなく完全に肝試しになっている。
『ソウテツさん。特に問題はありませんよ。あのバカ二人はおいといて俺が見た限りは異常ないですよ。』
そう言うと亀とフォルテも帰ってきた。二人も特に変わった事は無いと言う。しかしなんだかフォルテの様子がおかしい。
『見てください!この三角!なんか可愛くないですか。それに赤い字でマートンて書いてありますよ。とりあえず頭につけたりなんかして!』
おい。フォルテ。三角の落し物なんていまどき聞いたことないぞ。予想は出来るだろうがこの三角おそらく幽霊のものだろう。嫌な予感しかしない。
『…何者だぁ。私の私有地を荒らすものは……』
背後から声が聞こえる。振り向きたくない。白告先生振り向かなくてもいいですか。( 俺は心臓バクバクで振り向いた。そこに居るのは半透明、白装束に足は無い。見るからにTHE幽霊である。ソウテツとフォルテは平気そうな顔をしているが俺には怖すぎる。ん、亀も震えているのか。
『鬼頭様!目を合わせてはいけません。落ち着くのです!そうだ!死んだフリです。とりあえず死んだフリです!』
亀は有るのか無いのかもわからない足をガクガクさせながらうつ伏せになり言った。
『そもそも幽霊に死んだフリって通用すんのかぁぁ!死んでんのあっちだからね。あっちが本職だからね!』
久しぶりにしっかりツッコミをした気がする。フォルテだけが始めて見る幽霊にテンションが上がっている。怪しげに幽霊が口を開く
『私の名はマートン・レイ。貴様らもしや私が一年をかけて計画した、王都全焼計画を止めに来たのでは有るまいな。』
間髪入れずにフォルテが言う。
『そんな計画知らないし、そんなつもり全くないよ!本当だよ!』
確かにその通りだ。そんな理由で来たわけではない。
『なに?そうなのか。それなら構わない。気をつけて帰れよ。それと小娘。その三角を置いていけ。』
『はぁい。どうぞ!』
一件落着みたいな雰囲気はなんだ。なにもなかったみたいな。あ、そうだ。肝心な事を言ってなかった。
『おい!マートンとかいう幽霊!王都全焼計画だと。そんなことさせないぞ。一体なにを考えてやがる。その野望俺たちが止める!』
久しぶりに主人公らしい事を言った気がする。
『貴様、何故その事を!この計画は失敗できん。悪い、恨みはないがここで命をもらうぞ』
やはりこの物語に出て来る奴は馬鹿ばっかりだ。しかし、こうなった以上こいつを倒すしかない。倒すって言ったって俺は普通の高校生だぞ。二人で倒そう。
『フォルテ!二人でこいつを倒すぞ。なぁに俺とフォルテが組めばきっとなんとかなるさ。』
フォルテがうなずく。俺は念の為装備しておいたハンドガンで遠距離攻撃フォルテは一本の刀を持って奴に向かっていった。
『異能力。好きこそ物の上手なれ。食らうがいいです!』
フォルテは刀を鋭く振り下ろした。
『かかって来なさい。私に攻撃を当てれるものなら。異能力!骨折り損のくたびれ儲け!』
やったか。俺のハンドガンはともかくフォルテの攻撃が外れるわけ無い。何故だ。奴はピンピンしている。当たっていないのか。そう考えている間にもフォルテの手は止まらない。奴めがけて刀を何回も振り下ろしている。しかし奴に効いている様には見えない。
『この程度か。つまらん。おい、小娘。お前は後で遊んでやる。先にあっちの小僧と戯れて来るとするか』
やばい。半透明がくる。三角が来る。おい、フォルテ。了解です、みたいな顔してんじゃねー。普通物語の主人公であればなんとかなるのだが俺はそうじゃない。二話ぶりにボッコボコに殴られる。痛い。どうする。何か手はないか。やばい、今回は殺されるかもしれない。その時だった。あの時と同じだ。前に異能力を出した時と同じ感覚に襲われた。
『異能力!諸刃の剣!』
俺は幽霊の奴に頭突きをくらわせた。
『こいつも異能力を使えるのか。面倒だな。お前は後だ。先にあっちの小娘を殺る。』
ダメだ、全く奴には効いてない。俺はここまでだ。頭がガンガンする。とても動けそうにない。立つこともできないほどに体が重くなった。諸刃の剣。反動の大きい能力みたいだ。ところで亀とソウテツの二人はどこだ。俺がこんな状況なのに。
『鬼頭様!どうかしっかりしてくだされ!ソウテツ様、読めなくても構いません!どうかお経を読んであげて下さい!』
おい、亀ヤロー。勝手に殺すな。ただ体が動かないだけだ。そしてソウテツ。なんだかよくわからない罰当たりなお経を読むのはやめろ。それなのに数珠や木魚といったいわゆるお経セットだけは一丁前に持ちやがって。そんなことより、奴は。マートンは。フォルテが危ない。いや。幽霊の奴の様子がおかしい。動きが止まったのか。頭を抱えている。苦しんでいる。まさかこのクソみたいなお経が効いてるのか。いやいや。そんなわけない。あんなに強かったのに、死者特有のあるあるみたいなオチは読者にも申し訳ないぞ。しかし苦しんでいるのは事実だ。なんか言っているぞ。
『どういう事だ。体が重い。むしろ軽い。苦しいが快楽にも襲われている様な。このままではいかん!異能力発動!……ダメだ物理攻撃しか能力が働かん!まずいぞ!』
一人で苦しんでやがる。しかしソウテツのふざけたお経じゃ苦しめるだけで倒すまではいかない。誰かいないのかお経読める奴は。いる。一人いる。俺は残った力を振り絞り呼びかけた。
『フォルテ!ソウテツの木魚と数珠を使ってお前の異能力で完璧のお経を読め!』
フォルテがうなずく。口にポテチをつけて。後で説教が必要だ。フォルテが木魚と数珠をソウテツから預かる。
『よせ!これ以上はやめろ!計画は中止する!だからやめてくれぇぇぇ!』
フォルテの周りにオーラが漂う。
『異能力。好きこそ物の上手なれ!』
フォルテの異能力の力で完璧なお経が響く。幽霊のマートンはだんだんと消えていく。終わってみればあっけなかった。俺たちは勝ったのか。マートンとかいう幽霊は消え、横に座っている亀とソウテツが驚くほどに喜んでいるのが見える。フォルテが泣きながら俺のもとに走ってくる。薄れゆく意識の中でこの仲間と巡り会えた事に幸せを感じていた。ここからの記憶はあまり覚えていない。おそらく気を失ったのだろう。俺が目を覚ましたのは一件が終わりフォルテが用意してくれた宿屋での事だ。幽霊を退治した後俺は気を失いここまで運ばれたそうだ。それから亀が言うには寺院にはそれ以降変な噂はないと言う。またソウテツは僧侶らしくお経や作法を学びに旅に出たそうだ。フォルテも特に異常はなくいつもと変わりない。異世界生活2日目はとてつもなく疲れたけれど悪くはない一日だった。
『目覚めましたか。鬼頭様。なんとか一件落着ですね。本当に無事で良かったです。』
珍しく亀の奴が優しい。
『これで俺の知名度もだいぶ上がっただろ。』
目的も果たすことができたしこれ以上言う事はない。
『あのー、非常に申し訳ないですが。一件落着でもないんです。実はあの一件の後街の住人が寺院で気色悪いお経が聞こえるとか傷だらけの鬼頭様が倒れていたとか言う噂が広まりましてね。私達一行、と言うよりも鬼頭様が完全にやばい奴みたいなイメージが根付いてしまいました。こればっかりはどうしようもなく。まぁ知名度は最高水準ですからよかったですね。ハハハハ。』
この世界でもやっぱりいい事はない。そろそろ元の世界に帰りたいものだ。でもとりあえず今の状況に一言いいたい。
『ふざけんじゃねぇぇぇぇぇ!!』