異世界で人助け?(前編)
起きてください!鬼頭さん!朝ですよ。』
フォルテの声が聞こえる。なんだか妹に起こされてるようで悪い気はしない。しかしまだ眠い。あと五分だけ。ゴロゴロさせて欲しい。
『鬼頭さん!もう、五分で何ができるですかぁ。往生際がわるいですよぅ。』
『コラコラ。フォルテ様。鬼頭様は疲れておるのです。それに女性のフォルテ様はわからないでしょうが鬼頭様はその五分で朝立ちの処理をするんですよ』
もう聞いてられない。身体が先に動いた。
『さーておはよ!みんな出かける準備しよーぜ!ハハハハハ!』
亀ヤローまた訳の分からん事を。すると亀は勝ち誇った顔で言う。
『フォルテ様。こうやって起こすのですよ』
してやられた。どうにも俺はこいつに勝てる気がしない。亀の奴相手には俺はいつも後手後手だ。異世界生活二日目今日も騒がしく幕を開けた。
フォルテの用意してくれた宿屋から出てみたものの俺はこの世界に関しての知識や情報はゼロだ。どちらにしてもなんて名前だったかそう、クロードだ。奴に案内をしてもらわなければならない。亀のあいつが言うにはこの俺の街での知名度を低い事が理由でザーコのようないわゆるチンピラに絡まれてしまうらしい。まずは鬼頭恵介という名前をたくさんの住人に知ってもらう事が第一だという。
『何にしてもまずは人助けですよ鬼頭様。街の 掲示板を見に行きましょう。困っている人からの依頼が必ずあるはずです』
そもそもこの世界に来たのは俺のストレス発散じゃなかったか。人助けをしに来たわけではない気もするがせっかくの異世界ライフだ。出来ることはやっておこう。亀に案内されて街の掲示板に到着した。そこには催しの手伝いといった雑用や薬草等の探索の依頼が壁一面に貼られていた。俺の横で明らかにテンションが上がっている人がいる。フォルテだ。目をキラキラと輝かせている。なんだか嫌な予感しかしない。
『街近くの巨大樹の森林にある寺院にて怪しい人影を見た。一体何なのか調査せよ。鬼頭さん!これにしましょう!なんか面白そうですし!』
それを聞いた俺が返事をするまでは一瞬のはずだがフォルテは調査依頼にサインをしてした。霊的な者だったらどうすんだよ。俺なんてお化け屋敷でさえ入ったことないぞ。内心ビクビクしながら依頼主の僧侶の家に向かった。その道中、フォルテのテンションの上がり方にとてつもない疑問を感じたが俺のいた世界のこの年頃の女の子は幽霊にもインスタ映えとか言ってネットにあげるくらいだから不思議ではないか。そう思うことにした。そんな事を考えているとあっという間に依頼主のその僧侶の家に到着した。ちなみに僧侶と住職の違いはご存知だろうか。僧侶とは出家して仏道を修行する人の事であり、住職とは寺の長である僧の事を言う。
『ところで知ってますかな、フォルテ様。住職と僧侶の違いを。住職とは寺の長である僧の事で僧侶とは出家して仏道を修行する人の事を言うのですよ』
亀の奴が勝ち顔で言う。残念だったな今回は俺の方が先手を取ったぞ。自然と俺にも笑みがこぼれた。そんな時だ。呆れたようにフォルテが口を開く。
『鬼頭さんもクロードさんも自己満足してますけどぉ。同じ文章を書くこの作品の作者の身にもなった方がいいですよぅ。』
俺と亀は赤面した。これはフォルテに一本取られた。きっとこの作品の作者はフォルテを重宝するに違いない。
『こんにちは皆様。私が依頼主の僧侶。名をソウテツと申します。早速ですが詳しい話をお話します。どうぞこちらへ。』
依頼主のソウテツにそう言われて畳広がる座敷に招かれた。ソウテツは俺たちを座らせてお茶を出してくれた。そしておもむろに口を開く。
『私が問題の巨大樹の森林にある寺院に毎日の日課である散歩に行った時のことです。日が沈みそうだったので帰ろうかなぁと思ったんですが。何か視線を感じて見回してみたらいままで誰もいなかった寺院に怪しい人影が見えたんですよ。まぁ幽霊ではないでしょうけど、たしか半透明で白装束で頭に三角つけてましたよ。わたしも年ですから是非みなさんに調査してもらいたいと思うのです。よろしくお願いします。』
簡単に言うが俺たちは霊媒師でも無ければ自衛隊といった武装組織でもない。いるのはなんだかよくわからない亀一匹と好奇心旺盛な女の子と至って普通の男子高校生だけだぞ。このメンバーで一体何が出来ると言うんだ。第一僧侶だろ。お経くらい読めるだろう。
『半透明はまぁ許せるとして。白装束でしかも頭に三角を付けてたらそれはもう幽霊しかないですよ。幽霊相手に何をすればいいんですか。その辺のこともしっかりと教えてください』
分からないことは聞かなければいけない。そもそも知らない事だらけの世界に幽霊なんてついてないにもほどがある。
『鬼頭さん。頭はね考える為にあるのです。その頭は帽子をかぶる為の頭ですか。違うでしょ、まずは考えなさい。』
おい。なんでこっちが怒られなきゃならないんだ。それに亀のお前と俺より年下のフォルテがなんで目を輝かせて話聞いてんだ。馬鹿にされてんの。今から助ける奴に俺たちは馬鹿にされてんの。
『いいですか皆さん。出来ないんじゃないんです、知らないだけです。知らないなら学びましょう。人間はそうやって進化をしてきたではありませんか!さぁ向かいましょう』
上手いこと乗せようとしてるようだがそうはいかないぞ。なぁみんな。って、おい亀。なんで泣いてるんだ。おいフォルテなんでメモ取ってんだ。ああ、そうだった俺の仲間は馬鹿ばっかりだった。
『その通りです。私は人間ではありませんが必ず退治してみせます。ね!フォルテ様。』
『はい!絶対にやってみせますぅ。幽霊だろうがなんだろうがかかってこいですぅ!』
とても断れるような雰囲気では無くなってしまった。それにソウテツというこの僧侶の言う事は悔しいが正論だ。何を言ってもその言い回しや説得力で論破される気がしてならない。今すぐにでも出発しそうなのでせめて一時間後という要求は飲んでもらった。依頼主よりも仲間が張り切っているのはおかしな気もするし第一仲間に要求するのは筋違いだし、そもそも俺がリーダーのはずなのに。はぁこの話次回にまたぐのか。異世界ライフ2日目、最初の人助けはめんどくさくなる事間違いない。いや、別に幽霊が怖いとかそういう事じゃなくて。本当に。そんな事を思いながら自ら要求した一時間という準備時間を過ごすことにした。