たまにはこんな日があっても良い。
異世界生活1日目にしてはやくも牢屋の中にいる俺、主人公鬼頭恵介。現行犯で捕まってから1時間。ドラマのような脱走劇など出来るとはとても思えない牢屋の中にいた俺は現在、警察官により10分ほど北に進んだ所にある防音対策の整う取調室で暴行事件の犯人として取り調べを受けている。
『さっきからも言ってるけどぉ。絡まれたのは俺で、まぁやり過ぎたとは思うけど。別に一方的に殴ったわけじゃないんだって!それにあいつらが無一文の俺に30万エレスなんて言ったんですよ!そんな大金ないですよ』
なんだろう警察官がすごくバカにしている気がする。目が完全にバカにしている。目でバカにする奴が一番嫌いだ。いっそのことバカと言ってもらった方がまだましな気がする。いずれにしろ逮捕さえされていなければとりあえず張り倒しているだろう。その時警察官が口を開く 。
『腹減ってるんだろ。ほらこれ食べて吐いた方がいいぞ。この辺で人気のカプチュラス丼だ』
カプチュラス丼。こっちの世界ではこんなものが人気なのか。いやいや。カツ丼みたいなのりで机の上に出されても食べれるのか。まず頭がカマキリ、身体がネズミくらいの動物なんて見たことがない。食べて吐けだと、別のものを吐くわ。吐く違いも甚だしいわ。一人でツッコミを入れていた時、警察官に一本の無線が入る。
『了解。おい、面会だ。なんだか亀らしいぞ。』
やっと来たかクソ亀が。遅いにもほどがあるぞ。ブツブツ言いながら面会室まで辿り着いた俺の前に小憎たらしい亀が座っていた。
『申し訳ない鬼頭様。お迎えに来ました。はい。説明した所、釈放だそうです。良かったですね。私がいて。』
敢えて文句は言わない。俺も少しは大人になろう。亀に聞く。
『ところで1日過ごしちまったけどあっちの世界じゃ俺がいないわけだよな。大丈夫なのか?』現実世界では今頃行方不明になっていないだろうか。
『なぁに心配はご無用です。なんせこちらとあちらでは時間の流れが違いますから。なにも気にすることはありません。』
なるほど。亀が説明してくれたこともありなんとか牢からは出ることが出来た。自由の身になり亀と街を歩いていると。一人の女が目の前に現れる。背丈は俺よりも小さいし俗に言う華奢なイメージだ。しかし顔は小さいが筋力はありそうだ。とても悪い奴には見えないし、軽装で戦うようには思えない。
『先日の戦いぶりは見事でした。皆は気づいていないでしょうがあの特殊能力は持って生まれた才能でしょう。早速ですが……』
彼女が話しているその時だ。どこかで聞いたことのある声がする。
『ガキ、この前はやってくれたな。死ぬ覚悟はできてんだろーなぁ。』
ザーコ。お前みたいなキャラが2度もでれるなんて作者に感謝しろよ。それに前歯折れてんじゃねーか。隙間から息漏れて臭いんだよ。モンダミンで口洗えや馬鹿野郎。それにしてもまずい。今日も相変わらずボールペンしか持ってない。俺は彼女に下がるように言ったが、彼女は聞かずに横の鍛冶屋の試供品である刀を取りフラフラしながら構える。
俺は彼女を必死で止める。
『危ないから俺の後ろに。』
しかし彼女は下がらない。下がったのはバカ亀だけだ。甲羅にでもはいってろ。
『心配はありませんよ。鬼頭さん。私はなんの武器も使えませんが、どんな武器も扱えます。それに戦うこと自体は大好きです。まぁ見ててくださいね。』
ザーコたちが襲ってくる。しかし彼女は怯えることなく刀を見つめる。
『異能力。好きこそ物の上手なれ』
次の瞬間彼女がそう呟くと今までの彼女の震えは止まり、目にもとまらぬ速さでザーコ一派を叩き斬った。叩き斬ったと言っても殺したわけではなく全て峰打ちだった。いきなり戦闘力が上がったそんな気がした。その驚きのあまり足が動かなかった。
『今のは一体。君は何者なんだ。』
彼女は少し微笑みながら答えた。
『今のはあなたと同じく私の異能力。私の力はどんな武器でも扱うことができるという能力よ。まぁそれ以外は対してなにもできないからむしろマイナスね。おっと。遅れてごめんなさい。私の名はフォルテ・イザベル。フォルテと呼んで。鬼頭さん。私を仲間にしてもらえませんか。鬼頭さんのような能力を使える人を待っていたのです。』
彼女のその瞳が嘘をついているようには見えなかった。亀と二人のパーティよりも女子が加わった方が見栄えもするし第一可愛いではないか。俺は即答でイエスと答えた。特に断る理由がなかった。正直そんなところだ。そんな時ここぞとばかりあいつが口を開く。
『そういうことでしたら自己紹介と参りましょう。私は亀です。まぁこの際名前もお教えいたしましょう。私はクロード・ペニセッタ。以後よろしく頼みます。』
俺でさえ聞いたことなかった亀の名前はなんだか普通だった。いや待て、亀がクロードって名前なだけで不思議か。この世界に来てから俺の常識はズレてばかりだ。とにもかくにも一人の女の子と変わり者の亀、冴えない高校生男子の三人が仲間となったわけだ。主人公がもう少し花があれば良いかもしれないが、世の中そう簡単にはいかない。確か中西の奴がそう言っていた気がする。
『よし。鬼頭さま。フォルテさま。これからよろしくです。このクロードについて来なされ。』
亀が主人公面をしているが今日の所はまぁいいか。異世界に来て始めていい日だと思えた。これからの俺の異世界ライフ充実してるに違いない。