馬鹿野郎どもに天罰を
不信感100%の亀から訳の分からない世界へと招待され言われるがままについていく俺だが。
『おい!何分歩いたと思ってんだ?まだ20メートルも進んでねぇぞ!』
『静かにしてくだされ。そうは言ってもあまり他人には気づかれたくないのですよ。それに私は亀ですぞ。早く歩くなんてことできるとお思いですか』
今のいままで二足歩行してた奴が言うセリフではない。喋ってる時点で亀の常識をはるかに超えている。45分をかけて二階の教室から生徒玄関までたどり着いた。亀の言う俺にぴったりな世界。いわゆる異世界というのは一体どうやっていくのだろーか。上履きから27センチのボロボロになったローファーに履き替えた所で亀は急に立ち上がって言った。
『さてここからは急ぎますぞ。あまり時間はかけられませんからね。なぁに気にすることはないです。だって私は鬼頭様にしか見えてはいませんからね。ハハハハハ。久し振りに亀に戻った気分でしたよー』
『俺にしか見えてねぇんだな。だったら最初から急げやぁぁぁぁ!俺の45分を返せぇぇぇ!』
全くこいつは俺をキレさせるポイントが絶妙に上手い。
『行きますぞ。なぁにここからそう遠くはありません。亀で言うと三万歩くらいでしょうねぇ』
わかりづらいわ。まぁいずれにしろ異世界の入り口までに時間はかかりそうにないことだけはわかった気がする。生徒玄関を足早に去って校門へ向けて先程よりは少し急ぎ足で進んだ。その途中にタバコをやめたと噂の担任の中西が最近愛用しているアイコスが充電されておらずよそよそしく体育館横の喫煙所から出てきた事は物語の進行上あまり関係はない。5分もかからず校門に到着した。この時間に校門にいる事など母親の作ったお弁当の目玉焼きが痛んでいて腹痛で早退した時以来のことだ。
『着きましたぞ』
着いた?ここが?どこかの施設についたわけでもそこに未知の扉があるわけでもない。そこにあるのは通学時にたまたま喉に絡まった痰を吐き捨てたマンホールだけだ。すると亀が急に立ち上がるとそこにあるマンホールは地下へと続くエレベーターになった。どうやら異世界というのは地下にあるらしい。
『さぁ参りましょう。王都バッドラックへ。鬼頭様のお力見せてもらいますぞ。あと言い忘れておりましたがこのエレベーターによる怪我等には一切責任は取りませんのでご了承くだされよ。』亀がそう言い終わるか終わらないうちに股間が寒くなった。こんな感覚は始めてだ。なんだろうすごく気持ちがいい。そう思ったのを最後に俺は気を失った。
『鬼頭様。鬼頭様。到着です。ここが王都バッドラックです!』
ゆっくりと目を開けると見渡す限りの高い建造物。中心には城も見える。なるほど悪くないなぁ。これが異世界というやつかぁ。
『おい、そこのガキ。見ねぇ顔だがどこのもんだ。ここに足をいれたきゃまずはこのザーコ一派にに30万エレス支払いな。』
エレス。この世界での通貨のようだ。あいにくいま手元にあるのはポケットに入った100円玉とボールペンだけだ。そんなことより異世界着いていきなり絡まれるとはこれまた不運。どうやら俺はどこへ行っても運がないらしい。
『悪いな。おれは一文無しだ。見逃してくれや。』
厄介ごとはごめんだ。特に絡んできた連中はどうも口が臭い。出来れば喋りたくない。
『いい度胸じゃねーか、一文無しとは。よし気に入った。おれの手下にしてやる。』
そんな気はさらさらないし第一口が臭い。
『あ。結構です。間に合ってまーす。あとですね、手下にしてやるっておっしゃいましたけどね。口が臭すぎて全く話が入ってきませんでしたよ。なんなら歯ブラシの仕方教えましょうか。あいにくまだ僕以外あなたの口が臭いこと気づいてませんし。』
そっと耳打ちしてあげた。僕はなんて紳士なのだ。するとザーコとかいういかにも雑魚キャラに胸ぐらを掴まれて後ろにいる下っ端どもからリンチを食らった。
『痛い。痛いって!おい、亀!こりゃどうゆうことだ!なんとか説明しろっておい!かめ!』
後ろにいるはずの亀を探す。どこだ。いた。横の薬屋で薬草を爆買いしてやがる。しかも横目でチラチラ見てるのがバレバレだ。なんだろう。すごい腹が立つ。その時、俺の中で何かが目覚めた気がした。
『よーしそのくらいでいいだろう。俺に殺らせろ。ガキ、覚悟ぉぉ!』
持ってた剣で襲いかかってきた。
『どいつもこいつもいい加減にしろよ…俺が一体なにしたってんだよ。学校じゃ怒られるわ。亀に連れてこられりゃ殴られるわ。しかもいかにも雑魚キャラ相手によー。つーか!亀が他人のふりしてんのが一番腹立つ!ふざけんなよ。見せてやるよ』
この一瞬の間におれはポケットからボールペンを取り出した。
『異能力…ペンは剣より強し。』
持っていたペンは奴の剣を弾き数メートル吹き飛ばした。奴はあまりの力に腰を抜かして動けなくなっていた。形勢逆転。これはチャンスだ。
『今まではよくもやってくれたじゃねーか。テメェに地獄見せてやらぁぁぁ!』
とりあえず前歯を折り、ザーコを戦闘不能にしたところで。後ろで見ていたその手下達も別に恨みはないがフルボッコにしてやった。すげー気持ちがいい。みんなを中西だと思ったら急に拳の振りが強くなったのはいうまでもなかろう。そろそろ手が痛くなるのでやめようかと思ったその時だった。
『あー。君。暴行でとりあえず現行犯ねぇ。若いのはわかるけどやりすぎだから。はいはい。話は署で聞くから。』
いかん。やり過ぎで捕まってしまう。そうだ。亀だ。亀がいる。今度は流石に助けてくれるだろう。薬屋に目をやると亀は大量のボラギノールを購入していた。
『ああ。痔だったんだ。亀も痔になるんだねぇ。じゃなくてぇぇぇ!とりあえずなんとかしろぉぉぉぉ!』
鬼頭恵介の逮捕現場付近では……
『ふん。異能力か。面白い奴が来たものね』
異世界ライフ1日目にしてはやくも逮捕された。
『クソ亀やろぉぉぉぉぉぉ!』
俺の異世界ライフにまだまだ運は回って来そうにない。