冴えない日常に終止符を
鬼頭恵介。物語の主人公としては花がない僕の冴えない1日はもう半日が終わろうとしている。
『鬼頭!またうちのクラスの小テストの平均点が全クラス中最下位なんだけど、お前会長だろ〜、なんとかしろ。俺の立場がないだろーがよ』
くじで30分の1の確率を引き当て柄でもない会長という役になってしまった僕は、自分の力量も知らないのにも関わらず出世だけを考えてクラス運営なんて一つも力を貸してくれない、いわゆるポンコツ担任の中西の小言を昼休みの職員室の真ん中で今日も黙って聞いている。あんたの仕事だろと言ってしまえば正論だが時に正論は事をややこしくすることを僕は悲しいかな知っている。黙って聞いていればこの時間も終わるのだ。時間は誰にも平等で僕が信用できる数少ないものの一つだ。
『おい返事はどうした!なんだその目は反抗か!』
ここぞとばかりにエンジン入れたな。今日のお昼ご飯の時間は間違いなく取れそうにない。反省なんて気持ちはさらさらなくても怒られた後というのはどうしても気分が乗らないし心が重いものだ。職員室を出るその間に他の先生からの冷たい視線や隠しきれていない薄ら笑いには決して良い気持ちはしない。馬鹿にされてることは明白である。職員室を出るまで約15メートルくらいのはずだがとてつもなく長く感じた。やっとの思いで退出したと思えば、ここまでの高校生活で2度は見たこともないような非常勤職員でさえにも励ましを受ける始末だ。惨めな感情を殺し少しばかりのプライドを守りながら職員室を出た僕は所属する2年3組の教室に戻り自分の机の中に手を入れる。
『はぁ〜、次の授業は簿記室かぁ。絶対間に合わないよ。最悪。中西の野郎恨んでやる』
上手く教科書が取れない。急いでいるときに限ってこれだ。机までもが僕の味方ではなくなったのか。強引に引っ張ると簿記の教科書とともに一枚の手紙が落ちてきた。手紙なんて僕の身には覚えはない。怪しさ100%の手紙をなんとなく開いてみた。それが事の始まりだった。
『不幸続きな亀頭さんへ。』
おい、不幸続きの人宛にとんでもない変換ミスしてんじゃねーか。全く読む気が無くなり破ろうとした時後ろの方から声が聞こえてきた。
『お待ちください。鬼頭様。話だけでも聞いてはくれませんかな』
振り返るとそこには1匹の亀が二足歩行でこちらに歩いてきた。
『よりによってなんで亀なんだよ。キレて良い?キレて良いよね?』
そう言って怪しい亀を持ち上げると
『待ってくだされ!せめて話を!』
そう言われた僕はなんとなく亀を下ろし話をするように言った。
『鬼頭様、あなたこんな不幸の続く理不尽で不運な生活、ストレス溜まりませんか?溜まりますよねぇ、そんなあなたにぴったりの世界へご案内するためにお迎えに来たのです』
何を言っているんだこの亀。訳がわからない。第一亀が喋るっておかしいだろ。しかし僕のストレスの溜まる生活にぴったりの世界には少し興味がある。自然と笑みがこぼれた。
『まぁ名前が亀頭さんの時点でだいぶ人生不運ですよねぇ。ハハハハハ!』
完全にキレた。
『良い気になるんじゃねーぞこのクソ亀がぁテメェが来てからこの数分でおれのストレスはさっきから溜まりっぱなしなんだよ。簡単な事だテメェをぶん殴りゃストレス発散になんだろうがぁぁぁぁぁ!連れてけよその世界っつうのによ。こうなったらとことんテメェに付き合ってやるよ』
すると亀が言う。
『それはイエスと受け取ってよろしいですねぇ。それではお一人様、名をチ〇コ様ごあんなーい!』
『そのものになってんだろーがぁぁぁぁ!』
僕の慌ただしい異世界生活はこうして始まったのだ。