ある山賊の砦にてクズは本懐を遂げず
伝承なんかクソ食らえ
悪ガキ虚仮脅すための
おとぎ話なんだろ?
ーそう思っていた時期が私にもありました
どうなったんだコレ?
眼下には、怠惰と傲慢に肥え太った生っ白い手足が、豚の様ななどと比べるには豚さんに大変失礼してしまう程の、どうしようもなく緩んだ己れの肉体からお別れしていた。
まぁ、簡単に言えば。四肢爆散、無惨過ぎて現実感が無い状況が、つい先ほどは性欲で塗り潰されていたピンク色のオツムの中を、急激にクリアーにしていく。
よし、混乱した時は最初に戻ろう。
えーと、コトの始まりは、久しぶりに会ったオヤジに罵倒されたんだよな、んで、いつものように1発殴られていつものように泣きながら部屋へーー、あ、違う。むしゃくしゃを収めようと、今日は何故か地下牢に降りたんだ。
何重にも置かれた厳重に手配された看守共を八つ当たり気味に排除して、そんなに何を隠して居るのかと不信よりも興味が勝り、秘匿された牢獄の最奥地に忍べば、ひと際輝く宝物が設置されていたのだ。
「生きているのか?」
あまりの美しさと儚さに我を忘れて近付き魅入ると、その薄っすらと膨らんだ胸が上下して呼吸を確認すれば、唐突に指の先まで劣情に支配され瞬きも儘ならず立ち竦む。
欲望に耐えかねて、最初は少し触れるだけの行為が、はじめて感じる想像以上の滑らかさと柔らかな感触に歯止めが掛けられず、彼女の清々しくも甘やかな香りに脳髄まで侵食され、ほんの欠片さえも残された真面な思考が霧散すれば、なにも阻まれることはなく、一糸纏わぬ姿で覆い被さって、
ちょっとだけ、先っちょだけだから
矮小な己れのモノならば痛みもさほど無かろうと、意識の無い美しい体の足と足の間に自らを割入り腰を穿てば、その寸前、醜悪な自分が爆発した。
ーーしばらく回想しながら呆然としていれば、下からおもむろに声がする。
「だ、大丈夫ですか?」
襲われ穢されようとしたというのに、彼女はオレの心配をした。
常日頃から穀潰し、不燃ゴミと蔑まされ続けるこのオレを、だったらもう充分じゃないか?
何処ぞに攫われてから、目覚めて、自分の身が他人の血肉に塗れているのにも関わらず、少しの動揺もなく平然として見える。
「精霊の裁きを受けてしまったのですね」
「精霊の裁き?」
「私の体と、無許可で交配しようとすれば、守りの制約が発動するのです、王国の人には周知されていますが、こちらの方はなかなかご存知ではないようですね」
問われてみれば思い出す、この土地に伝わる古い子どもの手遊び歌がある。
「王国の栄華を守る精霊の優しい裁きに気をつけろ…」
「それです、それです。でも、安心して下さい。誤爆救済処置が、きちんとありますから」
優しく微笑む彼女の清廉さに、無様な自分は身の置き場がない。しかしダルマ状態の真っ裸のおっさんが自分の股ぐらに居るのである。不気味ではないのだろうか?こわくないのだろうか?
「申し訳ありません。不快な思いをさせてしまっていますが、このざまでは身動きが取れません」
「大丈夫ですよ。良くあることなので」
再度安心させようと微笑んだ姿とその言葉に衝撃を受ける。
「よ、良くあることなのですか?」
「はい、この身は帝国からの侵攻を阻む海の民の首魁なので、幼少から数多の危険に晒され慣れているのですよ」
「ずいぶんと苛酷な身の上なのですね。尊厳を踏み躙られたのに、憎くないのですか?」
「あなたを憎むのですか?そんな表情をしている貴方を?」
「そんな表情?」
「深い悔恨と懺悔に溢れています。いまにも泣き出しそうで、ただ可哀想としか思えません」
そう彼女は言い切ると、細くしなやかな白い指をゆるりと持ち上げて、そっとオレの頬を撫でた。
「私を傷つけないと、自らの神に誓って下さい、そうすれば身体はもとに戻りますよ」
「オレには神がいないのですが」
「…でしたら、私に誓って」
心から二度と彼女を傷つけないと誓う。
生まれ落ちた役割に捉えられ翻弄され続けて、諦め倦んでしまった彼女を救いたいと願えば、こんな己れでも少しは戦えるだろうか?
ーーオレは極悪人なんかじゃない、ただのヘタレたナマケモノだ、この帝国1番の親不孝者の名にかけて、このコをちゃんとお家に帰そう。