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第1話 ファンタジー作家になるまでは遠い

「評価された作品ですか。それはですね。転生したから幸せに生きてみたという小説と、新撰組という小説ですわ。この二つをひとつにして面白い小説を作ってみようと思っていますの」

そういったモノタマは笑顔であった。男はとんでもないことになりそうだと思いなぜこうなってしまったのかと、今日の朝から振り返ってみることにした。


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「どうもーすいません。」

 コンコンと上品にノックされるドアの音を聞き、ベッドの中の家の主はのそりと這い出た。カーテンを開けて太陽の場所を確認すると、しぶしぶと寝巻きを脱ぎまだ寝息をしていたいと望む喉に鞭打って

「今、行きます。少々おまちをー」

と声を上げた。

 男はベッドの横に寝巻きを投げ捨て、時計台が見えないとやはり不便だな、と独りごちりながら着替えをすませ玄関に向かった。

「どちらさまでしょうか。」


 玄関を開けると同時に男は一歩引いた。別に騎士団が剣を突きつけてきたとか、魔物が自分の爪を突きつけてきたのではない。人が頭を下げて両腕を伸ばして名刺を突きつけられていたからだ。

 この世界にお辞儀は存在していないと思ってたが……なるほど。日本のお辞儀にもこういう歴史があったのかもしれないなと思い、男は懐かしさのあまり笑いそうになるのを堪えた。

 

「あの、私フタアイ文庫からきました。モノマ・エタマと申します。」

 名刺を受け取ると、自己紹介しながら顔を上げた彼女は名前どおり綺麗な顔立ちをしており、ここ最近女性との出会いのなかった男は少し見とれてしまっていた。

「はい。それでモノマさんはどういう用件で?」

 男は慣れたように胸に手を当てて軽い挨拶の仕草をする。この動作は日本で言うお辞儀みたいなものである。


「スラマ・テアさんですよね。うちの小説コンテストに応募しましたよね。」

 フタアイ文庫と小説コンテストという単語を聞いて男はやっと理解した。そして、コンテストの結果が載った新聞を開いた日のこと思い出した。

 もともと男が小説を書いたこと自体は暇つぶしであったし、コンテストに応募した理由は応募しない理由がなかったからである。そんな、適当な理由ではあったが送ったからには誰にも負けたくはなかった。

 なぜなら、男には内容には自信があったからだ。しかし、物書きとしては素人である。絶対に勝てると思っていたかといえば嘘になる。

 そんな思春期のような心持ちで男は新聞の発表をみた。そして、男は呆然と数十秒立ち尽くした。

 結果は受賞者なし。

 負けていたことにイラつきが募り勝者がいないからこそ、イラつきを発散させる場所がなかった。

 そのストレスゆえ自分の中でなかったことにし、社名を言われても気づかず、今の今まで忘れてたのは仕方ないと男は自分に言い聞かせた。


 気を取り直して、男は自分を落ち着かせて話を続けた。

「はい。でも新聞では受賞者なしになってましたよね。」

「ええ。そうなんですよね。投稿された小説をそのまま書籍化できる作品はありませんでした。ですが、優れている部分がある作品はその作者に本社の人間つまり私みたいなのが送られて、二人三脚で小説を作らないかと提案をするわけです。」

「僕がそれに選ばれたのは願ってもない話ですが、一応私にも本業がありまして。寂れた雑貨屋ですが店員をしています。」

 男は仕事以外暇であったが、仕事はやめられない。貴族ではないのだ。

「もちろん、そのような人ばかりだと心得ています。なので終業後から夜まで、そして休日に書いてもらいます。話がまとまったりして、しばらく私がいらないと判断した場合は本社に戻る可能性がありますが。どうでしょうか?」

「コンテストの時期には休みの時間は大体小説を書いていたので問題ないです。」

「そうですか。喜ばしいかぎりですね。では合意と見てよろしいでしょうか?」

「はい。契約書とかは……」

「ありません。今のところ小説を書くのを手伝うとしか、言えませんからね。もう少し形になったら何かしらできるかもしれません。ところで今日は休日でしたか?」

「え、まぁ。どうしてわかったんですか。」

「簡単なことですよ。髪の毛が寝癖で跳ねていますからね。」

男はあわてて自分の髪の毛を手で直した。


「できれば今日から始めようかと思うのですが、お暇でしょうか?」

「大丈夫です。場所は家でということになるんでしょうか。」

「それがいいですね。毎回どこかの店に入っていては財布がパンクしてしまいますから。どこか書く場所をお持ちでしたらいいですけど。」

「ないです。入ってください。散らかっててすいません。」

 男は180度回転してエタマを先導するようにリビングに向かって歩いた。

「いえいえお邪魔します。よろしくお願いしますね。テアさん」

「こちらこそ。エタマさん。」

「あ、できればモノタマで呼んでもらっていいですか?親しい人どころか、上司や後輩までもみんなそう呼びますの。」

「よろしくお願いします。モノタマさん。」


 男は会話の流れがスムーズすぎてモノタマを家に上げていたが、ふと浮かんだ疑問をリビングに入る前にぶつけることにした。

「あ、小説の話をする前にひとつ質問があるんですが、僕はフタアイ文庫コンテストに複数作品贈ったはずなんですが、どの小説が評価されたんでしょうか。」


 モノタマはそうですねーと一息入れてから、

「評価された作品ですか。それはですね。転生したから幸せに生きてみたという小説と、新撰組という小説ですわ。この二つをひとつにして面白い小説を作ってみようと思っていますの」

と笑顔で言ったのだった。




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