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3話

決闘で魔力を消耗し身体が重くなっていたが、アリーナに掛けられている保護障壁魔術が作動したおかげで倒れ伏せるだけで済んでいるアステリオに背を向け出口へと向かう。

やはり最後を綺麗に飾るためとはいえ、ただでさえ保有魔力量が減っているのに変な意地を張って上級魔術なんか使わなければ良かったとフラつきながら今更だとネザクは思う。



「やっぱお前ってスゲェな」

「最後の魔術なんてビックリしたわ」

「勝ってくれてありがとうね」

アリーナの控え室に戻ると、待っていたかなえ達が口々にネザクを褒め称える。

唐突に入り口から拍手の音が鳴り響く。拍手と共に入ってきたのはネザクらの担任である紅原べにはらつるぎだった。

「先程の魔術の構築速度も構築密度もプロとしてやっていけるくらいだったし悪魔遣い(デモナータ)のような柔軟な発想で相殺出来ないと判断するとすぐさま上に回避したのは素晴らしかったよ」

「お〜ネザク先生に褒められるなんてスゲェじゃん」

「まったくだぜネザク」


シリウス達は褒められたネザクを魔王であるつるぎに褒められたからかさらに褒め称える。しかしネザクはそれどころではなかった、悪魔遣い《デモナータ》云々のくだりを聞いて顔が強張る。幸いにもそれを気づかれることはなかった。

つるぎは言いたいことが終わったからか控え室の出口に向かう、がクルリと半回転しネザクにふたたび向き合う。

「そうだそうだ。言い忘れていたよ。今回の決闘騒ぎは妹達を守る為だったんだったね。私からも言わせてもらうけどありがとう」

教師が生徒に礼を言ったからか彼らの賞賛もといからかいはさらにヒートアップしていく、だからかネザクは気づけなかった、つるぎがどこか疑うような目で見ていたことに。


「それじゃあ、大人は消えることにするよ。そろそろ寮が解放される時間だから向かった方がいいんじゃないかな」

「わかりました、ありがとうございます。」

一言残してつるぎは去っていく。最後に巧妙に隠した殺気をぶつけて。放たれた殺気は単なる生徒には感知できないように隠されていて、ネザクのような任務できたようなある程度実力のある魔導師でなければ感知できないように抑えられていた。唐突に放たれた殺気に当てられネザクの身体はほぼ無意識に僅かに反応してしまう。


ネザクはしまったと思ったがすでに遅く反応してしまった結果は変えられない。つるぎの反応を見るがなんの行動も起こさない。今回の任務の存在がバレたかもしれない、そう思うと心臓の音が速まるのがわかる。自分を信用して送り出した矢野や紅葉くれはに申し訳ない。もしかしたら魔導自由連合に迷惑がかかるかもしれない。その場合損失は__。考えれば考えるほど悪い方に考えてしまう。ネザクは思考の海に呑まれていく。

「___い。おいっ。ネザク大丈夫か?」

思考の海に捉われていたネザクは、自分を呼ぶシリウスの声に呼び戻される。

「あ、ああ大丈夫だ」

「本当に大丈夫?」

顔色が少し心ここに在らずといった印象のネザクを決闘で疲れたとでも思ったのかかなえが顔を心配そうに覗き込む。

「本当に大丈夫だ。決闘で少し魔力を使い過ぎたようだ」

心配してくれる彼らには、魔力を短時間で大量に使うと起こる症状、軽度の急性魔力欠乏症にかかったと説明する。

「なら早く寮に行かないとね」

かなえはネザクの背中を押しながら寮へと向かう。


寮の前に着いた一行は、寮の豪華さに目を奪われていた。もともとネザクを除いて平民出身で構成されている彼らには寮の煌びやかさは計算外だったようで、目を見開き口をぽかんと開いている。

「なんだこれは本当に寮か?」

「ああ、まったくだ信じられねぇぜ」

「貴族の屋敷みたいね」

「世界最先端というだけのことはあるのか」

「いったい、いくらかかってるんだろうな」


一行の中で唯一貴族のネザクは各国の王族すら入学してくる世界最先端なの学園なのだからこの程度は煌びやかさに飾っているだろうと想定内だった。

「惚けてないでさっさと行くぞ」


実家のクロスグラント家の屋敷に見慣れているネザクはさっさと行くよう促す。実際クロスグラント家の屋敷と比べたら半分どころか4分の1すらないので驚きようが無い。さらに言えば紅葉くれは個人の所有する屋敷どころか別荘にすら大きさで劣っている。

何度呼びかけても反応がないため彼らを軽く揺する。驚く気配が微塵もないネザクの対応に彼らはふたたび驚く。

「こんな凄い立派な寮なのになんでそんな態度なの〜」

「立派もなにもこの程度の大きさや煌びやかさなら驚くまでも無いと思うのだが」

やれやれとでも言いたげな口調で話すネザクを見て彼らは思う。あれ、なんかおかしいなと。その中で唯一違和感の正体にアリスは気付く。

「ネザクって貴族だったっけ」

「ああそうだな。世界十三貴族の一つでもあるな」

「ああ〜そう言えばお前って貴族だったな。忘れてた忘れてた」

「ええ〜ネザクってしかもそんな貴族だったの⁉︎」

「ああ、クロスグラント家の生まれだ」


寮の前でそのまま数分喋っていた彼らはさすがにそろそろ入ろうということで寮の入り口をくぐる。

「外がアレなら中も凄いとは思っていたけど……」

「うわぁ〜中も凄い綺麗だな」

「まさかあの像に使われているのは妖精銀ミスリルか…」

外の装飾でも驚いていた彼らは中のさらに煌びやかな装飾を見て口々に感想を言っていく。もっともシリウスとジェイクは驚きすぎて一言も発することができなかったが。

惚けている彼らの手を引いて寮の掲示板へと向かう。

男子寮の掲示板を上から自分の名を探す。最初にジェイクがあったぞと声を上げる。

「俺は127の部屋だ。お前らとも同じ部屋でよかったぜ。」

ネザクらの部屋127号室は4人部屋でベットはもちろんのこと机やソファーや光球ライトにいたるまでの部屋に置いてあるすべてのものが世界最高級品質を誇るものだった。いったいこれ一つでいくらするのか、などとなんとか絞り出したような声でシリウスが呻く。

「けどよ、やっぱり広すぎんだろ。これは4人部屋じゃねえぞ。4人どころか10人くらい泊まれんだろ」

「この広さならかなり本格的な器具が……」

ジェイクが呆れたように驚き、かえでは空いたスペースを見てブツブツとなにか呟いている。

ネザクは窓から遠距離魔術で狙撃できるかどうかを見た後、壁を叩いたり光球ライトの裏を見たり盗聴機を隠せると思わしき箇所を見て回る。パッと見たところ発見できなかったので、狙撃の恐れがある窓際のベットを陣取る。

「おっ、ネザク窓際がいいのか?」

「ああ、悪くが窓際のベットは頂いた」

ネザクがベットを陣取ったのに触発されたのか次々にベットを陣取る。

夕食はまだまだ先なので身の上話を始めるがネザクの場合は真実を語ることができないので嘘で塗り固められた設定を話す。それを皆真剣に聞いてくれる為僅かに良心が痛むのを感じたが押し殺す。男が4人いても大して話すことなんてろくに無いがシリウスが思い出したようにああと頷いて、一言。

「そう言えばさ一ついいか?」

「なんだ?」

一拍溜めた後放った一言によって彼らがふたたび騒ぎ始める。

「あの娘とはどんな関係なわけ?」

「あの娘?」

はてそんな娘がいただろうかと考え始めたネザクの脳内で一件だけヒットし、紅葉くれはの顔が浮かぶ。

「別に紅葉くれはとはそんな関係じゃないぞ」

「いやいやあの後、一週間も泊めたんだろ。なら他にどんな関係だよ」

「じゃあどんな関係なんだよ」

ネザクの絡みにジェイクが参戦する。

「単なる親友だ」

「いくら親友といっても異性の部屋にノックもなしに入るのか」

「あれはたまたまだ」

「へぇ〜そうなのか」

シリウスはまったく信じていないことが一目見ただけで分かる顔で、にやけた顔をしながらネザクを見る。

「嘘じゃないぞ」

実際ネザクと紅葉くれははそんな関係ではないし、初めて会ったのは四年くらい前だが家族、妹か親友のような関係だと思っている。

「ハイハイわかってるよ」

やれやれこいつは、とでもいいたげなシリウスの顔を見てイラっとしたので一発拳骨をくれてやった。

同年代の人とは任務以外で同じ部屋で馬鹿騒ぎしなから喋るのは初めてだったが案外悪くないな、と頬を緩める。


話に夢中になっていて気づくといつの間にか夕食時だったので食堂へと向かう。

少し遅れて来たからか、食堂は生徒で溢れかえっている。席があるかと不安になるがジェイクが何かを見つけた様である席に向かって歩き出す。

「やっほ〜、さっきぶり〜」

「さっきぶりね」

ジェイクが向かったところには、アリスたちが取っていた席があった。シリウスとジェイクはさも当然とでもいうかの様に無言でアリスの正面に座る。ネザクとかえではそこまで図太くないので短く断って座る。

「何食ってんだアリス」

ジェイクがアリスの食べている具材ののったパンのようなものが見たことなかったものだったためか問う。

「これ?これはねピッツァって言うらしいのよ」

シリウスがピッツァをたくさん食べているアリスを茶化す。

「そんな食ってると太るぞ」

「なっ⁉︎あ、あんたねぇ」

太るという単語はアリスにとって禁句だったらしく怒りのあまり口が開きっぱなしになっている。

淑女レディに向かってなんてこと言うのよ⁉︎」

淑女レディ?どこにいるんだ?」

「ぶん殴るわよ⁉︎」

「ほらな、どこにもいないだろ。」

シリウスとアリスの会話は本気で嫌っているのではないというのは見てとれるが見ていてハラハラさせられるこっちの身にもなってもらいたいと、ネザクは誰にも聞こえない程度の声量でつぶやく。

ジェイクはその騒ぎをいつものことと笑いながらパンを食べているし、かえでは我関せずという態度を貫き黙って食事をしている。かなえはどんどん激化していく2人のケンカを見て2人の顔を交互に見てオロオロしている。

見ていると頬が勝手に緩む。ああこれが友達との何気ない日常なんだなと思う。

ただ____

「ネザクもそう思うよ⁉︎」

「そんなことないわよね⁉︎」

___ケンカを巻き込ままいでくれと、切に思う。

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