2話
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「__________________________以上を持って新入生挨拶を終わります。新入生代表•レイラノーラ•アズライル」
入学試験で首席だった者は新入生代表として入学式で挨拶をする決まりがある。相変わらず美しい顔に作った様な笑顔を貼り付け凛とした表情で堂々と挨拶に望んでいる。ネザクを除いて、誰もが彼女の作った表情に気づいていないようで凛とした表情で男女問わず魅了している。
彼女の存在は新入生にとって衝撃的だったようで挨拶を終えた彼女が壇上を降りた後もしばらく騒めいていた。
つづいて、1人の男が壇上に上がってくる。その男を照明が照らし、暗くてよく見えなかった男の顔が明らかとなる。その男の顔を見た先ほどまで騒めいていた新入生たちは、驚きでポカンとした表情で静かになる。別にその男の顔が整っていたから騒いでいたのではない。それなら何か、その男の正体は事前情報で知っていた。その名と肩書きは第7席魔王•紅原剣。大和王国所属の魔術師の頂点に立つ今回の任務のある意味最大の障害となる男だ。
「新入生諸君まずは入学おめでとうございます。今年は例年より優秀な者が多く嬉しい限りです。貴族の者たちに言っておきますが、ここ魔導魔術学園は原則として、いかなる国家の権力をも介入し得ない。貴族としての権力を振り回すことは極力控えてください。そんなことをし、あまりに目に余るようであれば退学も考えています。ですから貴族の家系でも魔術師の家系でもないからといって卑屈になる必要などありません。私達はあなた達を歓迎します。おっと最後に1つ言い忘れていましたが」
社交性も高く知識人としても有名顔の造形も整っていて魔術師としての地位も高くカリスマ性もある、天は二物を与えずという言葉を横から全力で叩き伏せたような男であるが___
「私の妹や弟に手を出すのであれば魔王が出向きますので。そこのところどうかよろしくお願いします。」
この男はかなりのシスコンブラコンなのだ。魔術師として手に入れられるものを全て手に入れたと言われているこの男に浮ついた噂を聞かないのはそういうことだ。
そんな教師にあるまじき私情丸出しの演説をした後、新入生の一部を見て、おそらく姉弟のどちらかを見つけたのかウィンクをして、颯爽と壇上を降りていった。
呆気にとられていた司会が自らの役目を思い出し、その後、誰も私情丸出しの言葉をいうことなく進めることができ何事もなく入学式を終えることができ、最後にクラス分けが発表される。
魔導魔術学園は倍率数万で世界中から受験者が数百万人がいるも入学できるのは360人ほど。クラスは9つに分かれており、クラス分けの結果によって今回の任務の難易度が大きく変動するだろう。やはり一番いいのは同じクラスだが、違くてもさほど遠くなければそれでいいとネザクは考えていたが、周りからはそうは見えないようで偶然近くにいたシリウスに「おいおい、そんなに俺らと一緒のクラスがいいのか」などと聞かれてしまった。
ネザクのクラスは2組だった。後で聞いたところシリウスらの3人組と同じだったようで一緒にクラスに向かう。
クラスに入るとほとんど揃っていたようで8割がた席が埋まっていた。チャイムが鳴り、クラスを見渡すが例の双子の存在はなく他クラスにいた時の対処法を頭の中で構築していたら、教室のドアが勢いよく開かれた。
例の双子だった。どうやら学園内で迷子になっていたようで、呼吸を荒くして入ってきた。
ネザクの隣の空いていた席に双子の姉•叶が座る。彼女はネザクのことを覚えていたようでフレンドリーに話しかける。
「はじめまして〜。紅原叶です。1年間よろしくね〜」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
「あ〜、君さ、実技の時一緒だったよね。すごかったよあの氷」
彼女は人見知りをしないタチらしく、ほとんど初対面のネザクに数年来の友人のように話しかける。
彼女らと同じクラスになれて良かったと思うネザクは偶然はないだろうと考えていた。魔導自由連合が手を回したのか、シスコンブラコン魔王の邪念センサーに引っかからなかったのか、多分前者だと思うが後者の可能性もあり得そうだと考えている。
しばらくして再び教室のドアが開かれた。入ってきたのは当然ながらこのクラス担任となる教師だった。その男を見た瞬間、騒いでいた生徒たちがピタリと静まり返った。担任となる教師は先ほど入学式を引っ掻き乱していった男•紅原剣だった。彼は教師という立場でありながら生徒たちに丁寧に挨拶する。
「皆さんのクラスの担任となった紅原剣です、よろしくお願いします。先ほど言いましたが貴族であろうとなかろうと学園に所属している限りは私たちにとって生徒であるということは変わりません。皆さんは倍率数万の狭き門を潜り抜けてきた優秀な生徒です。だからこそ油断せずに友と互いにお互いを高め合っていきましょう」
ここ魔導魔術学園は初日に授業がある。
「あ〜なんでさ。なんで入学初日から授業があるのさ〜。ねぇ〜ネザクもそう思わない?」
隣の席の叶は机に突っ伏して、酔っ払いの如く、愚痴りながら同意を求めてきた。
「どうせ寮に入ってもすることは何もない。なら初日から授業をしたほうがいいだろう」
「う〜〜だけどさ〜」
いまだネザクに絡む叶を見ていたのか乱入者が現れた。
「おっ、ネザクも隅に置けないな。初日からこんな可愛い娘と仲良くなってるなんて」
「まぁそれについては激しく同意するぜ。え〜と紅原さん」
「あんた達いきなり何言ってるのよ。馬鹿なんだからちゃんと勉強しなさいよ」
「なんだと」
さすがに2度目ともなるとこれが本気で言っているのではないと判るが、初見の叶はそうもいかないのでそっと耳打ちする。
学園初の授業が始まる。科目は『魔獣と迷宮』だった。
「皆さんは魔獣や迷宮をどこまで知っていますか。もしかしたらこの中にも見たことのある人もいるかもしれません。そもそも魔獣とはなんなのか。魔獣には二種類あります。マナを大量に取り込み凶暴化したもの、なんらかの現象で空間が揺らぎ魔界からこちら側に来るもの。この二つがあります。マナを取り込んだ個体は数が多いものの能力はあくまで生物の延長線上にある為対処はさほど難しくはありません。ですが魔界から来る個体は数こそ少ないものの高い知能に有するものが多く魔術を使用できるものも多いです、このタイプの個体は高位となると人型をとり悪魔と呼ばれる種となります。悪魔はきまぐれですが契約を結ぶことができればかなりの力を得ることができ、契約できた者は悪魔遣いと呼ばれています。現在魔導師は、魔術師と悪魔遣いに区分されています。そして迷宮とは、地震や大規模儀式魔術の失敗などの大規模の災害が発生した時に空間が大きく歪み魔界の一部と繋がった状態のことを言います。迷宮内には魔術的価値のある品が多く存在する為、一度潜ればかなりのまとまった金が手に入ります。なお実習では下級のモノですが迷宮に挑んでもらいます」
そこでチャイムが鳴り授業が終わった。
授業が初日からあるとは言え、寮なども見ないといけない為午前で終わる。
昼休みとなり食堂に向かう、途中で争っている一団を発見した。無視して食堂に向かう予定だったのだが争いの中心に叶とその弟楓がいたため予定を変更する。
「なんだよお前ら」
「黙れよ平民。貴様らには話しかけていないのだよ」
「なんだと」
「それでだな、皇帝階級の2人よ。高貴な者にはそれ相応の振る舞いが必要なのだよ。平民共を捨てて私と共に来れば振る舞いを教えるがどうだ」
相手の男は見下した態度でジェイクらを嘲り、双子に断られるとは思っていないようで尊大な口調で話す。
「私の友達を馬鹿にしないで」
「友達?平民がか?これはまずいな早急に手を打たねば」
当然のことながら断ると重大な病気にかかった人を見るような顔をし、手を引き無理やり連れて行こうとする。
「やめろっ」
「やめなさいよっ」
シリウスが男の顔を殴る。男は平民に殴られたことが信じられないのか殴られた箇所を何度も触り、顔が殴られて赤くなったものとは違う赤色が顔を支配する。
「きっ、貴様ぁぁぁぁ。よくも、よくもマクスウェル
家の私を殴ったな」
男は魔術を使用した腕でシリウスを強く殴り飛ばす。
「ぐっ」
「あんたなに魔術なんか使ってるのよ」
「黙れっ」
それを非難したアリスの頬に平手を飛ばす。
「女に手ェ出してんじゃねぇよ」
それに激昂したジェイクが魔術の構築を始める。するとその一種即発の場に乱入者が現れ2人の間に立つ
「なにをしている」
「なんだ貴様は」
「彼らと先約があった者だ」
「髪の色からして貴族ではあるようだが私を誰だと思っている」
ネザクが乱入するが一種即発の雰囲気は変わらない。ネザクは場の空気を変える為にさらなる一手を打つ。懐から白い手袋を右だけ取り出し、男に投げつける
魔術師にとって、否魔導師にとって右の手袋とは魔導師の正装といっても過言ではない。右の手袋を手放すことは原則として認められていない。だが2つだけ例外がある。1つは自ら魔導師を辞める時、それと_____________
「ほう、貴様それの意味が分かった上でやっているのか」
「そのつもりだ」
「この私に決闘を挑むとは」
___そう、魔導師同士の決闘を申し込む時。この二つのみ
「彼らとは先約があると言っただろう」
「そうだったな。つまり彼らと友好を交わすには貴様に勝てばいいということか」
「そうだ」
「食堂の隣にアリーナがある。1時にそこで待っているぞ」
男は終始尊大な態度を崩すことなく去っていった。
「勝手に決めてすまなかった」
「勝てばいいんでしょネザク、ね楓」
「僕たちは気にしていない」
ネザクは勝手に決闘の賞品にしたことを謝るが2人は気にしていないようだった。むしろ___
「悪ぃな。俺らが不甲斐ないばかりに」
「巻き込んじゃってごめんなさいね」
一緒にいた彼らの方が気にしているようで、ジェイクなんかは拳を握りしめじっと俯いている。
「気にしないでよ、3人共ネザクが勝ってくれるから大丈夫だって」
「ああ」
第三アリーナ
ネザクが行くとすでに相手の男は待機していた。
「どうした、遅かったじゃないか」
「随分と人が集まっているようだが?」
「ああ私の華々しい勝利を見てもらいたいからな」
「ネザク•クロスグラントだ」
「アステリオ•マクスウェルだ」
決闘の作法として始めにお互いに名乗る。次に___
「我ネザク•クロスグラントが汝アステリオ•マクスウェルに問う。汝、正々堂々と戦うことを己が手袋に誓うか」
「誓おう」
アリーナの中央から互いに10歩下がり、ふたたび向き合い、受けた方がコインを天高く投げる。着地した時の音が始まりの鐘となる。
「はぁっ」
アステリオが鋭い掛け声と共に千の光の矢をネザクに向けて掃射する。
「ふっ」
一息の間で厚い氷の盾を作り出し、光の矢を罅割れながらも完璧に防ぐ。
「やはりこの程度では駄目か。ならばっ」
光の槍を多数に展開し放つ。それに対してネザクは氷の槍を同数展開し相打ちに持っていく。
光の剣と氷の剣が、光の波動と冷気の波動が、千の矢と千の矢が、光の竜と氷の竜が、ぶつかり、鬩ぎ、潰し、喰らい合う。
___ように見えるが実際はネザクが敢えて相殺に持ち込んでいるだけだ。確かに彼アステリオの魔力は、悪魔の力を封じているネザクの元々の魔力と喰らって得た一部の魔力を足してもまだ足りないほどの魔力量を誇っているが、それに慢心して鍛錬を怠っているのか構築密度が悪く、一見派手に見える魔術だが実際はハリボテと変わりはない。しかしこれでも彼は若手の中ではかなり上位に位置する魔術師なので実力を離しすぎるといけない。面倒くさいことこの上ないが仕方ない。
「なかなかやるではないか。はぁぁぁぁっ、これはどうだっ白き大地の奔流」
彼は拳を大地に叩きつける。大地が白い輝きに飲み込まれる。観客どころか自らの視界すら遮る光の奔流だ。
光は凄いが、案の定構築密度が悪くネザクが真面目に障壁を展開すれば防げる。だがネザクはそろそろこの茶番を終わらせようと上空に行くために氷の階段を創り駆け上がる。
アステリオは思った取った、と。しかし、彼は相手の使う魔術の特性を忘れていた。自分の光魔術とは違い氷魔術は実体をもつということを。
「氷の魔剣」
声が上から聞こえる。はっとして上を向くがもう遅い冷気の奔流がすぐそばまで来ていた。最後に見たのは凄まじい魔力を纏ったネザクと氷の足場だった。
そこで終了のブザーが鳴る。ネザクは「お前の負けだ。2度と絡むな」とだけ言って去って行った。