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プロローグ 前編

魔導の存在が一般的に認知されている地球とよく似た世界ミルディム。魔導をきっかけにいくつかもの国が滅び新たな国が建国される。アストライヤ公国も魔導革命を機に建国された国の1つ。

この公国を作ったのは国名のとおりにアズライル家が建てた国だ。アズライル家は代々炎の魔術を継承してきたためか赤髪紅瞳せきはつこうどうの特徴を持つ。

しかしアズライル家に生まれた少年ネザクはそれらの特徴を持ちながらも炎の魔術適性を持たなかった。それが分かったのは生まれた時に行われる魔術適性検査でのことだ。両親は焦ったが炎の魔術適性が無かっただけでなにも魔術適性がないわけではないだろう、と考え直し、他の魔術適性を調べようと他の大公家からそれらの機材を借りた。


風•わずかに反応するがこのレベルなら一般人でも反応する×氷•わずかに反応するがこのレベルなら一般人でも反応する×雷•わずかに反応するがこのレベルなら一般人でも反応する×土•全く反応なし×光•わずかに反応するが一般人でも反応する×闇•全く反応なし×錬金•全く反応なし×創造•全く反応なし×の結果を見てネザクの両親は絶望した。


魔術師メイジの家系で稀に魔術適性を持たない者が生まれることは知識としては知っていたが、まさか栄えあるアストライヤ家からでるなどとは夢にも思っていなかった。

最初の検査で出た魔術適性も窮地を脱して再び検査してみると魔術適性が上がっていたという事例もある為、発破を掛け、しばらく様子を見てみようということで話は落ち着いた。



アズライル家の敷地内にある屋敷とはずいぶん離れたにある小屋の影に息を荒く座り込む1人の幼い少年がいた。少年は、荒くした息を無理に殺しながら整える。


少年の名はネザク。この世に生を受けて7年近く経つ今も、魔術適性は変わらず最低ランクのままだった。


最初はいっても怒鳴られるくらいだったが、半年もすると殴る蹴るなどの虐待と怒鳴り声を交えての教育と成っていたさらに最悪だったのはそれを見た兄弟姉妹達が教育という名の虐待に参加し始めたことだった。


今も親族5人に追いかけ回されている最中なのだ。たとえ親族が彼の両親の前でネザクに魔術を放とうともなにも咎めない、むしろ彼らに推奨してさえいる


どこでなにをしていようとも彼らはネザクを見つけると競っているかの様に下級魔術/ファイアアローを放ってくる。故に彼らがいる限り平穏な日々はネザクに存在しない。


パリンッ!。唐突に隠れていた小屋の窓ガラスが割れる。ネザクは慌てて頭を抱えて庇う。視界の端に下級魔術/ファイアアローを捉える。


それは大した才能がなくともネザク位の歳の魔術師メイジなら、きちんと基礎を学んで十分な練習をしていれば難なく使えるはずの基礎中の基礎の下級魔術だ。


身体中に刻まれた火傷の痕がトラウマを刺激する。故にその身に受けたくない。まだ息の整っていない身体を急いで無理やり動かし遮蔽物の多い雑木林の中に飛び込み走り出す。数秒前まで座り込んでいた場所に次弾の下級魔術/ファイアアローが着弾する。


責め立てるかの様に次々に飛来し襲い来る炎の矢にネザクは恐怖し当たらない様に懸命な走る。炎の矢は若い木ならその幹を容易く撃ち抜く。ネザクはこの雑木林を兄弟姉妹達から身を隠す常套手段として活用していた。


既に幹を撃ち抜かれすぎて脆くなりその巨体を支えられず、自重に耐え切れず倒れた木も少なくはない。ネザクからしてみれば心苦しい限りだがそれも仕方ない。しかしながらも、雑木林を活用して逃げなければならないほどの一種のレベルの死活問題なのだ。


下手に魔術を受け機動力を削がれれば、追ってくる悪魔達に追い付かれることは避けられないこととなる。追い付かれれば暴行を加えられることは間違いなく、そんなこととなれば食事の時間に間に合わなくなり、食事にありつけなくなるだろう。


もっとも食事と言ってもネザクに出されるものは兄弟達に出されるものとは、ランクが違うどころか残飯と言っても差し支えないレベルのものしか出されないのだが。欲を言えば彼らと同じものを食べたいとは思うが、そんなことは天地がひっくり返ってもあり得ないことはこの7年間で理解している。なにせ誕生日ですまともなものが出されないのだから。


記憶を遡っても最後に誕生日プレゼントを貰ったのはいつだっけ、最後に微笑んでもらったのはいつだっけ、最後に頭を撫でてもらったのはいつだっけ、最後に褒めてもらったのはいつだっけ、などとある種当然の行為も最後にしてもらったのが思い出せないほど彼の幼い心は錆び付いていた。


そんな壊れた日常の中で、自分の兄弟達が親達に褒められ喜ぶ姿や、頭をなでられ嬉しそうにしている姿に、誕生日プレゼントを貰い朗らかに笑う姿、そんなある種当然の日常が彼にとって非日常だった。


自分だって褒められたい、自分だって頭をなでられたい、自分だって微笑んでもらいたい、そう何度周囲に訴えてもかえってくるのは貴様はダメだという拒絶と暴力と罵声。


なぜ、ナゼ、何故、僕だって、ずるい、ズルい、狡い

何度絶望したことだろう。ネザクは生きているのが辛かった。死ねないことが辛かった。愛されない自分が憎かった、愛してくれない家族が憎かった、自分に注がれない愛情を享受する兄弟達がひどく羨ましくて、疎ましくて、そして何より憎かった。


ピシッ、なにかに罅が入る音がネザクの耳に届き、古いラジオの様に掠れた声が僅かにきこえた。

『……の……、…様…叶………、………望…か?…讐か?それ…も……だ?』

周囲を見回すが近くには割れそうな物はないし、人影1つない。


生い茂る枝葉が何重にも重なり、ほとんど日の光が当たらない薄暗い雑木林に果てが見え、木漏れ日が光量を増していく。そんな光景とは違い待っていたのは耐え難い苦痛だった。


雑木林を走り抜けた先にある少し開けた場所には兄弟達が、否耐え難い苦痛を与える悪魔が待ち受けていた。彼らはネザクを待ち伏せて最近習得したばかりらしい中級魔術/ファイアインパクトという爆炎を放ち対象を吹き飛ばす系統の魔術を多重展開し待機させ、ネザクが視界に入った瞬間に展開した魔術を全て解放し放つ。


視界を赤い炎が埋め尽くし、あまりの苦痛に視界が歪む。最初に背中に強い衝撃を受け、転がり全身を強く打ち付けられる。そこで初めて自分が吹き飛ばされたと気づく。身体中から全身が軋むミシミシと嫌な音をあげ、激しい嘔吐感が襲う。


口から鮮烈な赤を吐き出し瑞々しい落ち葉を鮮やかに彩る。吐血し倒れ伏せるごとに身体から意識が離れていきそうになる。足音が近づいてきてやがて、ネザクの周囲を囲むように足を止める。聞きたくもない耳障りな声を耳が拾う。


「よくも無駄な手間をかけさせてくれたものだな、貴様のような魔術を使えない無能風情が、ちょこまか逃げ回りおって不愉快だ目障りだぞ。的は的らしく動き回らず静止していればいいのだ」


兄弟の中の1人、ジェイド•アズライルが苛立ちと嘲りを含んだ口調で罵倒し、さらに追い討ちを掛けるようにネザクの頭を踏みつける。


「まったく、君は本当に無能だね。見ていて苛立ってくるよ。」


さらにもう1人、ヴィクター•アズライルが、如何にも小物そうな陳腐な発言を積み重ねネザクの腹に重たい一撃を蹴り入れる。ネザクは呻き声を上げるが、その身体は1ミリたりとも自力では動かせなかった。気づくと立ち去った様子はないのに暴虐の嵐が止まっていた。ふと気になり今唯一動かせる目を動かし周囲を伺う。美しい赤髪せきはつをたなびかせ腕を組みこちらを睨みつける少女が立っていた。


レイラノーラ•アズライル、他の子供達とは違い母親も父親もネザクと同じの実の姉だ。おそらく屋敷から爆炎が見えそれが気になって来たのだろうと推測する。兄弟達の憧れ、ネザクのような無能とは比べる事すら烏滸がましい圧倒的な才能と実力を持つ鬼才。彼女は、底冷えのする鋭い眼差しをネザクに向ける。


「無様ね。」


と感情の込もらない声で呟く。それは確固たる実力をそなえし強者の言葉だ。比肩する者のいないほどの圧倒的才能を持って生まれた彼女の考えなど、ネザクのような無能に分かるはずもない。


「あなたたちもまだまだ魔術の構築式が随分と粗いわ。いい魔術とは繊細な物なのよ。折角だから手本を見せてあげるわ。みてなさい。」


治癒魔術を使い身体が動かせる程度にネザクの傷を癒し、腕を掴み無理やり立ち上がらせる。感情の込もらない声で言葉を発した姉は、無慈悲に腕を振り下ろす。


先程の爆炎が児戯のようにすら感じる極大の爆炎がネザクを吹き飛ばす。十数メートル吹き飛ばされ後方にあった巨木とぶつかり、巨木はその衝撃に耐え切れずに中程からへし折れネザクの半身を巻き込み、かなりのサイズのクレーターを作る。骨が軋む、では済まされない惨状だった。


少なくとも右腕の骨は完全に粉砕されただろう、肘あたりから見えてはいけない白色が飛び出ているし、右脚はあり得ない方向に折れ曲がっている。


急速に身体が冷え、視界が霞んでいく。抗う事なく全身を襲う虚脱感に身を委ねる。


ピシピシッ、パキッ

また何かが割れる音がした。先程の音より大きくなっているが、奇妙な事にネザクを除いて誰1人気づかない。

『お前の望み、俺様が叶うよう、なにを望む?復讐か?それともなんだ?』

あの声がフィルターがかかっているようで聞き取り辛いが、今度ははっきり聞き取れた。


唐突に拍手が鳴り響く。彼らの父親、サイモン•アズライルだ。ネザクを瀕死に追いやったレイラノーラすらネザクの存在を忘れ父親の元に駆け寄る。


「お父様、私の魔術見てくれましたか?」


その声は先程まで発していた感情の込もらない声とは違い、感情がこもっていた。


「ああレイラ、見ていたぞすごくじゃないか。その歳であれほど完成度の高い魔術をつかえるなんて。」


サイモンは彼らを一頻り褒めた後、屋敷に戻るよう命ずる。親には従順な彼らは文句を言う事なく従う。


ネザクの方に向き直って雰囲気を一変させた。


「正直言って貴様には失望したよ。今日のように死に掛けてもなお魔術が使えないなんてな。完全に理解したよ。貴様に魔術適性は無い、ならばならば我がアズライル家に置いておく義理は無い。今日限りで貴様はアズライル家の者では無い。」


そう言い放ち、ネザクの頭部を掴みそのまま敷地から出る。近くにある15メートルほどある崖からネザクを突き落とすだけに留まらず部下に命ずる。


「今から下に行きアレの死体を処分してこい。万が一、生きていたのなら確実に息の根を止めてこい」


そんな冷酷な命令を受けたのにもかかわらず眉ひとつ動かさず彼の部下は、「「はっ」」と短く応じローブをはためかせ走り去って行った。



もともと瀕死だったネザクは意識を失いかけていたが、皮肉なことに崖から落とされた衝撃で意識を取り戻した。


痛いいたいイタイ、寒いさむいサムイ、暗いくらいクライ、憎いにくいニクイ、恨めしい。どうして、なんで、何故、教えてください神様。僕にはなにも無い。

人並みの生活も、愛情も、幸せも、家族も、才能も、なに1つもっていないんです。僕が何かしましたか?僕が誰かを不幸にしましたか?僕の存在が憎いのですか?人並みなんて贅沢なこと言わないから、ほんのすこしだけでもう満足だから、お願いです、ほしい、ほしいんだ、幸せがほしいん神様‼︎。幸せが喜びが愛情がほしいんだ‼︎

もうこんな辛く苦しい世界は嫌なんだ‼︎。そんなに僕のことが嫌いで憎いなら、いっそのこと殺して下さい。苦しくて胸が張り裂けそうなくらい辛いのに、なんでだ生かすのですか?なんで殺してくれないのですか?誰からも必要とされないのに、取るに足らない存在なのに、無力で惨めで無能なただの子供なのになんで。どうして殺してくれないのですか?僕が苦しむのが面白い?僕を傷付けるのがたのしい?もう嫌だ、こんな世界。こんな苦しい世界は嫌だ。こんな狂った世界は嫌だ。


それは、生まれてから10年も経たない幼い少年の心からの悲痛な訴えだった。もはや彼の目には、世界は色褪せた薄暗い世界に見えていた。彼は全力で叫ぶ。

子供が幼い時は特に、周囲の社会の影響を受けやすいという。本来ならばら明るく染まっているはずのネザクの心は、幼い頃から人間社会の負の部分に晒されて続けたせいか一片の希望も無い暗黒だった。


殺してくれないのなら、お願いです神様。僕を助けてください神様。僕に救いをください神様。このまま生かされるなんてもう耐えられないから、お願いだから、助けてください神様。救ってください神様。


少年の魂の叫びは、神には届かない。神は無慈悲だ。どれだけ祈ろうとも、どれだけ救いを求めようとも動かない。元来運命とは、祈るだけでは、頼むだけでは変えられない。運命を変えられるのは、その個人の強い意思が必要なのだ。たとえそれが暗かろうと、明るかろうと、方向性は問はれない。それが世界の真理だ。とは言え彼はそれをしるには、受け止めるには早過ぎた。


お願いです神様。救ってください。助けて下さい。

この際、救ってくれるのならば、悪党だろうと気にしません。人でなかろうとも気にしません。たとえそれが悪魔だろうと気にしません。なので救ってください。幸せを喜びを愛情をください。


終始神は見向きもしなかったが、彼の魂の叫びは次元を超え魔界の1人の男の元にまで届いた。男はその叫びを聞くと、心地良さげに頷きネザクの血を媒体に自ら召喚をする。




『少年、君の叫びは実に心地良かった。さぁ悪魔が来たぞ‼︎私と契約すればその望み叶えよう‼︎』

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