表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

神に選ばれたくなかった男

作者: まにぃ
掲載日:2015/07/14

ちょっとした短編を書いてみました。

興味のある方は、軽い気持ちで読んでやって下さい。

 やった……!



 エドワードは驚嘆の声を上げ、同時に恐怖した。

 超大国の超軍事機密。

 数人しか知らない極秘プロジェクト。

 それがたった今完成した。



 そのウィルスは、人にしかないDNA中の特殊な塩基配列に反応して強力な毒素を作る。

 0.1gで即死してしまう恐ろしい毒素。

 ウィルスの潜伏期間は1週間。

 どんな動物もキャリアーになる。

 つまり、ばらまけば誰にも気付かれずに敵戦力を壊滅させることが出来る。

 人は警戒できても、鳥や魚までは警戒できない。

 そこを利用するのだ。

 このプロジェクトの提案者は気が狂っている。

 そう思わざるを得ない。

 エドワードは常に思っていた。



 プロジェクトの誕生は20年ほど前。

 メンバーは常に5人。

 その間改良を重ね、囚人を使った死刑という名の人体実験も行ってきた。

 プロジェクトの性質上、メンバーの入れ替えの際に前メンバーも生贄にされた。

 体のいい口封じである。

 メンバーになる時、そのことは知らされない。

 逃げられたら機密が漏れてしまうからである。

 エドワードは、統括者として唯一初めからいるメンバーなのだ。

 彼の科学者気質・野心家気質がそれに向いていたからかもしれない。




 そういえば、プロジェクトが完遂したことで、私はどうなるのだろう?

 今までのメンバーのように殺されるのだろうか?


 そんなのまっぴらだ!




 エドワードは、プロジェクトを統括する軍幹部に何も告げず、ウィルスを持ち出した。




 さてどうしよう?

 持ち出したのはいいが、私が消えていることはすなわち、ウィルスが完成したということ。

 私を怪しんで追手が来ているかもしれない。

 知らぬ存ぜぬを通すか?

 いや、それだとその場で射殺されてしまう。

 ふむ……?




 気が付いたら、エドワードは鳥の楽園に来ていた。

 研究施設からそれほど離れていない場所。

 カモフラージュには持って来いの区域。

 何も知らずに渡り鳥が羽を休めている。




 彼らに託そう……。




 エドワードは小瓶を開け、渡り鳥の群れの中に放り込んだ。

 そして何食わぬ顔で研究施設へこっそり戻っていった。




「あれ、ここに小瓶がありませんでしたか?」

 戻るなり、エドワードは所員のジョンに尋ねられた。

「ああ、それならかなり古かったので処分したよ。ひびが入ってウィルスが漏れたら困るからね。」

「そうでしたか。気が付かずにすみません。」

「気にしなくていいよ、ジョン。さあ、続きを始めようか。」




 ふとエドワードは思った。

 あと何日生きられるだろう、と。




 次の日、なぜか大統領が直々に研究施設へ視察に来た。

 ウィルスが完成真直と聞いて興味を示したのだ。

 エドワードは、ばらまいたことを悟られないように適当に話を合わせていた。

 大統領は満足して帰っていった。




 これがそもそも間違いだった。







 後に、感染ルートは複数あると研究論文には書かれている。

 1つは、エドワードがばらまいた渡り鳥。

 1つは、ばらまいた湖から川を下って大海原へ向かっていった鮭の群れ。

 そして、もう1つは……。




 エドワードがウィルスを撒いてから1週間後。

 あちこちの国の首相・大統領が次々と泡を吹いて、倒れていった。

 同じ頃、研究施設の内外でも急に倒れる者が続出した。



 そうか、そうきたか……。


 エドワードはそう思った。




 ばらまいた際、エドワードにもウィルスが付着していたのだ。

 可能性はあると思っていた。

 だから【あと何日生きられるだろう】という言葉が頭の中に浮かんでいたのだ。

 それが大統領にも感染した。

 運悪く、その後G20首脳会議だったのだ。

 移動中に大統領から何人もの感染者がいた。

 そこから一気に全世界に拡散したのだ。



 研究施設を訪れた際、大統領は考えていた。

 これが完成すれば、我が国は世界を手中にできる。

 核のように保管場所や必要経費がかからない。

 何よりも他国に気付かれずに事を進めることが出来る。

 なぜか、自分は感染しないと高をくくっていた。




 世界が驚き、この事態に反応する前に、人が消えていった。

 静かに、静かに。

 人々は恐怖した。

 他の動物は何ともないのに、人だけが死んでいく。

 これほど怖い事があるだろうか。




 電気が止まった。

 水道も止まった。

 ガスも止まった。

 供給するために必要な人が皆死んでしまったからだ。




 こんなことは本当は望んでいなかった。

 ただ解放されたかっただけなんだ。

 それなのに……!







 今は草木が生い茂っているビル街。

 新たな生態系が生まれようとしている。

 支配者はいなくなった。

 あれだけ繁栄を謳歌していた人類が。




 でも完全に滅亡したわけではなかった。







「ふう。」


 歩き疲れたエドワードがため息をついた。




 そう、皮肉にもエドワード唯一人だけが生き残っていた。

 ウィルスが反応するはずのDNAの塩基配列が、エドワードのDNAには欠けていたのだ。

 そこでようやく、自分がプロジェクトの統括者として選ばれた真の意味を理解した。

 殺さなかったのではない、殺せなかったのだと。

 それを逆に利用されたのだと。




 これから後悔しながら生きていく。

 ずっとずっと、重い十字架を背負いながら。

 自分もいつかは死ぬだろう。

 それまで、次の生態系がどのように築かれていくのか、見守ろう。

 エドワードは独りぽつんと佇んでいた。

 終わりと始まりの、あの鳥の楽園に。






 そうして千年が過ぎた。

 エドワードが死ぬ気配は全くない。

 寧ろ若返った気がする。



 そう、ここにも皮肉があった。

 実はエドワードもウィルスに侵されていたのだ。

 死ねないように。

 ウィルスの宿主として生かされるように。

 もう決して誰も殺すことのないウィルス。

 エドワードは人としての尊厳を殺されてしまった。

 これが皮肉と言わずに何と言おうか。




 感染ルートの特定等、やれることは全部やった。

 研究者として、もう出来ることはない。

 こんな事のために、神は私を選んだのか……?

 だとしたら、恨むぞ、神よ……。




 これが、ある研究者の末路である。

 神に選ばれし者の……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 自分の思いを描き、ここまで面白い作品を作れるのは、凄いなぁと思いました。 また、個人的な意見ですが、間が程好く読みやすかったです。 [一言] 良い時間を過ごさせていただきました。 ありが…
2015/07/14 19:50 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ