第三話
「ひとまず、今の状況を整理しましょう。」
会長の一言でそれははじまった。会長含め、俺、翔太、そして生徒会のメンバーであるダイスケ、西田、北条の六人がまるで円卓会議のように一つの丸テーブルを囲んだ。もちろんベッドでは女が一人静かに寝静まっている。
「私たち一校生徒一同は2006年、9月9日修学旅行としてイギリスへ向かうことになりました。そして、その途上、乗っていた飛行機に緊急放送がかかりました。そうしたら一体どういうことか。私たちはこの町になぜかいた、と。さて、一体これはどういうことなのでしょうか?」
冗談に冗談を重ねて、もはや本当のような話に聞こえるが、確かにそうだ。俺は飛行機に乗っていた。そうしてなにかまずいことが起こったという風に周りが騒ぎ出したと思ったら、はい、この荒んだ町に到着です、といった感じだ。気づけば俺は翔太と美樹、そして幼馴染である佳苗とともにいた。いずれも一緒に飛行機に乗っていたメンバーだ。
「もしかして、僕たち死んで異世界に転生しちゃったとか?」
「西野、お前そういう気持ち悪い妄想みてえな発想やめろよ。」
「ダイスケ、お前あいかわらず口が悪いな。」
「うっせ、カズマ。お前が助かったのはだれのおかげだと思ってんだ。」
俺は思う。西野の妄想は確かにいつもは馬鹿らしい、いい加減なものだが今回ばかりはそんな虚言が真実だとしても不思議ではないかもしれない。それくらい現在の状況がつかめない。
「私たち生徒会メンバーはこの地にそろって降り立った。そしてこの三日間、いろいろなことを調べまわったわ。最初はこの町の不気味な雰囲気に呑まれてくじけそうだったけど、ただ何もしないわけにはいかないでしょ。何せ生徒会なんだから。」
「さすがですね、会長は。」
なるほど、生徒会のほかのメンバーが一生懸命頑張っている中、俺たちはなんとも無駄な三日間を過ごしてきたような気がする。翔太と美樹はいつもの調子でラブラブだったし、佳苗もなんだかんだ昔から肝の据わったやつで冷静だった。ことのついでに、パニくっていた俺を情けない男と罵ってきやがった。昔からそうだった。俺や弟のタイチのことを子供扱いして、本当におせっかいな奴だった。だったじゃないな。今も根本的には変わらない。
「で、どんなことが分かったんですか、会長。とくにあの白いどろどろした生物、あれは一体なんなんですか?」
そうだ、それだ。俺が今一番知りたかったことを翔太が代弁してくれた。あれが現れてから俺たちは危険な目に会って来た。それまでの余裕は完全になくなってしまったのだ。
「詳しいことは分かりません。しかし、私たちは彼らを形式的にロドムと名づけます。ロドムの実態、その他生物種などは分からないけれど、知っている範囲で言うと彼らは私たちを襲ってくる、ということ。そしておそらくそれは捕食が目的。襲い掛かってくるときに無数の牙のようなものを見せてくることからそう判断できるわ。」
「でも、彼らは決して強くない。そしてそれを発見したのは何を隠そう、この私、鎌倉幕府執権北条氏直属の血統、北条タクマであーる。」
「適当こいてんじゃねよ、クソ野郎。一人小便漏らしてびびってたじゃねえか。」
「か、勝手なことを言うな、ダイスケ君。さすがに小便は漏らしていない。も、漏らしてなんかいないぞ。って、みんなそんな目で私を見るな!? 嘘だ、冗談だ。今のはユーモアだ。そう、ユーモアなんだ。ははは~、全く北条くんはお茶目だなあ、あは、あはははは。」
北条が汚いのは分かったとして、弱いってなんだ? 俺にも倒せるのかもしかして。
「ロドムは大きさこそそこそこだけど、身体能力は決して高くはないわ。私たちも最初は怖くて逃げていたんだけれど、いざ闘ってみればなんてことはなかったわ。」
「まあ、会長は生粋の武道派だからな。サイボーグ女の言うことだから俺たちとはちょっと感覚がずれてるかもだけどな。くくく。」
「ちょっとダイスケ君、そういう風に言うのやめてよ。失礼でしょ。まあ、とにかくロドムは闘える相手、と。みんながみんなそうじゃないけど、多少慣れている人なら多分勝てるわ。ただ、ロドムたちは牙を持っているのがとにかく厄介なの。私たちはあの牙に噛まれたらやられるっていう、恐怖心を常に持つことになるから。だから、闘うときに必要なのはその恐怖心に負けない勇気ってところかしらね。」
勇気・・・・・か。確かに相手がいくら子供だからといって凶器をもっていたらさすがに怖いもんな。
「あとはここが本当にどこなのか、そのことが疑問ね。雰囲気的にはヨーロッパって感じだけど、こんな荒れ果てた町、今じゃありえないだろうし。」
「とりあえずこの後どうするよ、会長さん。それに俺は美樹と佳苗と合流しなきゃなんだ。」
「そ、そうだ。そうだった。あいつらもいるんだよこの町に。一緒にここに来たんだ。」
「え、他にも一校生がいるの? だったらメールでもなんでもいいわ。ひとまず連絡をとりましょう。さっきカズマ君と話せて、通信環境は整っていることは確認できたから。」
会長も今まで知らなかったんですね。でもそうと決まれば話は早い。片っ端から連絡をかけてみよう。先の絶望的な状況から、なんとなく希望が見えてきて俺は明るい気持ちになってきていた。