第二話
例の怪物たちがひしめいていた場所からなんとか俺は抜け出した。翔太と、そしてもう直視できないほどに痛々しい姿を晒した女が一緒だ。俺たちは彼女を安静な状態にしようと、近くに見えた民家の中へと入った。そうしてぼろぼろな、なんだか今にも朽ちてしまいそうな木製のベッドのうえに彼女を横たわらせた。それでもベッドの上に薄いタオルケットが存在していたのは助かった。直に木に触れるよりかは幾分ましなはずだ。次に家内から急いで応急処置に使えそうなものを探す。ほどなくして、それを食器棚から探し出し、これまた大急ぎで止血作業に入った。俺はこういうときの対処法やらをほとんどわからなかったが、幸いなことに父が医者という実力派の翔太が、的確な処置と指示を行ったので、血は止められたようだし、それなりの対処はできたようだった。三日間のこの地での経験上、基本的に民家と思しきところに人は住んでいなかった。だから、俺たちはこうして自由に各家を出入りすることが出来た。本当に荒廃した場所というに間違いがなく、人の気配を全く感じることの出来ない退廃的な町だ。俺は改めてそう思った。
ブーッブーッ。
俺の脚に振動が伝わった。俺は携帯を取り出し、すぐに耳元へとそれを近づける。
「もしもし、カズマ君?」
「ユキ会長、大丈夫でしたか? というより今どこですか?」
「全然平気よ。他の生徒会メンバーももちろんね。今からそっち向かうわ。場所教えて。」
「あ、はい。えーと、そうですね、ここは・・・・・・。」
とにかくこの地に来てまだ日が浅い。場所を伝えるだけでも一苦労である。ついでに言うなら、ここで携帯が使用できる、通信環境が整っていることをようやく今知った。物は試しっていうことか。
「会長と他のメンバーがもうすぐここに来てくれるってさ。」
「ああ、そうかよ。てか、俺はあいつらのこと知らないんだけど、あいつらお前の友達か?」
「そうだ。一校で一緒に生徒会をしてる仲間たちだ。翔太も会長くらいは分かるだろ。よくイベントとか、集会やらで教壇に立ってるし。」
「あーあ、あの美人で有名な会長さんか。そういや、知ってたわ。」
美人と聞いて、俺はなんとなしにベッドで横たわる女の顔を見た。止血のための包帯が巻かれているので、顔の全部が見えているわけではなかったが、それは確かに美人と言うに相応しい造形だった。しかし同時に、不気味なほどに醸し出す清楚感が彼女をなんともミステリアスな雰囲気に包んでいた。
「美人といえば、この子も結構な美人さんだよな。」
「今、ちょうど全くおんなじこと思ってた。」
「ははは。なんだかどこかのお嬢様って感じだな。まあ、起きたらちゃんと言っとけよ。俺が助けてやったんだぜってな、カーズマ君。」
「はあ!? 俺はそんなんで助けたんじゃねよ。」
「じゃあ、俺が助けたことにしてやろうか? ええ?」
「・・・・・・。」
「はははは。冗談だよ、冗談。俺には美樹がいるしな。だから、そんなむっとすんなって。」
本当に翔太はいらつく野郎だ。いつもいつも美樹といちゃいちゃしやがって。目の前でそんなことをされている俺の身にもなってみろ。
カチャリ。
ドアの開く音がした。そうして生徒会長をはじめとした先のメンバーが入ってきた。
「よう、カズマ。」
「カ、カズマ君・・・・・・。」
「これでようやく・・・・・・、全員集合ね。」