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トワコさんはもういない  作者: 呑竜
「愛の花たち」

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20/70

「トワコさんはピンチに必ず駆けつける」

 ~~~新堂新しんどうあらた~~~




 サキュバス。

 対象の男性の最も理想とする女性の姿をとり、夢の中に現れる悪魔。淫魔ともいう。

 主な行動は男性の精を搾り取る──つまり夢精を促すこと。

「肉欲に呑まれたのではなく、悪魔にたぶらかされたんです」なんて、いかにも厳格な信徒のエクスキューズに使われそうな存在。


 それが今、現実となって目の前にいる。

 つまり彼女はトワコさんと同じようにIFなのだ。

 輿水桃華こしみずとうかという世の男性が好みそうな外皮がいひをかぶっているのだ。


 じゃあおまえ自身はどうなんだって?

 そりゃあもちろん嫌いじゃない。

 大っきな胸や丸みを帯びた尻、保護欲をくすぐる甘~い声。

 言い寄られたらぐらつくし、すり寄られたら赤面する。


 だってしょうがないだろ?

 彼女はそういう存在なのだから。

 徹頭徹尾、男性を喜ばせるために創られた存在なのだから。


 つーかしかし、なんだって……。


「なんでおまえはこんなの創造しちゃったんだよ!」


「――なによこんなのって! 桃華をバカにする気⁉」


 奏は全力で抗議してくる。


「バカにはしてねえよ! こういうのがあっちゃダメだとは言わねえよ⁉ でももっと他にあるだろ! 男性アイドルとかイケメン俳優とかさあ! インキュバスだっていいよ! なんで女の子がサキュバス想像してんだよ! 創造しちゃったんだよ! 身の丈に合わせろよ! 立ち位置を考えろよ! おまえは年頃の女の子なんだぞ⁉」


「たしかにトワコさんは男性の妄想が凝り固まったような存在だものね⁉」


「――ううっ……⁉」


 奏の思いもよらない反撃に、俺は狼狽うろたえる。


「黒髪ロングでナイスバディで、一見クールだけど裏ではすごいことしてそうで、実際なんでもしてくれるんでしょ⁉ ああやだ! エッチ! 変態! むっつりスケベ! 自分で創ったIFを自分の教室に迎えて生徒として指導するって、いったいどんだけ手の込んだプレイしてんのよ!」


 奏は怖気おぞけを振るうように自分自身を抱きしめた。


「ぷ……プレイまで言うか⁉ つうかIFの創造者なんてみんな同じ穴のむじなだろ⁉ ぶっちゃけ同類だろ⁉ おまえだって桃華で色々おかしなこと考えてたんだろ⁉」


「あたしは違うわ!」


 奏はぴしゃりと跳ねつけた。


「あたしは純粋に友達が欲しかったのよ! 同じ道を歩む同士が欲しかったのよ!」


「なんだよサキュバスと同じ道って!」


「言ったでしょ、愛の花たちって! 世の中のありとあらゆるエロいものを蜜として蓄えて、胞子を飛ばすように知らしめるのよ!」


 奏はつかつかと押し入れに歩み寄り、勢いよく開けた。


「さあご覧!」


 ――そこには、ありとあらゆる道具が詰め込まれていた。


 有りていにいって、性行為にきょうする道具だった。

 小刻みに振動する球状の何か。グイングインとうねる十手状の何か。ベルトのバックル部に反り返る突起を生やした何か。

 書籍類も豊富にあった。

 多くのエロ本。遡ってビニ本。江戸時代の春本艶本。

 とにかくありとあらゆるエロイ小物が詰め込まれていた。ちょっとした秘宝館のようなものだった。温泉街に置いときゃ入館料がとれそうなレベルだ。


「な……な……な……⁉」


 さすがに言葉を失っていると、奏は手を拡げて「ババーン」と口で効果音を出した。


「これが……パンドラの箱よ!」


「いやいやいや、なんだよこれおかしいだろ! ババーンじゃねえよ! ありとあらゆる色事の種が詰まってるだけじゃねえか! 災厄じゃなくて最悪だよ! 男子の秘蔵コレクションの延長線上にあるだけのものだよ!」


「最後には希望が残ってるのよ!」


「おまえそれが言いたかっただけだろ⁉ かっこいいと思っただけだろ⁉ 断言するけど、最後に残ってるのはむなしいため息だけだよ! なんで俺はこんなもの集めてたんだろうって切なくなるだけだよ!」


 奏は強くかぶりを振った。


「そんなことないわ! エロを追い求めるのが男子一生の夢だってじいちゃんは言ってた! 夢追い人は美しいって!」


「じいちゃん⁉ そいつが諸悪の根源か! よし1回会わせろ! 説教してやるから連れて来い!」


「無理よ! 奥の間で執筆中だもの!」


「執筆……中?」


団寅吉だんとらきちって知ってる⁉ それがあたしの祖父よ!」


 団……寅吉……だと⁉


「昭和最後のエロ小説家じゃないか⁉ 文学青年が下宿先の未亡人からねっちりねっとり性を開花させられ、のちに性豪となる様を描いた『花と蛇と縄』の筆致が凄まじすぎて格調が高すぎて、エロ小説のくせに危うく国民的純文学賞を受賞しそうになった、あの……⁉」

 

「……ほほう。読んだことがおありで……?」


「ううっ⁉」


 誘導尋問か⁉


「む……昔の文学青年だったらけっこう読んでるもんなんだよ! あの人の緊密な文章や濃密な人物描写は小説作法のお手本扱いされてるくらいなんだからな! 俺だってちょっとサイン欲しいぐらいなんだからな!」 


「ふふ……ふふふ……そうでしょうそうでしょう。あたしのじいちゃんはすごいのですよ! あーっはっはっはぁ!」


 ものすごい自慢げに胸を反らす奏。


「わかった⁉ あたしはそのじいちゃんに来る日も来る日もエロいことを吹き込まれて育ったの!英才教育を受けて育ったの! 一番最初に見た映画は『チャタレイ夫人の恋人』よ⁉ 子守歌が『金太の大冒険』よ⁉ そんなコ他にいるわけないわよね⁉ そりゃあひねくれもするわよね⁉ 他の友達とは一線置くわよね⁉ だってすべてがエロいことに変換されるんだもの! 音楽の時間なんか大変よ⁉ リコーダーやメロディカみたいな吹き物に、シンバルやカスタネットみたいな叩き物、全部が全部、そういった道具にしか見えないんだから! でもそんなこと言ったら引かれるから言えないのよ! 成分表で言ったら9割を隠しながら生活してるのよ! 平気なふうに見えるかもしれないけど、実は窒息しそうなほど苦しいのよ!」


「奏おまえ……」 


 ──自慢話のつもりが、いつの間にか自虐話になっていた。


 奏は「……あれ⁉」と驚き口元を押さえた。


「……おまえ実は、後悔してるんだろう?」


「──⁉」


 奏はぎょっと目を見開いた。


 ……図星か。


「そうだよな。おまえ、友達ができなくて寂しくて、しょうがなく桃華を創ったんだもんな。いつも一緒にそばにいてくれて、他の人なら引くような自分の本性をも受け入れてくれる万能の友達。そいつだけが傍にいればいい。その気持ちわかるよ。俺だって伊達にトワコさんを創ったわけじゃない……」


「センセ……?」


 手を差し伸べたいが縛られている。かわりにありったけの慈愛をこめた眼差しを奏に向ける。


「──奏。俺はおまえのじいちゃんの教えを否定はしない。趣味に没頭するのもいいと思う。だけど内に閉じこもるのはダメだ。ふたりだけでいちゃだめだ。それじゃますます友達できなくなるぞ? 世間様に顔向けできなくなるぞ? ――だからさ、もうやめよう。俺が理解してやる。俺の前では自然体でいていい。もう桃華だけじゃない。俺もおまえの友達になってやるから……」


「センセ……あたしのこと、わかってくれるの?」


 おずおずと、奏が近づいてくる。

 その目にもはや、攻撃的な光はない。IFになんらかの救いを求めた者のみが持つ連帯感がある。


「──まったく先生は口が巧いよね~」


 桃華とうかのかぎ爪が、ひたりと俺の喉元に当てられる。


「ひうおっ⁉」


 おかしな声が出た。


「わたしの奏ちゃんを口先三寸でたぶらかそうなんて、ホント油断も隙もないんだから~」


 鼻歌でも歌いそうな上機嫌で、桃華が俺の上にまたがり馬乗りになった。

 薄い下着越しに、肉感的な尻たぶの感触を腹に感じる。セーターに包まれたボリューミーな胸が目の前でわさわさと揺れる。


「……あれ~? 先生もしかして、けっこう興奮してる? 口ではなんやかや言う割に、こういうの好きだったりして~?」


 顔をのぞき込むようにしてくる桃華の胸が、俺の胸板に押しつけられゴムまりのように変形する。


「呼吸が荒くなって脈拍が早くなって~。あれれ~? 下半身の一部に血液が流れこんでるみたいだよ~? これってもしかして~? 偉そうなこと言ってるわりに、その教え子相手に興奮しちゃってるんじゃないの~?」


「ち、違う……! これは……!」


「ふぅ~ん。そうなんだ~。男の子ってたいへ~ん」


 わかってますよって感じでころころと楽しげに笑う桃華は、かぎ爪のカーブで俺の頬を弄ぶように撫でた。


「うおっ。や、やめろぉ……」


 研ぎ澄まされた爪が、かすかな産毛を剃り落していく。

 ちょっとの動きで身まで削れるかもしれないと思うと、迂闊に動けない。

 

「……やっぱりセンセは、教え子をナンパしてあれやこれやしようと考えるような変態クズ教師だったんだね」


 奏がわなわなと肩を震わせながらつぶやく。


「──ち、違うんだ奏!」


「……あたしを騙してどうしようと思ったの⁉ 話を合わせて縄を解かせて、それから何をしようと思ったの⁉ ナニをしようと思ったの⁉ 理解してるって言ったのも、友達になってやるって言ったのもみんな嘘なんだ! あたしみたいな子供なら簡単に騙せるから……!」


 奏の顔が裏切られることの恐怖に歪んでいる。


「違うんだ奏。話を聞いてくれ!」


「なにが違うの! 現に今だって、桃華をお腹に乗せてみっともなく鼻息荒くしてるくせに!」


「これは完全に不可抗力だろうが! 手足拘束されて他にどうしろってんだ!」


「教師ならそれぐらい耐えてみせてよ!」


「おまえらはホント、教師のハードル上げすぎだと思うよ⁉」


 仙人じゃねえんだからさあ!


「……もういや。口を開けば言い訳ばかり」


 奏の目が座っている。


「100パーセント正当な言い分だと思うんですがね⁉」


「……もういい。あたしたちはどうしてもわかり合えない関係みたいだね」


「おまえはもうちょっと聞く耳を持ったほうがいいと思うよ⁉ 本気で将来が心配だよ!」


 奏は押し入れをごそごそ漁ると、うにょんうにょんと怪しい機械音をたてる十手状の道具を取り出した。


「うわあああぁ⁉」


 情けない悲鳴が漏れた。


「お……おまえ……奏! それをいったいどうするつもりだ⁉」


「ああこれね……」


 禍々しい形状の物体に、奏は愛おしげに頬ずりする。


「凄い形してるでしょ? センセの心の扉を開ける鍵よ」


「それ違うとこが開いちゃうやつじないかー⁉」


「でもセンセの友達は気持ちよさそうに寝てるよ?」


「それ絶対気絶してるだけだろ!」 


 さよなら俺の知ってる勝!


「──マリーさん! マリーさぁん!」


 いまだ姿の見えぬマリーさんに助けを求める。

 日傘はなんらかの理由で落としたのかもしれない。本人は意外と無事で、いまにもここへ助けに向かっているところかもしれない。

 

「金髪ゴスロリ幼女なら来ないよ」


 俺の希望的観測を、奏は木端微塵に粉砕する。


「お……おまえらマリーさんに何をした⁉」


「あー。エッチぃ。今、あんなことやこんなことをみっちりとしたって思ったでしょ。あのコを素材に条例にひっかかりそうないろんな妄想をたくましくしたでしょ」


 じと目になる奏。


「思わねえよ! この状況でそんなこと考えるとか、俺はどんだけど腐れ野郎なんだよ!」


「ちなみにあたしはした! 口にできないようなことをあれやこれやと!」


「うるせえよ! 胸を張っていうことじゃねえよ!」


 奏は額に手を当てため息をついた。


「でも残念。なんせ相手はメンターだからね。どんな条件や設定づけされてるかわかんないから寝せてるだけなんだぁ」


「え。寝てる……?」


 永遠にとかいう意味でなく?


「お酒に睡眠薬をいれたら一発だったよ。駆けつけ一杯とか言ってごくごく呑んでたね。一ミリも疑ったりせず。よっぽどお酒が好きなんだねあのコ」


「くっそあの女ぁー!」


 そういえば居酒屋にいた時から相当呑んでたっけ。 

 自分メンターのことが見えてる時点でおかしいと気づけよ! や、気づいたうえで呑んだのか⁉ どっちにしろろくでもないな!


「あぁららら~。完全に詰みだね、先生」


 桃華の手が俺の頬を撫でる。


「さ。めくるめく性の世界の扉を開けようか」


 奏が道具を掲げてにっこりほほ笑む。


 かくなる上はしかたない。これだけは使いたくなかったが……。

 俺は息を吸い込み、力の限り叫んだ。


「トワコさぁん! たあすけてくれえええぇ!」


 ――ズドオオオオオオオオオオォン!


 間髪入れず、遠くで大きな音が聞こえた。隕石でも落っこちて来たかのような音だった。どでかい屋敷がぐらぐらと揺れ、天井からぱらぱらと埃が落ちてきた。


「な――」


「……いまのなに~?」


 奏と桃華もさすがに硬直している。


 初めてトワコさんに出会った夜のことを思い出した。

 あの時も、彼女は颯爽とやって来た。夜闇を切り裂き、さながら少年漫画のヒーローのように――トワコさんは、ピンチに必ず駆けつける。




 ~~~トワコさん~~~ 




 バチバチバチッ……。

 空気が帯電している。金氣かなけクサい臭いが鼻につく。

 瞬間移動の衝撃で、庭の一部がクレーターのように陥没している。 中心にいるのはわたしだ。


 新のピンチを察したわたしは、雛との食事──毒飯を食べたくないので、ほぼわたしが作った──中にいきなり呼び出された。

 セーラー服ではなくスウェット上下の部屋着のまま、素足のまま、手には取り分け用の菜箸だけを握っていた。


「勝と男子会みたいなことを言ってたくせに……なぁんでこんなとこにいるのかしらねぇ……」


 首をこきこき鳴らしながら見渡すと、そこは日本家屋の庭園の一部のようだった。白砂に築山、枯山水を気取っているのか。


「──げげ、マジでか。トワコさんが来ちゃった!」


 声のほうに目を向けると、庭に面した廊下に狭霧奏と輿水桃華がいた。いつも教室でわたしに話しかけてくるうざったいふたり組が、今夜もふたり揃っている。


「わわわ~。ほんとだ~。トワコさんだ~。すっご~い。先生が呼び出したんだ~。その能力、わたしも欲しいな~」


 脳味噌の代わりに脂肪が詰まってるような声は桃華だ。可愛い系を装いながらの肉感的なファッションが、なんともあざとい。


 ……あら? 


 桃華の背に、どう見てもコウモリの羽根にしか見えないものが生えている。手足の先端がかぎ爪状に伸びている。ハリウッド映画も真っ青なレベルのリアルぶり。


「……男子会……ねえ?」


 ぎり、と奥歯を噛み締める。


「……わたしに黙って女子と密会。それが実はIFによる美人局つつもたせだったってところか。ふぅん……い~い度胸だわ」


 察した。だいたい察した。

 そして許さん。新め。極刑を申しわたす。


「待った待った。誤解だよ! あたしたちは悪くないんだ!」


 怒りのオーラをほとばしらせているわたしをなだめようと、奏と桃華が砂地に降りてくる。


「そうだよ~。わたしたち、先生にナンパされてお酒を呑まされたの~。高校生だから無理だって言ったのに~」


「ほぉう……」


 ひく……っ、頬が引きつる。


「そうそうそう! 両親不在をいいことに家にまで凸されて、色々な意味で危ないとこだったんだよ!」


「正当防衛なの~。怪我もさせてないの、大人しくしてもらってるだけなの~」


「ほほぉう……」


 ぎゅううう、と拳を握りこむ。


「お願いトワコさん! センセを責めないであげて! あの人も疲れてるんだよ! センセだって男性だし、たまにはハメを外したい夜もあるよ! あたしたちが魅力的すぎたせいでもあると思う! ほんとにごめん! だからいきなり怒ったりしないで、話を聞いてあげて! ほら、ここにお水があるからこれでも飲んで落ち着……!」


 奏が差し出そうとしたコップを、わたしは一顧だにせず遠くへ弾き飛ばした。


「どう聞いても煽りにしか聞こえないんだけど――だってそれはつまり、わたしに魅力がないってことになるのだものねえ……? あなたたち、わかってて言ってるのよねえ……?」

 

 ふたりは顔を見合わせた。


「あっれれー? 説得の仕方を間違えちゃったかなー?」


「そうかもね~。変にプライドを刺激しちゃったみたい~。でもい~んじゃな~い? どうせ最後は同じわけだし~。わたしたちの玩具として遊ばれ続ける運命にあるわけだし~」


 桃華はもはや、挑戦的なまなざしを隠そうともしない。


「……ふぅん。そっちはやる気満点ってわけだ?」


「そういうことになるのかな~?」


 桃華は奏とわたしの間に体を入れて盾になり、奏が家の奥へと逃げる時間を稼いだ。

 わたしは腰に手をあて、奏を黙って見送った。


「――ありがとう。新の居場所を探る目印を作ってくれて」


 ぽきぽきと拳を鳴らした。砂地の様子を足の裏でたしかめた。きっちり整備されてる。これなら素足で動き回っても問題なさそうだ。


「ふ~ん? わざと逃がしたって言いたいわけ~?」


「だってそうでしょ? あんたらふたりを喋る余地もなく殺してしまったら、新がどこかの地下牢に閉じ込められていたらわからなくなってしまうもの。場所によっては最悪このまま餓死するまであるわ」


「なるほどね~。そういう脅しの仕方があったか~」


 桃華はおどけるように手を叩きながら、宙高く舞い上がった。


「さっすがトワコさん~。同じIFとして、学ぶべきとこがたくさんあるな~。でもざ~んねん。地の利はこっちにあるんだよ~? 先に着いた奏ちゃんが、先生に何もしないと思う~?」


「そういうことなら心配しないで。あんたごときに足止めできるほど、わたしの『設定』は甘くないのよ」


 桃華は答えなかった。代わりに両手のかぎ爪を鳴らした。それが開戦の合図となった――。



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