第7話 森とおじさん
いつも読んで下さり、本当にありがとうございます。
引き続きお付き合い頂けたらと思います。
あれから薬屋「ベルへ」での材料の調達は私の仕事になった。
木の実だけではなく限られた所にしか生えていない草木を取ってくることも多々、自分でも大分慣れてきたと思っている。
作業中に獣捕獲用の罠にはまって材料を辺りにぶちまけたり向こう側から走ってきた小動物と一緒に肉食獣の群れに追い掛けられたりしたが、そんなのまだ可愛いものである。
作業が終わってアウラさんの所へ届け終わると、待ち構えていたエルくんと再び外へ。
どうやら警備隊の上司から居酒屋での件を詳しく聞いたらしく、今では彼の中での私のイメージは 虚ろなねーちゃんから
強いねーちゃんに変わりつつある。
エルくんの筋はなかなかだ。
まだまだ成長過程にある彼は、力は私とさほど変わらないもののすばしこい。
同じく素早さを武器にしている私には戦いにくい相手だ。
時々警備隊の友達も合流したりして (厄介事引受け人って呼ばれたんですけど、何それ) この街が、この世界がどんなものか段々と理解してきた。
そんなこの頃、私は1人である所に向かっていた。
「えーっと、確かここら辺だったよね。一面緑だからよく覚えてないけど…」
今日は私がこの世界に最初にやって来た場所、つまり移転魔術が発動した所へ来ている。
師から貰った(投げつけられた)教本によると、魔術発動後の地点は、魔方陣は消えるものの、かすかに魔力が残されていることがあるらしい。
可能性は低いが調べておくにこしたことはないだろう。
キョロキョロと辺りを見回しながら見当のついている場所を探す。
しかし、
「あ~…やっぱり見つからないかぁ~…」
どうやらその場所は周りと同化してしまったようだ。
歩みを止めてその場にストンと座り込む。
(移転系統はヒア・ディールの中でも高度の部類に入るんだよね。そんなもの自然界の魔法で存在するはずはないし、ましてや私が無意識に発動できるようなものじゃない。)
というと、誰かによって魔方陣が設置されていたと考えるのが妥当だろう。
しかしそんな高度なものを形成できる魔術師など、あの島にいただろうか。
考えていくと迷宮に迷い込みそうな推察を止め、ユハイエルは立ち上がった。
考えて答えが出ないものは考えない。
常に台風と共にあるような生活のお陰か、彼女の思い切りは清々しいものだった。
パンパンと膝に着いたホコリを払い、もうそろそろ夕方になるしせっかくだから薬草でも採って帰るか!と勢い良く道の脇に入って行くと、
ガッ、と
何かにつまずいた。
まずい!これはいつもやらかす前方不注意による転倒!すみやかに受け身を図るべし!
と電光石火の如く思考をめぐらせたが、躓いた物体を見る事でそれを実行することはできなかった。
つんのめるようにして道の脇に倒れこんだユハイエルは、しこたま打った鼻を抑えながら先程目に入ったものをガン見してみる?
(え、おじさんだよね?なんでおじさん!?しかもこんな道の脇で!!?)
見知らぬおじさんの脇腹に蹴りを入れた形となっていたユハイエルは何とか言い訳を探そうと焦ったが、特に助けになりそうなものはなかった。
誤字、脱字等ございましたら教えていただければ幸いです。