【閑話】騎士からみた少女
第6話の他者視点になります。
少女の外観で特筆するものは無かった。
この地にしては少し白い肌を細い身体に纏い、まだ少年にも思えるような容貌は声を聞くことで少女であることが分かる。
暑いであろう長袖を肘まで捲り上げ、肩より少し上まで伸びている黒髪をうっとおしそうに振っている。
決して多くはないが珍しくもない少女。
だが、どこか寂しそうに附せられた黒い瞳は強く何かを訴えているように爛々と光をたたえていた。
ソルオンは目の前に広がる光景にただ感心していた。
後から入ってきた、子どもの母親だろう女と酔っ払いの言い争いには参加せず、じっとそれを見ている。
その立ち姿が何とも普通の少女らしからぬ。
しかし何かを考えるように静止していた体は女が掴みかかられたその瞬間に動きを再開し始めた。
言い争いの中に飛び込み片手をつっぱる事で女を男の腕から引き離す。
囁くように何かを呟いたと思うと瞬間、不規則な風の壁が柔らかく辺りを包みこみ少女の髪をフワリと浮き上がらせた。
(風の魔術式か・・・?発動までの時間が短い。手慣れている。)
何となく見守っていた彼の眼は今や、武人を前にするものになっていた。
彼は元々生粋の軍事家系の出身である。
今や帝国騎士団第一部隊軍師である父や、同じく第一部隊の隊長を務めている兄とは離れて育ったものの、12を数える頃には一般騎士団に入団するほどの才能を持っていた。
屈強な騎士達が揃う騎士団の中でも彼の天賦の才能は見て測れるものであった。
そんな彼でさえも10年の間、最高の環境でもまれにもまれてきたのだ。
今でこそ帝国騎士団の上層部に位置しているが父や兄、そして騎士団での指導が無ければそこまでいっていないだろう。
しかし、今の目前にいる少女は。
かなりの腕前を誇る軍師に手掛けられたような動きをする。
重心を低くし、前後左右の移動場所を確保する。
力技では敵わないと判断し、相手の力を利用しながら的確な場所を突く。
さらに目の前の男を相手にしつつも常に周りへの配慮は欠かしていない。
サラサラと黒髪をなびかせながら次々と相手を沈めていく。
よく、できた少女であると思う。
自身の長所を良く理解してそれを活かしており、総合的に一般騎士見習い位にはなれるレベルだろう。
ものの数分で全員を縛りあげた少女に、周りはただぽかん、と突っ立っていたが、母親の放った一言に場の空気が変化した。
母親の言葉に対して反応する彼女は、先程まで黒い瞳で相手を見据えていた人物ではなかった。
ただの、可愛らしい少女である。
(・・・面白い。帝都にはなかなかいない、優秀な人材だな、こりゃ。)
魔法と武力の併用は、初心者には難しが使いこなせればかなりの戦力になる。
今は周囲を守るためにのみ使用している魔法を指先で事細かに調整している所を見ると得意なのは体術だけではないだろう。
帝都にいる附抜けた貴族騎士の連中に見せてやりたいものである。
一体どこからやってきたのだろうか。
一体どうやって身のこなしを学んできたのか。
気だるげでのんびりとした昼時は終わり、彼は未だうなだれている少女に向かって声をかけたのだった。
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