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巻き込まれ少女  作者: 小鳩雨
第一部
6/21

第5話 諍い、惑い

そんなつもりはなかったのですが少し、シリアスになってしまいました。

「ふざけんなこのガキっ!!!!」

「女だからって甘くみてやると思うなよ!!!」



「ガキじゃないし!みなくていいし!!!」




結局あの後乗り込んできたアウラさんと、この酔っ払い達が言い争いを始め、一人の男がアウラさんの胸倉を掴んだ時に私の試合のゴングが鳴った。



(ーーーーやっぱり体質って変わらないんだね・・・異世界来ても・・・・)


ユハイエルは吐いても吐いても出てくる溜め息を抑えながら男達をいなしていく。

元いた世界でもやはり彼女は断トツに酔っ払いの諍いに首を突っ込まされていたのだ。

師に無理やり連れて行かされた居酒屋ではむしろ、何事もなく店を出るほうが奇跡であった。

酔っぱらって掴みかかってくるやつらをかわしては捕まえ、捕まえてはかわすうちに彼女の中で酔っ払いに対するある一定の対処法が出来上がっていた。


まず片手で風魔法の魔術式を発動させ、球状の威力を保ちながら被害の拡散を防ぐ。

相手の懐に飛び込み片手の肘と肩を掴んで勢いよく後ろに回す。

そのまま下半身をねじり、隙ができている背中に一発蹴りを叩きこむ。

もっと強いやつでは剣を抜かなければいけないが、酔っ払いは大抵力が弱くなっているのでこれでほぼ撃沈。

最後風魔法で捕縛、完了である。

これを複数人相手に応用して使えばいいだろう。


何とも綺麗な動作で次々とやつらを大人しくさせていくユハイエルを、アウラと居酒屋の夫人はあっけにとられて見ていたのだが、彼女が最後の一人を引きずって風の鎖に繋ぐとはっと我に返った。


「あんた、ユハ・・・本当に女の子かい?」




「え?そこなんです!!?」

残りの風を使って後片付けをしていたユハイエルはこれだけの大立ち回りを披露していたにもかかわらず息ひとつきらしていない状態で反応を返した。



「いや、そうだったね・・失礼な事を言っちまった。ありがとう。お陰で息子は無事だよ。」

「そうだよ!すごいじゃないか!あんなに綺麗な回し蹴りは初めて見たよ。」


(いや、やっぱり違くない?!どうやって強くなったのとかじゃないの普通??まあ根ほり葉ほり聞かれても困るけれど!!)




「いやあ~まったくだ。あまりにも爽快な暴れっぷりだったからからつい見守っちまったよ。」




「え、いやだから手放しで褒められても反応に困る・・・え?」

アウラさんとおかみさんが若干(?)失礼な事を言ってくるのにがっくりしながら俯いていると背後からまた同じような失礼な言葉が聞こえてきた。

ん?背後?




「いや、まさに玄人の動きってやつだよな。何か武芸でも嗜んでいたのか?」



後ろを振り返ったら、とても綺麗なお兄さんがいました。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




お兄さんの名前はソルオンさんというらしい。

私がなかなかうまく発音できないのでソルでいい、と言ってくれた。

何だかすみません・・はい。


ちなみに何故今ソルさんと一緒にいるかというと、先ほど起こった諍いの後始末である。

ソルさんはこの帝国の軍部のお偉いさんらしく(若いのにすごいですよね)、事の詳細を警備隊に知らせるために私に一緒に着いてきて欲しいと言ってきたのだ。

そんなに偉い人ならわざわざ出向かなくてもいいんじゃないかと思ったが、「俺は今暇だからちょうどいいんだ」とニカッと音が付いてきそうな笑顔で言われてしまったので最早何も言わないことに決めた。

背も高いし私より年は上なのだろうけど、なんだろう、人懐っこい感じの方なんでしょうかね・・・?

前にいた世界では剣を扱う男の人がたくさんいたけど、こんなに爽やかじゃなかったはず。

師匠が見たらきっと弟子にする!!っていって聞かないんだろうなあ・・・



アウラさんと同じく、北部の田舎から来て、世間離れしていると言えば何かいいたそうな顔をしていたけれど、彼は色んな事を教えてくれた。

まず北部には帝都ザハルがあるということ。

帝都には主な10の騎士団部隊が滞在していること。

騎士団の中にも王族や貴族の守護を担う近衛騎士団と、街を警護する一般騎士団がいること。

ソルさんは今は近衛騎士団所属だけど、昔は一般騎士団に所属していたこと。



「騎士団の中ってそんなに違うものなんですか?」


「あ?ああ、結構な。本当はこういう視察は一般騎士の仕事なんだが今回はそれついでに色々と調べなきゃいけないことがあってな、俺達が来たんだ。」

警備隊に無事引き継ぎを終わらせ(そこにいた隊の人には胡散臭げな目で見られました)、元いた居酒屋の通りに戻る途中気になっていたことを聞いてみるとこう返ってきた。


お互いの目的地である居酒屋と「ベルヘ」前にたどりついた頃には辺りはすっかり夕焼けに染まっていて、初めてこの街に入った時とは全然違う景色に見えた。


「そうなんですか、じゃあ調べ物が終わったら帝都に帰るんですね」


「ん、そうだな。滞在予定も明日までだし、今はあまりゆっくりしていられるような時期でも・・・っと、なんでもない。」



「?そうですか?」

「ああ、お前は?ここの街の人間じゃないんだろ?」






「・・・・・そうですね。帰りたいです。」


「だよな。故郷が一番だよな」

帰りたい、と言っただけでこれからどうする、の質問に答えなかったのに、ソルさんは私の頭をポンポンと撫でてそう言ってくれた。



「ありがとうございました。お話楽しかったです。」

手を挙げ挨拶を返してくれたソルさんを見送って「ベルヘ」の中に入っていく。

今日は泊まっていけとアウラさんが言ってくれたのだ。


体が重い。そう感じるのはなんでだろう?


スースーと寝息を立てているヘルくんの隣のベットに潜り込み、目を閉じてみる。

今日は色んな事があった。

なんでか解らないけど異世界に来てしまって、

相変わらずの巻き込まれ具合で諍いに首突っ込んで。

ソルさんと知り合って世界のことをまた少し知って。



色んな事があった。


でも、昨日まであった色んな事が無かった。




だから今は考えないほうがいい。


ソルさんが報告を済ませているあいだ、


開いたページに



帰る術式が見つからなかったなんて。













誤字・脱字がございましたら教えていただけると幸いです。

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