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巻き込まれ少女  作者: 小鳩雨
第一部
3/21

第2話 不審者ではありません。

(・・・・・これは涙目)





一時的な感情の放棄から立ち直ったユハイエルは拗ねた。

かなり拗ねた。


魔法剣技といういかにもアウトドアな分野を得意とするとはいえ、元来彼女はめんどくさがり屋である。

それというのも彼女は巻き込まれ体質、という何とも可哀想な性分であり何もせず立っているだけで厄介事が舞い込んでくるのである。

師に従事してからはその体質はいっそう酷くなり、島の人々には「ユハイエルの近くにいると色々な意味で飽きない」と言われる始末であった。


そんな彼女がこれまたやらかしてしまったのである。

いじけて眼が虚ろになるのも仕方がないだろう。




(あ~・・油断していた・・・最近はこんなこと無かったからなあ・・・・はあ)


その場に蹲るように腰を下ろすと感じる地面からの熱。

自分の元いた場所とは違う、暑い温度。




(とりあえず、歩くか)

立ち止まっていても仕方がない。


とりあえず今いるのは自分の知らない所なのだから。

整理しきれていない事がたくさんあるがまず尋ねるために人を探さなくては。




ーーーーーーーーーーーーーーー



青々と繁っていた森のような場所を出る頃にはユハイエルの服は汗でびっしょりと濡れていた。




(暑い・・・でも私の着ている格好がいけないんだろうけど。)




彼女の元いた場所、リカウェル島は夏場でも涼しく風も良い具合に凪いでいる所だったので当然着ているものは長袖。それに剣を扱う時に身に付ける厚手のベストに長いパンツ、膝までくるブーツという出で立ちであった。


もし誰か人に会った時に変に思われたらどうしようかな・・・などと聊か暢気なことを考えつつ坂になっている土の道へ歩を進めていると開けた大地が目前に現れた。






「うわ!綺麗な所だなあ~・・・・」


鮮やかな緑は勿論のこと、理路整然と並ぶ赤レンガの屋根に、その上を縦横無尽にかける(ドラゴン)、色とりどりの閃光。小さいながらも賑やかな街がユハイエルの眼下に広がっていた。

人までは見えなくても魔法や魔術が至る所で使われているのがわかる。それは高い丘がないリカウェルでは見られない光景であった。



しかし



「・・・明らかに違う所にきちゃったよね・・・」



ずーんとも音がついていそうな気分に頭が痛くなってくる。

移転魔法については師から話は聞いたことがあるが、苦手な系統に属しているため進んで学ぼうとは思っていなかったのだ。

攻撃魔法系統が仕掛けてある罠などは自らが引っ掛かったり、撤去作業に駆り出されたことが多々あるが、こんなのはお目にかかったこともない。

しかも見事に引っ掛かって。




「ああ~・・・どうしよう・・・最近一番の出来事だよこれは・・・」

頭痛どころか腹痛まで出てきた自分にほとほとがっくりきていると、




「アンタ・・・何してるんだい?」


声をかけられてしまいました。




(え、人!?人だ!!!)



勢いよく後ろを振り返ると、大きな籠を抱えた大柄な女性と、おそらく彼女の子供だろうが小さな男の子がこちらを見ていた。二人とも簡素であるがしっかりとした麻の布地のような短い丈の服に涼しそうなサンダルを履いている。




「ええ・・・!あの・・・えええーー・・・と・・・」

(やばい!私、今不審者じゃん?通報される??厚着だし!)



明らかに言い淀んで見るからに怪しいユハイエルを見て子どもは興味津津、目の前の女性は若干疑いの眼を向けている(ように見える・・・。)


「アンタ・・・何とも暑そうな格好してるが、北からやってきたのかい?」



「そ、そそそそそそうです!!もうこんなに南が暑いなんて思わなくって・・・あははは!!!」



「・・・・」



「・・・・」



「「・・・・・・・」」


(ダメだ・・・完全にこれは不審者決定だ・・・!!私だってこんな「そ」を連呼する奴なんて怪しいと思うわ!!)

流石にこれはアウトか?と今まで培ってきた危険ブザーが音を立てそうになった時、



「ねえ、お姉ちゃん。お姉ちゃんはまほうってつかえる?」




グッジョブ子ども!!!!なんというタイミング!!!


「 え!!?使える!!使えるよ!!!!」

と、勢いよく答えた私。

この際鼻息が荒くなっていようが気にしたことか。

どうかこの雰囲気を壊してくれることを祈りつつ、いきなり何を言い出すんだとでもいいたげな母親(もう母親でいいよね?絶対そうだもん)の視線を華麗に無視した子どもは、それに私の願いに応えるように切り返してきた。


「ほんと!?じゃあこの木になっている実をいっぱい落としてほしいの!ボク、おかあさんといっしょにとりにきたんだけどたかいところにしかなくて・・・」


何とも親孝行な発言である。(ほら、母親でしょ?合ってたでしょ?)

母親の疑わしげな目線を受けつつも快く頼みを承諾した私は、魔法陣を形成するべく術式に取り掛かり、風系統の基礎魔術を発動させた。




《ノア、神の吐息、一陣の風  ここに》





ふわっと耳に柔らかい風が通った途端、そこにある木を覆うように風が集まり出す。指先でちょいちょいと風を調節しながら目標の木に焦点を合わせ、高い所の実を落としてゆく。風系統の魔術は調節が難しいものの、少ない魔力で発動できるため大変便利だ。今まで良く使わせていただいていましたとも、ええ。捕縛とかでね。



(元から風があれば魔法も使えたんだけどねえ~・・・)

魔法は音唱する必要がほとんどないので面倒くさがり屋のユハイエルにとってはこちらの方が好みだ。

普段あまり使う機会はないが。




「すごーーーい!お姉ちゃんかっこいい!!」

「ほう!!やるじゃないかアンタ!」



お!これは母親の好感度も上がったみたいだ。良かった・・・これ、一般魔術って常識が一緒で・・・。

地面に落とした実を最後の風でさっと集めて持っていってやると思いのほか二人とも喜んでくれた。



「しかし変わった術式だねえ。一体どこから来たんだい?」





・・・あれ。やっぱややこしいことになった。



なんでやねん。








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