第12話 読み書き、しようか!
いつもお読み頂き、感謝感激です。
「え~~……っと、…わ、た、しは、けんを、…くりぬき、ます?」
「振り抜きます、だと思うわ」
こんにちは。ユハイエルです。皆様お変わりありませんか?
あれから騎士見習いとして第二部隊に着いていくことになった私は、アウラさん達にお別れを告げなければならない事を伝えることとなった。ヘルくんは泣きだすし、エルくんも「俺、頑張ってこの街守るから」と、なんだか顔を歪ませて俯いてしまったので私もなんだか泣きそうになってしまった。
下がる眉尻を必死におさえ、私たちはカーダを出発したのだった。
道中は予想度通りに強行軍。当然だよね。本当は帝国の中枢にいなければいけないくらいの二人がいるのだから。前の世界で最早定番と化していた夜営も難なくこなし、隊の人とも少し打ち解けられたんじゃないかと思う。
そして日中は移動。移動手段はもちろん徒歩だ。隊長やソルさんは馬に乗っているけれど、一般騎士が使えるのはその身なので体力勝負というところがある。そういう所は前の世界とは変わらないんだなあ。それでも適度な休憩は必要なわけで、今こうして全員が思い思いの時間を過ごしている。
そんなわけで、冒頭部分に戻るんですが…
「ぜんぜん…わからないです…ハハ…」
文字の練習をしています。今まで気がつかなかった事に驚きなんだけど、この世界と私が使っていた文字は全く違うものだった。
(話し言葉は一緒なのに…!!何という屈辱…!!)
コソコソと1人で字を書くのを練習しているのをさっき隊長に見つかってしまい、爆笑された。
きったねぇ~!…って…
…おじさんだってへたくそじゃないですか。さっき見ましたもん。
あまりにも豪快に笑うものだから隊の大半が物珍しげにこちらを見ている。好奇心満々の人の中で、未だ笑い続けているグレオ隊長を般若のような目で見つめているのを不憫に思ったのだろうか、ある騎士さんがお手伝いをしてくれるようになりました。
「大丈夫よ。そんなに悪くないわ。最初は誰だってそういうものだもの。」
騎士として従軍している女の人、スワイユさんことスワさん。淡い茶金の髪を後ろに流し、耳のあたりで結んでいる、かなり癒し系な方だ。スワさんは頭がとても良くて、この騎士団の中では軍師みたいな役割についているそうだ。
彼女の妹もまた、騎士団に勤めているらしい。
またまたそんな凄い方に子どもみたいな勉強に付き合わせて申し訳なく思っていると、そんなの、全然かまわないわ。私もたいに女の子がはいってきてくれてうれしいもの!ととびきりの笑顔で答えてくれた。
「それにね、ついさっき副隊長にも頼まれたのよ。
男ばかりの隊なものだから、話し相手になってあげてって。」
内緒よ、と人差し指を口に当てるスワさんはとても可愛い。そして優しい。
ソルさんんも優しい目でこちらを見守ってくれているんだけど、その目は隊のロバの手入れをしているときと同じ目だ(やめて!!そんな目で見ないでください!!)。最初見た時にはそれはショックでしたとも。動物かい、みたいな。
それでも二人は私にとても良くしてくれる。彼がお兄さんならスワさんはお姉さんみたいだ。
感謝の言葉を伝えつつ、再び隊は移動を始めた。
「えーと、次の都市はハルア、でしたよね?」
「ええ、そうよ。大きな商業都市で各国からの人間も多いの。」
現在、隊は南街カーダと帝都ザハルの中間地点である大都市ハルアへ向かっている。
ハルアもまた、結構な魔術都市らしい。
なんでも500年前にここで大きな魔法戦争があったとか。
へえ~と感嘆を漏らしたかったが、これはこの国の常識らしいので必死に無表情を保った。(おじさんがニヤニヤしてた?放っておいて下さい!)
「よし、予定通りだな。ここで一泊宿を取ることになっている。「ダナ」という所だ、迷うなよ?」
最後の一言はなぜか私に目線を合わせていたが、そんなこと知ったこっちゃない。それより私は先程スワさんと計画していたことを実行しようとやる気に満ち溢れていた。
それは、この国の絵本を買うということである。子供向けの。
どうも文法書とそりが合わない私に、彼女が提案してくれたのだ。
邪魔にならないよう、大通りから少し離れたところで解散する。各自見回りを行いつつ、このハルアで休息をとるのだ。
勿論私も見回りの当番はあるが、なにぶん制服を着ていないので効果は期待できなさそうだ。むしろ厄介事が飛び込んできそうだ。
少し寄るところがあるからとスワさんが隊を離れ、いよいよ私は一人で本屋を探すことにした。
大都市ハルアは流石に大きい。
商業都市でもあるので物流がカーダの比ではなく、人々の往来も多い。時々、貴族の者じゃないかなというような馬車が通ったりもしていた。
本屋は大通りにも何軒も立っていたが、私はそこに行くのは避けた。
大きな本屋は好かない。必ずと言っていいほど喧嘩に巻き込まれ、そのあげくに倒れてきた本棚の下敷きになるのだ。
(そうだった…すっかり忘れていたけど本屋って意外と危ないんだよね…こんなことならスワさんを待って、着いてきてもらえば良かったかなあ…お薦めとかわからないし…)
スワ自身も一人ユハを行かせるのが不安だったのか、着いて行くからと申し出てくれたのだが、悪いからとユハは断っていたのだ。
(ああでも師匠が着いてきた時はさらに酷い状況になったことがあったから、やっぱり断ってよかったかも。)
一人悩み、そしてやはり一人で解決した彼女は大通り以外の道に入って目的の店を探し始めたのだった。
大通りをはずれ、しばらく歩いていると何やらこじんまりとした店が店を閉じようとしていた。
看板を読んでみると、
「…よおずや?あ、万屋??」
その声に気がついた、閉店の看板を掲げようとしていたおじいさんが気が付き、「ああ、何か探しものかい?」と聞いてきた。
「あ、はい。子どもでも読める絵本を探しているんですけど、ここに本は売っていますか?」
「絵本かい?それなら何冊かあるよ。もしよかったら見て行ってくれてかまわんよ。」
ありがとうございます、と礼を言って店の中に入れてもらう。
ユハの読み方が当たっていたのだろう、そこはまぎれもなく万屋だった。武器、薬草、日用品から本、食糧までが所狭しと棚に並べられていたのだ。
(すごい揃えようだなあ~、あ、でもがらくたもある。)
ユハイエルが見ても何か分からないものまで置いてある。
少しキョロキョロしながら、目当ての本が置いてある棚へ向かい、分かりやすそうな絵本を探してみる。
(うわ…これ、本当に絵本なの…??ここの子達は一体どんな育てられかたを…)
そこにはスプラッタな挿絵が入った、手に取りたくないような本達が収められていた。きっと万屋だからだ、珍しいものを置いているんだろうと自分を励ましながら別の本を探していく。
これまた何冊かのスプラッタ絵とお会いした時、その中では淡い色使いをした薄い絵本を見つけた。
(ああ!もうこれしかない!!)
と天にも縋る思いでそれを引っ張りだしてみると、
「え、ーっと、ゆうりうすのてんしでんせつ?」
天使?ここ、天使いるの?それってすごくない??
伝説という文字がすっかり頭から抜け落ちているユハイエルはやっとまともそうな本が見つかったと思い、即買うことに決めた。
おじいさんに本を持っていき、会計を済ます。
これで、おじさんにばかにされないで済む!!!
文字を覚えることの目的が変わりつつあったユハイエルの気分は最高潮に達し、そのまま店を飛び出した。
あまりの有頂天さに、途中で後ろから来た子どもたちにタックルされてお店の看板を足で引っ掛け看板ごと転倒したり、角を曲がる際に人とぶつかったりして(黒い髪の綺麗な女の子だった、ほんとすいません。)周囲に迷惑を撒き散らしていた。
そんな彼女はまだ気が付いていない。
宿所の「ダナ」がどこにあるかを。
結局、地図を読もうにも文字は読めず、人に聞いてもいまいちわからなくて結局迷った私を、
心配して探しに来たスワさんとソル副隊長によって捕獲されたときにはすっかり夕日が沈んでしまっていた。
…すみませんでした。
誤字・脱字等ございましたら、お教え願います。