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巻き込まれ少女  作者: 小鳩雨
第一部
14/21

【閑話】少女と魔術師

お読み頂き、本当にありがとうございます。

これからもお付き合い頂ければ幸いです。



強くなる。

大切な人を守る。

その言葉は今も心の内にある。




自然に恵まれた島、リカウェル。

数多くの魔法が存在し、小さいながらも有数の魔法都市として皆の覚えは良い。

そのためここへやって来ては居をかまえる魔術師も多く、島の人間の多くが魔力を持っていた。


そして今此処で頭を抱えている男もまた、魔術師として島の治安維持にあたっていた。

由緒ある魔術家系である彼は周りからの評価も高く、重犯罪における犯人の捕縛を多く担当する。そんな彼が今回手がけていたのは、ある反逆グループの探知、捕縛。何時もの通り無事犯人の確保を終えたのだが、一つだけ何時もと異なる出来事があった。



反逆グループに誘拐された少女。

彼が発見をした時には全身泥だらけで蹲っていたが、幸運にも怪我は無かったので、それは彼が頭を抱える理由にはならない。


何も喋らないのだ。

小さな島といえどここは都市だ。手掛かり全く無しの状態で彼女の出自を見つけるのは難しい。他の魔術師と一緒に何とか聞き出そうとしたが少女の小さな唇は固く結ばれ、一向に開かれようとはしない。


(っつってもな~…このままじゃ拉致があかねぇし…)


「・・・」

ボロボロの格好のまま、少女はうつむくばかり。

何処か悲しそうな、それでいて何かを諦めた様な表情をしている少女を見て彼は一つ溜め息をついた。

気が進まない。非常に気が進まないが、彼は少女の小さな手を取り、近くの保護施設目指して歩を進めたのだった。



――――――――――――――――



あれから度々保護施設で男の姿を見かけられるようになった。

同年代の子と触れ合うことで、何か少女についての情報が得られるのではないかと思ったからだ。

しかし、期待を裏切るかのように少女はいつも一人でいた。必要な時は施設の大人の所へやってくるが、用が終わるといつのまにかスッと離れて行ってしまう。

そして少女の父親も、母親もまた此処へ訪ねてくることはなかった。



そんな状態が少し続いたある日、彼はいつものように少女の元へやって来ていた。その少女はというと、施設の庭にある木の下に座り込み、1人で風を操って遊んでいる。


(あいつ…風魔法が扱えるのか…?術式は使っていないだろうが…)


術式を使うことで発動させる魔術とは異なり、魔法は自然界に存在するものを操るだけなのでやろうと思えば子どもでもできる。しかしそれさえも扱えるのはもう少し年をとってからだ。よほど才能があるのか、扱いざるを得ない(・・・・・・・)状況にいたのか…



(…子供らしくないな。だから巻き込まれたのか…?)


彼が思考にふけっている、そんな時に騒がしい声が聞こえてきた。


「うええええ~~!!!」

「一体どうしたの!??」


その場の中に件の少女がいたため、彼も気になってその場へ駆け寄っていく。泣きじゃくる子どもを施設の人間があやし、何とか話を聞いたところどうやら遊ぼうと話かけた子どもを、少女が叩いたらしい。

未だ体を縮こませ、俯いている少女に視線をあわせようとしゃがみ、彼が少女に話しかける。


「なんで叩いたんだ?ただ遊びたいだけだと思うぞ?」

その問いかけを聞いているのか聞いていないのか分からないが、何も反応をしない彼女を見て「またいつも通りか…」と視線を下げた時、細く、息を殺すような囁きが彼の耳に聞こえてきた。


「だって近づいちゃいけないんだもん

 ゆは、ひとりでいなきゃいけないからこれでいいの」


初めて聞いた少女の声に多少驚きつつも、彼はできるだけ優しい声でさらに問いかけてみた。

「なんでだ?皆で遊んだほうが楽しいだろう?友達だってすぐにできるさ。」


「おまえといると、まきこまれるんだっていってた。となりのおじさんも、おばさんも。」


たどたどしく話す内容は彼にとっては意外なものだった。

てっきり犯罪グループに誘拐された事がショックで喋れないのだと思い込んでいたからである。


(まきこまれる?…そういえば、結構前にこいつ、現場でみかけたことがあるな…)

昔の記憶をたどりつつ、今聞いている少女の話を整理していく。

「それで?巻き込まれたらどうなるんだ?誰かを怪我させたりしたことがあるのか?」



「わかんない…だけど、だからお父さんもお母さんもいないんだって…みんないっていたから。

 お父さんも、お母さんも、まきこまれてたいへんなことになったって。」



彼は瞠目した。少女の口から発せられたのはまぎれもなく大人に対する遠慮で。

彼自身も著名な出自だからなのか幾らか束縛され、厳しく育てられた幼少時代を過ごしてきたのだが、遠慮などはしたことがなかった。

齢十才になるかならないかの少女が大人たちの顔色を窺う。

その事実が彼に衝撃を与えたのだ。


「だから、ひとりでいいんです」


震える拳そっと開いて、彼は彼女の肩に手を置き、無意識のうちにこう叫んでいた。

「よし!それなら俺が巻き込まれてやる!

 俺はお前が厄介事に首突っ込もうが、嵐を呼んでこようが気にしねえ!!

 子どもってのはな、自分のやることにいちいち大人の出方を見る必要はねえんだ!

 それにな、お前の体質は別の見方をすれば犯罪発見に繋がるっていう誰にも真似できない長所でもあるんだ。少なくとも俺は、うとましがったりしない。」



そう言われて今日初めて顔を上げた少女の眼は、心なしかきらきらと光を帯びているように見える。

「おじさん・・・だれ?ゆはがいやじゃないの?」


「おう、嫌じゃないぜ!ただ、おじさんとは呼ぶなよな。俺はまだ30代だ」


よし!そうと決まったら俺んとこ来い!お前風系統結構扱えんだろう、と勢いよく手を引いた彼に、少女がもう一度問いかけた。



「ほんとうにいいの?ほんとうに一緒にいてくれるの?」


そう真剣な表情をしてじっと見つめてくる少女に視線を返し、立ち止まった彼は少し考えている素振りを見せてからこう言った。




「ああ。一緒にいていい。


 そのかわり約束だ。

 必ず強くなること!

 強くなれば、例え大切や人を巻き込んでも守れるだろう?



 だから必ず強くなれ!大切な人を守れ!!


 それがお前が俺に誓う、唯一の事だ。できるな?」




一瞬目を見開き、その次に少女は勢いをつけて首を縦に振った。

「うん!!できる!できるよ!!! ゆは、おじさんにちかう!!」

「だからおじさんはやめろ!」と手を引いてくる男を見上げる少女の顔には、初めてみる笑顔が浮かんでいた。





 拝啓、師匠


 今日も私は貴方に誓います。



少し長くなってしまいました。

誤字・脱字等ございましたら、お知らせいただければと思います。

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