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第00話『はじまり』

「……」

 一人、男が腹にあり得ない程の大穴を開けられ血溜まりに伏している。

 その目に既に意思はない。

 即死とまではいかないが、それに近い形で事切れている様だ。

 ジワリジワリと染み出している血液だけが唐突な死を受け入れられないかの様に動いている。

 そして……ソレは起こった。

 かつて人だったものから溢れ出た赤い水は、その存在を液体からまるで植物の葉脈の様な固体に変え鼓動する。

「そんな!?ただの人間如きを依り代にしようとしてるの!?」

 死体の様子を視認しながら背中に荘厳な羽根を生やし、頭の上に光の輪を浮かべたグラマラスな女性が人っ子一人見当たらない様な片田舎の畦道で叫ぶ。

 煩いはずの夏の虫の音色は、その光景を見守るかの様に止んでいた。

「……(チロチロ)」

 そこに白く長き身体をくねらせながら畦道の傍らに座し、共に見守る赤い瞳が二つ。

「メタトロン(監視システム)に申請。『果実』排除の為、ニルヴァーナの使用許可を」

 彼女がそう呟くと、その右手に宵闇よりも昏き色をした銃……の様なモノが顕現する。

〈申請を確認。暫定脅威度SSS。対『異物』用転送兵器ニルヴァーナの使用を許可します。迅速に対応して下さい〉

暫定脅威度SSSトリプル!?」

 告げられたあまりの脅威度に彼女は右手に握った銃を震わせる。

 確かに『果実』が人間を依り代にする事は稀にある。

 が、しかしそれは頭のおかしいと思える程の修業を積んだ人間ナニカが『果実』を摂取した時に稀に起こる現象だ。

 天上の様に肥沃な地が無い地上では『果実』が十分に実ることはない。

 かつて人間がその身を地上に追放された際、一緒に落ちた枝葉から派生した野生種がかろうじて実をつける例もあったが、だとしてもそれには何千、何万の年月を要する事が確認されている。

 古の神ですら完熟した『果実』を代償なしで摂取する事は出来なかった。

 だからそんなただの人間を依り代にする程度の『未熟な果実』が脅威度SSSクラスだとは彼女は信じられなかった。

「終わりに沈黙があった。言葉は神と共に去った。後には何も残らなかった……」

〈アラート!対象が根付く前にニルヴァーナを使用して下さい。アラート!対象が根付く前にニルヴァーナを使用して下さい。アラート!……〉

 だが、けたたましい程のシステムの警告が彼女を現実に引き戻す。

「&edn=FRU1T5!」

 詠唱と共に引鉄が引かれる。

 死体の在った空間が、闇によって捻れた。

 任務を終えた天使が去った後に残ったのは念入りに削り取られた空間と、とぐろを巻き笑みを浮かべた蛇のみであった。

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