1話 引っ越し
「じゃあ俺行くわ、またな」
そう手を振り仲間と別れた俺は、車に乗り新たな家へと足を運ぶ。そう、引っ越しだ。父親の都合で引っ越すことになった俺は最初、父親だけ行けばいいと断っていた。だが、どうしてもと言う母の言葉に逆らえず結局引っ越すことになったのだ。
「はぁ…引っ越しか〜…」
俺がこうなっているのには理由がある。もちろん引っ越すことで仲間達と離れることになる寂しさもあるが、それだけではない。俺の引っ越し先が、日本で最も荒れた土地で不良の跋扈する街と言われていることにあった。その中でも三大不良校とも呼ばれる炭竹高校に転校することになったのだからこうなってしまっても仕方がない。
「やっと着いた…」
車で走ること3時間。ようやく到着した俺達家族は、車に乗せてある手荷物を下ろして家に入る。自分の部屋に荷物を運び終わった俺は、新居に持ってきたばかりのソファに腰を下ろす。
「はぁぁ〜…」
ついおじさんのような声が出てしまったが、仕方がないだろう。そんな様子を見て妹の神楽が話しかけてくる。
「お兄ちゃん、親父みたい〜」
「うるさい。お兄ちゃんだって疲れたんだから仕方がないだろ」
「車乗ってただけなのに〜?」
「車乗ってるだけでも疲れるもんは疲れるんだよ」
「まぁ、私も疲れたんだけどね」
そう言って隣に腰掛ける神楽。自然と肩に頭を預けてくる。
「寂しいね…」
どうやら友達と別れたことがショックだったようだ。神楽が甘えてくること自体珍しいことではないので何気なしに甘やかす。
「そうだな、ずっと仲良かった友達と別れるのは寂しいな。でも永遠の別れって訳じゃないだろ?連絡も取れるんだし、長期休暇とかに遊びに行けばいいじゃないか」
神楽の頭を撫でながら慰める。神楽はその言葉に少し元気になったようだが、それでも元気はない。
「うん…」
頭を撫でる手を止めて、頭に手をポンッと置く。
「…ほら、もう寝ろ。明日は転入の日だからな。寂しいなら一緒に寝るか?」
少し間が空き、神楽が頷く。
「うん…」
神楽を連れて自分の部屋に行き、ベッドに横になる。神楽もベッドに入ってきて、向かい合う形で寝転がる。神楽を抱きしめ、優しく頭を撫でる。神楽は顔を俺の胸元へ埋め、目を閉じる。
「おやすみ…お兄ちゃん…」
その言葉に微笑みながら応える。
「あぁ…おやすみ…」
その言葉を最後に俺達は眠りに落ちた。