他人の幸せを奪った妹は、近いうちに幸せをうしなう
「ちょっといいくらいの男、アイツから奪わなきゃよかった」
その一言ですべてを失った妹の話。
◇ ◇ ◇
私は遠野さわ。どこにでもいる一般女性。ちなみにアラサー。
私には妹がいる。さなという四つ下の彼氏持ち。今後彼と結ばれたなら、妹は若井さなになる。
けど、私は妹が若井さなになるのに反対している。
決して、彼は悪い人ではない。付き合っている相手をとっかえひっかえしていたことはない。酒に飲まれ溺れているわけでもない。
問題なのは、妹が彼と出会って付き合うまでの流れだ。
もともと彼は、妹と付き合っていたわけではない。妹の幼馴染と付き合っていた。
妹と幼馴染は、仲良くしている年数と年齢が一致するほど付き合いが長い。また、お互いの身長や体重の数値を、小数点第三位まで把握している。それくらい、相手のことをよく知っている。
しかし妹は、幼馴染が彼と付き合っていることが気に入らなかったらしい。三人で出かけた際に幼馴染を悪者に仕立て上げて別れさせ、ついでに自分は彼と付き合ったのだ。つまり、今の彼氏は幼馴染から奪ったもの。
私はただの傍観者だし、付き合った歴もない。けれど、身内が幼馴染を悪者に仕立て上げてどうのこうのなんて、さすがによくないと思った。
けれど、その話を私の友人(恋愛上手)にしたところ、「自分の愛する人を手に入れるなら、親友を陥れようと致し方ない。乙女の熱いハートはだれにも止められないのだ」と言われた。
一理あるかもしれないが、常識からは外れている。恋愛と友情で恋愛を選択するのは許すが、友情を断ち切ってしまうのはよくない。
こんなことを言っているから私は、処女歴イコール年齢なのだろうか。しかし、これは私の正義である。これが正しいという確信が、私の中にはある。
さらに言うと、私は親友から奪った彼と付き合うことに、反対してるんじゃない。心配しているのだ。
幼馴染との関係が壊れることはもちろん、彼女が妹に復讐を仕掛けてくる、だとか……。可能性としてはそう高くないけれど、ゼロとはいえないだろう。
そして、これは押し付けになるかもしれないが言う。正当に得た幸せこそが、心から喜ぶことのできる幸せだと思うのだ。誰かを不幸にして自分のものにしたそれは、しじみの味噌汁に砂が混じったようになってしまうだろう。
こんなふうに長々と、自分の思いと古い価値観をつらつら書いてきたけれど、もう彼らは薬指の指輪を選びに出かけていった。彼らは愛する人と一緒になれてうきうきわくわくしており、今は行動力以外なにもないのである。理性すら失ってしまったのだ。さらに、この二人の話は昨日伝えられたものである。行動力しかない彼らは私に対してこのできごとを「事後報告」として私に言ったのだ。妹よ、他の世間話と一緒にしないでほしい。
まあ、そのせいで、思い悩む暇はあっても、彼らに私の思うことを伝える暇はなかったというわけだ。
しかし、彼女らがうきうきと家に帰ってきた矢先、とんでもない知らせが私たちのもとに来た。例の妹の幼馴染が、大企業の若きエリート(おえらいさん)と結ばれたらしい。彼氏を奪われてからあまりたってない気がする。恋している者たちの行動力には未開の何かがあるようだ。
とはいえ、正当に自分の手でつかみとった幸せのようで安心する。
私と妹とその彼氏、三人だけのリビングで、光る画面越しに受けたその知らせ。その場にいた全員が目を見開いた。
知らせを聞いた妹は、
「はぁっ!?
こんなことならちょっといいくらいの男、アイツから奪わなきゃ良かったぁぁ!」
と、なんと、本音を彼の前で暴露しだした。
妹がついにさらしたのだ。本来の姿を。
私は、彼のことを思うと申し訳なかった。しかし、妹という人間を選んだ彼も、悪いところがなかったわけではない……と、思う。元カノの幼馴染だし。
彼は、もちろん奪われたどうのこうのの話について全く知らない。だから、初めて見る彼女の化けの皮の内側を見て、思わず距離をとり始めた。
「ちょっと待って、……さなちゃん……?」
あ、やらかした、という表情で固まる妹と、本心を知ってしまいがっかり幻滅、彼女への信用を失った彼。
指輪は買ったのだろうか。うきうきの様子を見た感じ、何かが決まった感じはしたけど。
このあと、どうするんだろう。
常識的な彼は、別れるのだろうか。
「ちょっといいくらいの男」だから、別れることそのものには妹にとってダメージは少ないかもしれない。でも、そのやらかした経験は大きなダメージとして永遠に残る。噂となって、妹への評判として反映されるのだ。ま、自業自得である。
応答できない妹にを前に、彼は少し向き直って低い声で言った。
「さなちゃ……いや、遠野さん。しばらく会話とか連絡すんの、やめてもらって……いや、しないでくれ」
彼はそう言い残してどこかへ行ってしまった。
妹に残ったのは、喪失感のみである。
私はため息をついて、硬直する妹の横をそっと通り過ぎてその場を離れた。
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