鋼核のオルドマギナ
ドカン、と言う爆発音が耳慣れた静寂。
荒れ切った褐色の大地に大口径の砲弾が着弾、炸裂。
立ち上る黒煙を切り裂き姿を現すのは、白に近い鈍色を鉄錆、砂煙、煤でブレンドした、
鋼鉄の巨人。
それはまるで、正義の味方を標榜するヒーローロボットのようで――其実、政治屋同士の足の引っ張り合い、濡れ衣の着せ合い、揚げ足の取り合いによって生み出され、そして用済みとなって棄てられた、人型の"兵器"。
よく見ればその鈍色の巨人は、左腕だけがやけに太ましくなっている。
右のマニピュレーターに握る、アサルトライフルのトリガーを引き絞れば、機関の唸声を上げながら銃口から120mmの銃弾が吐き出される。
銃弾が殺到する先はソレと同じく人型の兵器、その薄汚れたオリーブドラブのバイタルパート。
着弾炸裂着弾炸裂着弾炸裂……瞬く間に、バイタルパートを喰い破り、その中身へ獰猛に襲い掛かる。
穿つ前面装甲の隙間から赤黒いモノが飛散し――やがて人の手による制御を失ったソレは、仰向けに倒れ――ボン、と小爆発を起こして動かなくなった。
仲間を殺された恨みとばかり、もう一機のオリーブドラブ色の巨人が、眼窩のモノアイを妖しく輝かせ、アックスを手にし、砂煙を上げながら迫りくる。
対する鈍色の巨人は、リアスカートのアタッチメントにアサルトライフルを納めると、代わりに左サイドスカートに納めていたブレードを抜き放ち、迎え撃つ。
振り降ろされるアックス。
しかし鈍色の巨人は、僅かにスラスターを噴かすだけでひらりとその一撃を躱し、
流れるようにブレードをオリーブドラブの巨人の左肩に叩き込んだ。
重く鋭い切っ先は左肩装甲を荒々しく叩き砕き、鈍色の巨人はブレードを引き下げ、今度は左肩の装甲をぶつけるように体当たりを仕掛け、オリーブドラブの巨人を弾き飛ばす。
重質量を叩き込まれたオリーブドラブの巨人は背中から地面へ倒れ、是非を確認することもなく、鈍色の巨人はそのバイタルパートにブレードの切っ先を突き込んだ。
念入りに、二回ほどブレードを捻ってコクピットの中を抉り潰して。
モノアイの光を失い――稼働が停止したことを確認し、鈍色の巨人はブレードを引き抜いた。
その切っ先に赤黒いモノが滴り、鈍色を雑に彩る。
それはオイルなのか、あるいは。
「――あいよ、こちらアスター。敵対機の沈黙を確認した、"お持ち帰り"を頼むぜ」
鈍色の巨人の腹に収まる灼髪の男――『アスター・バスティン』は、通信回線の向こう側にいる仲間にそう告げた。
頭部のアイカメラが向ける先には、砂煙を上げながら向かってくる、枯葉色の陸戦艇の姿があった。
――かつて、西暦と呼ばれた時代があった。
度重なる戦争による経済停滞と環境破壊は、皮肉にも人類の協調を促し、当時双璧であった大国――アメリカか中国かのどちらかの隷属下に収まることを強いられていた。
日米欧印の四ヵ国が先頭に立つ『クアッド国際連邦』
中露を中心とした強権で統一した『ユーラシア大帝国』
どちらも良しとしない中立『西ヨーロッパ共同体』
クアッド国際連邦とユーラシア大帝国の二色による塗り潰し合いは、さらなる戦火を齎し、戦争の在り方さえ変化させた。
その始まりは、日本で密かに開発されていた、『オルドマギナ』と呼ばれる、二足歩行人型決戦兵器の存在だった。
全長17m前後の鋼鉄の歩兵など前時代的だ、と世界は嘲笑したが、『ヴァナダーム・コア』と名付けられた半永久機関の搭載により、それまでの主戦力であった戦車や戦闘機、ドローンを遥かに凌駕する軍事的有用性を示した。
当初はクアッド国際連邦軍のみが保有していたオルドマギナだったが、戦争が長期化するにつれて、オルドマギナ=ヴァナダーム・コアはユーラシア大帝国軍に鹵獲され始め、西ヨーロッパ共同体にも横流しされ、それぞれ独自にオルドマギナを開発し、三カ国によるオルドマギナ戦が主流になった。
やがて戦争が泥沼化して十二年、地球環境も疲弊しきった頃に、三カ国は停戦条約を結び、半永久機関であるヴァナダーム・コアを転用して月面都市開発を推進、戦争によって停滞していた宇宙開発は大きく躍進することとなる。
――尤もそれは、兵器の平和的活用と言う名目の、各国首脳陣や一部の富裕層が、荒れ果てた地球から逃がれるための方便でしかなかったが――
後に、西暦最後の世界大戦『トゥエルヴ・ウォーズ』と呼ばれる、十二年戦争である。
環境破壊と汚染物質まみれの地球に残されたのは、月へ逃げられなかった"貧乏人"と、打ち捨てられた大量のオルドマギナと、その関連兵器の数々だった。
統治者、指導者、決定者のいなくなった地球は混迷を極め、各国各地では暴動や略奪が相次ぎ、もはや無法地帯そのもの。
そんな地球の"貧乏人"達は己の身を守るため、あるいはさらなる略奪のため、破棄されたオルドマギナやそのパーツを拾い集めて自分達の武力として振るい、あるいは糧として売りさばき、今も戦いの日々を続けている。
いつしか暦は変わり、"真暦"0024年。
戦争は終わったが、戦乱の世は未だ終わりを見せなかった。
アスターは自身が操る鈍色のオルドマギナ――『OM-079 スバル』の改修機を、陸戦艇――『サンドローネ級』の格納庫へ帰還させ、所定の位置へ機体を固定させてからコクピットハッチを開けた。
「よーぅアスター、お疲れさん」
キャットウォークから身を乗り出すツナギ姿の男――『バリー・ローグ』が、帰還してきた彼を労う。
「あー、マジでお疲れだ」
よっこらせ、とアスターは気怠げにスバルのコクピットシートから腰を上げると、ヘッドギアを外してコクピット内のフックに掛け、キャットウォークに降り立つ。
「今日も大活躍だな。さすが、我らのエースだ」
バリーが投げ渡すドリンクのボトルをアスターは「さんきゅ」とキャッチし、封を切るなりぐびぐびと飲み始める。
「何が我らのエースだよ。俺しかオルドマギナをまともに動かせる奴がいなかっただけだろうが」
「さっきの戦闘で二機のオルドマギナを墜としたヤツの言葉とは思えねぇな」
けらけらと笑うバリーだが、「あぁそうだ」と。
「キャプテン殿からのメッセだ、「帰還したらブリッジに来てくれ」ってよ」
「はぁん?やれやれ、シャワーくらい浴びさせろっての……んじゃ、コイツの整備、頼むわ」
「おーぅ、行ってきな」
ブリッジに入るなりアスターは、キャプテンシートに座る、橙色のテンガロンハットを被る――どこか旧世紀の米国の西部劇に登場する保安官のような――壮年の男に声をかける。
「あいよ、来たぞキャプテン殿」
「おぅ、お疲れさんアスター!さすがは我らのエースだな!」
「なんかさっきバリーからも同じこと言われた気がするな」
「ハッハッハッ!細かいことは気にするな、称賛は素直に受け取っておくもんだ!」
鷹揚に笑うキャプテン――『ガルド・カーティス』はバシバシと遠慮なくアスターの肩を叩く。
このサンドローネに詰める人間達は皆、ガルドが草の根から集め募った人員で構成されており、実のところアスターも、野垂れ死にかけていたところを彼に拾われ、それをきっかけにオルドマギナのパイロットとしての才覚を見出されたのだ。
基本的には、世界各地に放棄されたオルドマギナや陸戦艇、航空機の外装や武装、電装部品を拾い集め、修理して再利用したり、それを売り払ったりする、所謂"ジャンク屋"として活動しているが、国家や組合などに認められていないアングラな面もあり、先程に戦闘が起きたように、同業者や荒くれ者と諍いがあったり、軍人崩れの賊徒の類と立ち合うこともある。
「そうしておくよ……で、俺になんか話があるんだろ?」
「おぉそうだそうだ……」
先程の戦闘でアスターが撃墜した二機のオルドマギナ――『EXR-06 ヴァロン』の改修機が、サンドローネの作業員によって回収されていく様子を背景に、ガルドは。
「さっきの連中が何か言ってたか?」
「んん?そんなもん一々覚えちゃいないが……切った張ったの真っ最中に、手前の情報漏らすようなバカはいねぇだろうさ。たまにはいるかもしんねぇけど」
「そうか……」
落胆ではない、何やら憂うように目を細めるガルドに、アスターはどうしたのかと訊ねる。
「何か問題でもあるのか?」
「いやな……さっき出てきたのは、ヴァロン型が二機だけだったろ?お前さん、陸戦艇とかトレーラーは見てないよな?」
ガルドの言葉に、アスターは「そう言えば、そうだな」と是正する。
オルドマギナは単なる有人型機械歩兵ではない、元々ベースになっていたのは月の都市開発のために設計されたスペースワークローダーだ。
尤も開発初期のソレは、アストロスーツを着込んだ作業員の手足の延長のようなものでしか無かったが、スペースデブリとの衝突や宇宙放射線から身を守るために、"人が操縦するロボット"として"改発"を繰り返し――その有用性が軍事利用されることに時間は必要無かった(あるいは最初から軍事利用を前提としていたのか)。
しかし、いくら半永久機関によって稼働しているからと言っても、機体を飛ばすための推進力は水素燃焼によるプラズマジェットに頼る必要があるし、駆動系を潤滑させるためのオイルや、人が操縦するための生命維持のためにコクピット内を与圧しなければならないし、そもそも二本足で何十tもある質量を支えている関係から、特に関節部などの摩耗も激しい。
武器、弾薬は別にするとしても、オルドマギナは常に補給やメンテナンスを必要とするデリケートな兵器であり、運用するに当たっては、母艦や基地などの専用設備は必須である。
「だからな、近くに母艦がいないのにオルドマギナだけがやって来るってのは、なぁんか怪しいんだよ」
「……考えられるとすりゃぁ、威力偵察か、『騙して悪いが』に騙されて使い捨てられた傭兵か、あるいは……損害が出ても艇を拿捕すれば補填が出来るとでも思ったのか。いずれにせよ安易な思考だが、奴らの"バック"にいる連中が気になるな」
「だろう?俺が言いたかったのはそれだ。もしかすると、『もしかするかもしれん』から、お前さんには少しでも休んでもらいたくてな」
「了解だ、キャプテン殿。さっさとシャワー浴びて飯食ったら寝るわ」
そう告げて、アスターはブリッジを後にしようとして、「あぁそうだ」と何か思い出したように、首だけ振り向かせると。
「整備班には、ライフルとブレードだけじゃなくて、『レーザーガン』と『プラズマソード』も準備するように伝えてくれるか?」
アスターが目を覚ましたのは、けたたましい警報と、次いで襲って来る爆発振動に叩き起こされた時だった。
「クソッ、やっぱり『もしかしやがった』か!」
半ば条件反射的にジャケットを引っ掴んで自室を飛び出し、走りながら羽織り、格納庫へ駆け込む。
「急げ!敵が来るぞ!」
格納庫内は、敵襲に整備班が慌ただしく動き回っているが、それらは意に介さず、アスターはキャットウォークを駆け上がる。
「バリー!」
「おぅ来たかアスター!」
スバルのコクピットの中にいたバリーは、アスターの声を聞いて這い出てくる。
「リクエスト通り、レーザーガンとプラズマソードも用意してる!レイアウトはいつも通りだ!」
「あいよ、サンキュー!離れてくれ!」
入れ替わるようにアスターはコクピットの中に滑り込み、機体を立ち上げながらヘッドギアを装着、すぐにブリッジに通信を繋ぐ。
「ブリッジ!こちらアスター!キャプテン殿、いつでもいいぞ!」
『おーし、我らのエースが来てくれたぞ!』
モニターに映るガルドは、ブリッジクルーを奮い立たせるように発する。
「敵は何機だ?」
『まだ分からんが、さっきから二時方向からバカスカ撃ってきてるな。まぁ、およその見当付けての爆撃だ、下手に動かなきゃ当たらんよ』
こうしている間にも、ドカンドカンと砲弾の炸裂がサンドローネの周囲を派手に揺るがすが、実害は無い。
やがてオペレーターからの報告を受け、ガルドはニヤリと笑う。
『……よぉし、敵さんの位置も分かったし、そろそろこっちからも反撃だ。主砲準備!目標、敵陸戦艇……』
サンドローネの上部の"主砲"、二門の『450mm対艦レールキャノン』が電力供給され、
『撃ェッ!!』
ガコァンッ、と電磁加速された大口径砲弾が放たれ――ボン、と遥か遠くで火の手が上がった。
『命中ってところか。すぐに"次"が来る。頼んだぞ、我らのエース!』
「あいよ!アスター・バスティン、スバル、出撃ぞ!」
開かれた格納庫のハッチから、アスターの駆るスバルが飛び立つ。
着地――バランサーとショックアブソーバーによる自動姿勢制御が働き、機体の安定後、アスターはすぐにセンサーに目を向ける。
やや間をおいて、敵対機のオルドマギナの反応が三つ、二時方向から向かってくる。
識別照合を見る限り、内二機は最初の襲撃者と同じヴァロン型、しかし無駄な装飾や趣味の悪いマーキングなどが為されている辺り、破落戸の類か。
もう一機は、ヴァロン型に似ているが青い装甲は一回り厚く、特に脚部は太ましく――ホバーが可能な脚部だ。
識別照合から見ても、ヴァロンの上位機種『EXR-07 グラーフ』だろう。
「(ヴァロン二機はともかく、グラーフは一回り性能が高ぇ……スバルで真っ向勝負は無理だな)」
まともにかち合っては、集中砲火を受けるだろう。
するとあちらもスバルを捕捉し、グラーフは右肩に担いだバズーカを、僚機のヴァロン二機はマシンガンを連射してくる。
「チッ!」
アスターは操縦桿を引き下げ、スバルをスラロームするように蛇行させながら後退しつつ、右マニピュレーターに持たせたアサルトライフルを連射、牽制する。一見すると簡単に見えるが、背後を確認せずに機体を不規則に振り回すそれはパイロットに相応の技量を要する。
後退してみせると、グラーフが前に出て、その一歩後ろの左右をヴァロンが固める。
操縦桿を振り回しつつも、アスターはサンドローネへ通信を繋ぎ、
「サンドローネ聞こえるか!敵のオルドマギナは三機、まともにやるのは無理だ。俺が敵を引き付ける、援護射撃を頼む!」
アスターの要請を受け、ブリッジのオペレーターはガルドにこれを通達すると、ガルドはすぐに頷いて指示を飛ばす。
『三機か。よし、副砲とCIWSの装填準備急げ!アスター、なるべくゆっくりこっちに引き付けてくれよ!』
「あいよ、今やってる!」
今回、射撃武器としてアサルトライフルだけでなく、レールガンを技術転用したエネルギー兵器である『レーザーガン』も装備している。
集束した電磁パルス弾を発射すると言う仕組みのそれは、対オルドマギナなら一発当てれば撃墜出来るような代物だが、アサルトライフルよりも破壊力に優れる反面、充填出来る電力には限りがあり、なおかつ撃てる回数も少ない。
ここぞと言う時に使わなければとアスターは考えていたが、状況次第では形振り構ってはいられない。
マシンガンの銃弾とバズーカの砲弾を躱しつつ、アスターは敵機をサンドローネへ誘導し――
『アスター!位置を確認した、当たるなよ!』
不意にガルドから通信が届き、「当たるなよ」と言うそれを耳にしたアスターは、スバルの後退速度を維持する。
すると両者の間の地面に、サンドローネから放たれた副砲――三連装砲が放たれ、ドドドンッと複数の砲弾が炸裂する。
突然の遠距離砲撃に足を止めるグラーフとヴァロン二機。
しかしそこで足を止めた瞬間こそがアスターの狙いだった。
「いただき!」
狙い澄まして、左マニピュレーターのレーザーガンを発射、アスターから見て左サイドのヴァロンのボディを撃ち抜き、爆散させた。
「まずはひとつ……!」
撃墜は確認しても気を抜くにはまだ早い、サンドローネからの砲撃に足を止めていたグラーフともう一機のヴァロンが、すぐさま射撃を行ってくる。
バズーカの砲弾は躱し、マシンガンの銃弾までは完全に避け切れないが、一発や二発なら受けても装甲強度で耐えられる。
二対一、依然として不利といえば不利だが、勝ちの目は増えた、とアスターは操縦桿を押し出し、先程のバックスラロームとは逆、不規則に蛇行しながら前進していく。
狙いはリーダーだろうグラーフ、こいつを先に墜としておきたい、とアスターはアサルトライフルを撃ちまくるが、グラーフとヴァロンはバッと左右に散開し、グラーフはホバーによる高速移動で回り込み――スバルを無視して、サンドローネの方へ向かっていく。
「野郎っ、艇をやろうっての、っ!?」
アスターの意識がグラーフに向けられた瞬間、敵機接近のアラート、側面から回り込んでいたヴァロンが肉迫、アックスを振り下ろそうとしていた。
「やばいっ」
ほぼ咄嗟、アスターは左の操縦桿を捻り、スバルの左肩でアックスの一撃を受けた。
斧刃が表面装甲を砕き、その内部のフレームまで叩き斬らんと迫りくるが、
「すまんバリー!」
バリーに詫びを入れつつ、アスターはコンソールのあるスイッチを押し込むと、スバルの左肩装甲が小さく爆発し、フレームから切り離された。
通常、オルドマギナの一部のフレームと装甲は分割されており、パーツ同士は爆発ボルトによって固定されているため、いざとなればボルトを爆破させ、強制的に切り離してダメージコントロールが出来るように作られている。
装甲がいきなり切り離されたことで、アックスを空振りさせたヴァロンの側面に回り込み返すと、
「墜ちろ!」
アサルトライフルを撃ちまくりながら、レーザーガンも二発ほど放つ。
多数の銃弾に装甲を穿たれ、穿たれたそこへ電磁パルス弾が炸裂し、粉々に爆散するヴァロン。
「くそっ、弾を使いすぎたか……!」
残弾を確認すると、アサルトライフルは八発、レーザーガンに至っては二発分のエネルギーしか残っていない。
『アスター!敵のオルドマギナから攻撃を受けている!救援を頼む!』
ガルドから切迫した声が通信に届き、アスターは我に返る。
「あいよ、待ってろよ!」
あと一機だ、とアスターはスバルを反転させて、グラーフが向かった方向へ機体を加速させる。
サンドローネは副砲やCIWSを撃ちまくってグラーフを撃ち落とそうとするが、グラーフはその脚部のホバーを活かして弾幕を躱しながらもバズーカを撃ち込み、CIWSのひとつを破壊する。
このままでは艦に取りつかれてしまい、ブリッジを破壊される。
グラーフはさらにバズーカを発射、副砲も破壊し、そろそろ取り付こうかと言う時。
「させっかよォッ!」
そこへ、アスターのスバルがアサルトライフルを撃ちながら現れ、弾切れになったそれを捨てると、右マニピュレーターにはブレードを抜き放ってグラーフへ突撃する。
対するグラーフもバズーカの発射を止め、左マニピュレーターにヴァロンと同型のアックスを抜き、
ガギァンッ!!と重質量同士が激突し、甲高い金属音と火花を散らす。
しかし鍔迫り合いには持ち込ませず、スバルは強引にアックスを弾き返し、間髪なくグラーフのボディを蹴り飛ばす。
アスターは操縦桿を押し出し、蹴り飛ばして体勢を崩しているグラーフへ肉迫、ブレードを突き立てんと接近する。
しかし相手も熟練らしい、すぐにグラーフの姿勢を制御すると、アックスを振るってスバルのブレードを弾き返してみせる。
弾き返されたその姿勢のまま、アスターはスバルの各部のスラスターを点火させて、グラーフに向けて体当たりを敢行、組み付いた。
『ほーぉ、お前が噂の"我らのエース"か?』
不意に、接触通信越しにグラーフのパイロットらしき男の声が届く。
「あァ?我らのエース?」
バリーやガルドのような、サンドローネの面々から言われるならまだしも、何故見ず知らずの相手からもそう言われるのか。
『知っているぞ、その白いスバル型のオルドマギナ。ガルド・カーティスが自慢げに言い触らしていたからなぁ?』
「知るかよンなこと!」
アスターは操縦桿を引き上げて強引に弾き返し、スバルの持つブレードで斬り掛かるが、
『だが甘い!』
グラーフはホバーの性質を活かしてほぼ静止状態からノーモーションで後方へ機体をズラし、ブレードを空振りさせた。
即座、グラーフのバズーカが発射され、大口径の弾頭がスバルのフレーム剥き出しの左肩へ直撃、炸裂と共に左肩が吹き飛ばされた。
「ぐあぁぁぁっ!?」
爆発の衝撃がコクピットを殴りつけ、内にいたアスターは激しい震動に悶絶する。
左腕の損失は機体のバランス悪化に直結し、スバルの姿勢制御が不安定になってしまう。
そして、その隙を見逃すほど敵もお人好しでは無かった。
『終わりだな、"我らのエース"!』
バズーカを捨ててアックスを右マニピュレーターに持ち直して斬り掛かるグラーフ。
「っ!」
咄嗟、アスターは右の操縦桿を勢いよく捻り倒し、呼応するスバルは右マニピュレーターに握っていたブレードを振りかぶり、グラーフ目掛けて投げ付けた。
『自棄になったか!』
飛来するブレードに、グラーフはアックスを振るって弾き飛ばす。
が、ブレードを弾き飛ばすためのモーションタイムラグこそが、アスターの狙いだった。
スバルの加速と同時に、残された最後の武器――右腕装甲から飛び出した棒状のそれを抜き放つと――ヴィォンッ、と荷電粒子が剣のような形となって顕現する――『プラズマソード』だ。
「行けェッ!」
間合いに踏み込みながら、プラズマソードを一閃。
すると、アックスを持ったグラーフの右腕を一撃で溶断してみせた。
『なんだとっ!?』
「くたばりやがれェ!!」
動揺に挙動を止めるグラーフのボディに、スバルはプラズマソードを迷わずに振るい、前面装甲からバックパックまでを真っ二つに斬り裂いた。
『バカなっ、俺が負』
推進剤やオイルにプラズマが引火し、グラーフは大爆発を起こして砕け散った。
「ハァッ、ハァッ……なんとか、倒せたか……はぁ……っ」
周囲に敵の反応が無いことを確かめてから、アスターは大きく息を吐き出した。
一息ついていると、サンドローネから通信が届く。
『おぅ、お疲れさんアスター。大丈夫か?』
モニターに、気遣わしげなガルドの顔が映る。
「俺は平気だ。……ただ、スバルの左腕が壊されちまった」
『なに、パーツさえあればオルドマギナは直せるが、お前さんは替えが効かないんだ。ちゃんと生きてる方が大事に決まってるだろう。ほれ、帰還してこい』
「あいよ、りょーかい」
機体よりもパイロットの事を案じてくれるガルドの言葉にアスターは安心しつつ、サンドローネへスバルを帰還させる。
夜が明けてから、アスターは再びガルドに呼び出されてブリッジへ来ていた。
「で、キャプテン殿。奴らがどこの連中か分かったのか?」
昨日の昼間と、真夜中に襲撃を仕掛けてきた相手が何なのかを訊ねるアスターに、ガルドは頷く。
「あぁ、この地域で幅を効かせている奴らなら『グッテ団』だろうと思って、機体を調べさせたらビンゴだった」
昨夜にアスターが撃墜したグラーフやヴァロンをメカニック達が調べ尽くしたところ、大規模な武装組織に所属していたことが分かったらしい。
「グッテ団って言えば、オルドマギナを10機以上は保持してる大物じゃねぇか」
尤もそのオルドマギナの半数は、サンドローネの主砲を受けたせいでスクラップになってしまったようだが。
「うむ。どうやら連中、俺達のことがよほど気に食わなかったらしい。ま、我らのエースの敵では無かったがな!」
「笑い事じゃねぇよ、スバルの左腕は吹っ飛んじまったし、フレームだってガタ言わせちまったし」
「バリーが半泣きになってたなぁ、「これジャンクで直すより中古のスバル型買った方が安く済むんじゃね?」ってな」
となると、とガルドはテンガロンハットの鍔をピンッと鳴らした。
「グッテ団の力が弱まった以上、ここら一帯は荒れるだろう。連中、オルドマギナの数に物言わせて、随分好き勝手していたしなぁ」
「荒れる前にここからおさらばして、そのついでに俺のオルドマギナを現地調達しようってわけか」
「そう言うことだ。さぁ、進路変更だ!」
ガルドの号令に、ブリッジクルーは慌ただしく動き出す。
彼らの向かう先に待ち受けるのは、新たな仲間か、或いは敵か。
だが、彼らの傍らには常に『我らのエース』と呼ばれるエースパイロットと、白いオルドマギナがいた――。
【登場メカニック解説】
『OM-079 スバル』
…クアッド国際連邦に属する、日本で極秘裏に開発されていた、二足歩行人型決戦兵器。大戦初期頃にロールアウト、実戦投入され多大な戦果を挙げた、オルドマギナ初のマスプロダクトモデル。
『EXR-06 ヴァロン』
…ユーラシア大帝国軍がスバルを鹵獲、模倣して開発したオルドマギナ。スバルとの差別化を図るためか、頭部スリットのモノアイが露出しており、全体的に曲線を帯びた外観を持つ。ロールアウト後、様々なバリエーション機が開発された。
『EXR-07 グラーフ』
ヴァロンの後継機種に当たる、重装型オルドマギナ。ヴァロンと比較しても一回り装甲が厚く、大型化した脚部はホバーユニットが搭載されており、陸上における機動性に秀でている。
『サンドローネ級陸戦艇』
西ヨーロッパ共同体で運用されていた陸戦艇。オルドマギナの搭載を前提としているため、格納庫が広く設計されている。