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16 王国側の謝罪、すらもまた歌い出すのね

「誠に申し訳ございませんでしたぞえ。ニヤニヤ」


 婚約の儀が無事に? 終わり、私の部屋には宰相のニヤリンコ・ゲボゲボが謝罪に訪れていた。枯れ木の様に細く、真っ黒なローブを着た、三白眼で出っ歯の宰相が現状を報告する。

「死んだ賊の身元を全て調査しましたが、彼らは国境で魔物を狩る傭兵達でありましたぞえ。部隊? いえいえ、部隊でもなくですな。勿論どこの国にも所属しない、傭兵でありますぞえ。それぞれが個々に雇われていたようですぞえ。誰かが彼らを雇い、ヴィオランテ皇女殿下を襲ったのですぞえ、ニヤニヤ。雇い主の更にその先に別の雇い主がいて、それもまた枝分かれしておりまして、真の雇い主に辿り着くけないように巧妙に仕組まれておりますぞえ。前後関係に関しましては、いまだ調査中でございますぞえ、ニヤニヤ」

「襲ったですって!! このヘボ宰相!! ここはサブリミナル王国の中枢! 王城でしょ!? 腕利きの騎士や衛兵がいるってのに、奴等の侵入を許したんですか!! 誰から雇われたかも大事ですけど、それにしたって簡単に侵入され過ぎでしょうよ!! ていうかあんた何さっきからニヤニヤしてんのよ!!!! ふざけんじゃないわよ!!!」


 もう、セバスチャンヌが怒り狂ってくれるお陰で、原作通り私は言うことがない。

 ニヤリンコがニヤニヤしているのは彼の癖で彼にはまったくなんの悪気もないのだけれど。それは王子ルートの後半シナリオNO255「国の平和に全てを捧げた男。ニヤニヤの呪いの真相」で判明するんだけど。

 まあ、ニヤリンコ自身はこの時点で既に帝国側からの手引きでの刺客であった線も疑っていて、それを私にカマかけている場面でもあるんだけど。私の愛しいセバスチャンヌは賊が帝国からの差し金ということは知らないから、無理もない。それに、彼女の言う通り、帝国の策略だとしても、彼らを城に手引きした者がいるのは確かなのだ。つまり、王国側にも当然協力者がいる。まさに四面楚歌。周りは敵だらけなのだ。


 まあ、だけど問題はここからよ。ニヤリンコとセバスチャンヌ、言い合いしながら徐々にテンション上がっているけどさ、やめてよね。それだけは絶対、やめてよね。



 ――――――歌いだしたり、しないでよね。



「これは問題よ!」

「何が問題ですぞえ? ニヤニヤ」

「問題に決まっているわ」

「決まっているのですかぞえ? ニヤニヤ」


 あ、ヤバい感じがする。なんか、こういった反芻系の会話っていかにも「今から歌いだします」の溜め、って感じがするもん。


「………………」

「………………」


 睨み合う二人。しばしの沈黙、そしてセバスチャンヌがスウっと、大きく息を吸い込む。

「そーーれーーわあああああああーーーー~~~~」


 ほら、きたじゃん。


「王国の不手際よ♪ こんなことあり得ないわ♪ 姫様の命、奪おうとした、そちらの責任よ、原因を究明しなさい」

「本当に申し訳ないぞえ。ですが、まだ分からない。まだ調査中です、誰の仕業かたしかめなければ♪」

「誰の仕業ですって? 王国の仕業でしょう? 王国のどの勢力か? それはこちらには関係ないわ♪ そう、まったく関係ありません。革新派だろうが保守派だろうが、第一王子だろうが第二王子だろうが男だろうが女だろうが老人だって子供だって魔物だって関係ない♪ これは王国で起きたこと、誰だろうと何だろうと、一切合切王国の責任。貴方に出来ることはただ一つ、そのニヤニヤした顔を下げ、ただ謝るのよ♪ 姫様に!!」

「それは勿論ですぞえ。申し訳ない。二度とこんなことが起きないように、気をつけますぞえ。申し訳ない」

「警備は?」

「倍に増やしました♪」

「三倍よ♪」

「ただちに♪」

「毒見係は!?」

「三人用意してます♪」

「八人よ♪」

「ただちに♪」

「ドレスは」

「全色用意しますぞえ」

「そうよ結婚式に赤のドレスなんてもってのほか!!! 責任責任! お風呂は」

「広く」

「ローズをたっぷり浮かべるのよ。姫様は」

「鮮血を鮮やかな薔薇ローズに変える。魔眼の戦姫ぞえ」

「そうよ。誰の姫だと思っているの♪ 私の姫よ。甘く見ないで、私がお仕えする御方。ヴィオランテ・マーガレット・グランセイバー皇女殿下。誰よりも気高く美しく愛らしい、私の命、宝、全て!!!」

 私のベッドの上に立ち(主人のベッド。いや、それ凄く失礼なんですけど)、輝くスポットライトの真下でズバンとポーズを決めるセバスチャンヌ。

 ちなみにこれ、【♪M2『私の姫様』】だそうです。


 一度休憩。少しの間の後に再び音楽は鳴り始める。


「はい、すべておおせのままに、ですが、ですが、まだ分かりませんぞえ。おかしなことが多すぎます。私はこの国の宰相。表も裏もある程度、ニヤニヤ、把握しています」

「把握出来てないわ。だから襲われた」

「その通りです。それは申し訳ない、ニヤニヤ~~♪」

「ニヤニヤすんな!」

「善処します。そして、調査します。分かり次第、お伝えします。この事件、まだ裏がある」

「それはあなた達の都合。調べるなら好きにして、だけど忘れないで今私が言ったこと♪ 処遇を、責任を、忘れないで、許さない。私の姫様をぞんざいに扱うなんて」

「善処しますぞえ~♪」

「善処善処聞き飽きた。善処とその口から零れる前に、行動してください。口を動かす前に。口動より先に、行動を!」

「いや、これは一本取られましたぞえ~、ニヤニヤ」

「ニヤニヤすんな!!」


 凄い盛り上がってるなあ。二人ともよく口が回るものだと、感心してしまう。そして、私の方にはミュージックパートの例のシグナルは浮かんできていないから、かなりホッとした。私が歌うパートはないってことよね。

 無理無理、こんな中に入っていけないよ。


 そして、入ってこれない人がもう一人。心配そうに扉の前で俯いている王太子殿下である。

「フィンセント王太子殿下は大丈夫でしたか?」

「……ヴィオランテ姫。この度は本当にとんでもないことになってしまい、国を代表して謝罪致します」

「おやめになって、宰相様の仰る通り、まだ誰が犯人か分かっていません」

 そう、実際には帝国側の思惑だって入っているのだから。お互い様である。

「ですが、確かに僕達の結婚への反対派はこの国に、また貴族にも存在します。それらの勢力を抑えることの出来なかった、私の責任でもあります」

 本当、フィンセント様って頼りなくて自信ない。だけどそこが良いのよねー。駄目男ってことじゃなくて。実際は実力あるのに自信がないって所がいいのよ。

「あまり気になさらないで下さい。暗殺や策略は帝国でも慣れていますので」

「…………」

 私の言葉は気休めにならなかったようで、フィン様は更に落ち込んでしまっていた。

 何に落ち込んでいるかも分かっている。


 彼は私を守ることが出来なかったことを、悔いているのだ。



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