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15 ミュージカル転生

 

 …………………………終わった。


 よりによって、ミュージカル版の世界にやってきてしまったなんて……。

 原作とアニメに酷似しているから、まったく疑わなかった。

 だけど、セバスチャンヌやフィン様の、たまにある変な台詞回し。あれが伏線だったのだ。あれはミュージカル特有の「台詞を歌っぽく歌うやつ」だったのだ。ああ、もうおしまいだ。


 アニメは好き。キャラソンも好き。アニメのイベントで主題歌や劇中歌が聴けるコンサートも大好き。歌は好き。歌は嫌いじゃない。


 だけど、だけどだけどだけど………………………………。


 ミュージカルは苦手なんだよ!!!

 なんで突然歌い出すんだよ!!!

 まったくもって現実的じゃないじゃん!!!! 



 そして、更に更に更に、最悪なことは続くもので。螺旋階段がふっと消え、スロープになってしまったかのように、あっという間に滑り落ちる様に続くもので!! 


 何故か私の視界の隅に「♪」という音符マークが出ていることに気が付いた。


 気になって真眼を発動してみる。

 すると、音符の横に文字が浮かびあがる。

【♪M1『メインテーマ ロンリネスプリンセス~目が離せない~』《ミュージカルパートです。歌って下さい》】と書いてあるんですけど!!!


 はあ!!?? 歌って下さい!!??

 真眼って、そういうのも見えるの? ゲームシステム的なものさえも?


 そして、え!? 歌え!? 歌わないと駄目なの?

 絶対に嫌なんですけど。私、音楽2だよ。だからカラオケも嫌いなんだし。

 合唱コンクールでもずっと口パクで乗り切ってきたんだよ。友達とカラオケに行っても「ふふふ~ん」っていう適当な合いの手鼻歌とタンバリン一つで盛り上げ役に徹して切り抜けてきたんだから。


 確かに、レジにあるミュージカル版のDVDを買って、篠宮君にあげてしまった。

 あの時。最後に私が指をさした先には、それらが詰まった袋があった。

 ……つまり、そういうことなわけ? 

 この世界は完全ミュージカルなのか、ロンプリ媒体全てが混ざっているかは、分からないけど、この際そこはどうでもいい。こんなガッツリ歌われている、今現在、私にとってここはほぼミュージカル世界なのだから。


 原作好きでも、ミュージカル版は履修してないのよ。

 昔から、ミュージカルだけはちょっと世界感が理解出来なくて。

 だってだってだって!! 突然歌いだすんだよ! 怖いじゃん。

 かといってそれを好きな人を否定するわけじゃないし、作品も認めるけど。

 私はそもそも根本的にミュージカルというもの自体が、受け付けないといいますか。はい。酒飲みを否定するわけじゃないけど、生まれつきアルコールを受け付けない体質の人っているじゃない。ああいう感じ。

 だってだって!! 普通に話してたと思ったら突然歌いだすんだよ? 踊り出すんだよ!? 

 怖いじゃん!! 

 そんなことって現実に生きていても、ないよね? タモ〇さんだって言ってるんだから、不自然だって。お芝居とかなら分かるけど、ミュージカルは絶対に世界観としておかしいって。背筋がゾゾゾゾ!! ってなるんだから。


 だから、皆が歌っているのはもう、諦めます。それは本当、好きにやって下さい。


 でも、私は無理。私は歌いません。

 《ミュージカルパートです。歌って下さい》

 はい、無理ですから。

 《ミュージカルパートです。歌って下さい》

「無理って言ってるじゃん! もう! 馬鹿!!」


 思わず大声を出してしまった。馬鹿とも言ってしまった。大広間には沢山人がいるのに。だけど! 

 ああああああ。動かないの!! みんな動かない。時間が止まっているみたいで!

 そしてそして私も動けない。身体を動かすことが出来ないんですけど! 皆が止まっているうちに逃げ出すことも出来ない。そして、今ツッコんだから分かるんだけど、そう、口だけは動かせそうなんです、はい。

 つまり、これって、私が歌わないと一切時間も、物語も、進まないってこと?

 そう考えた私の思考とリンクしてか、真眼で視える但し書きが更に追加される。


 《ミュージカルパートでは歌わないと物語が進みません。一生歌わなければ、一生進みません》


 …………凄いこと書いてあるんですけど。

 一生進まないんだって、時が。歌わなかったら絶対に進まない。そんなことってある?

 こうなったらもう選択肢なんてあってないようなものじゃない。


 一生進まないんなら、もう仕方がない。歌うしか……ない。


 歌う…………しか、ないのか。…………マジか。


 先ほどまで浮かれていた私は今は昔。

 観念して、大きくため息を吐いて。その後にまた更に大きくため息を吐いて。また吐いて。吐きに吐いて。吐き出すものが全て、何もかも無くなってから。


〈私は決して屈しない。陰謀にも、策略にも、何も。私を傷つけることは敵わない〉

 ご丁寧に、カラオケの様に歌詞まで目の前に表示される。

 そして、私は、目の前に浮かんでいる、歌詞をなぞった。


「え、と。私は決して屈しない。陰謀にも~、策略にも~、な、何も。私を傷つけることは敵わないういい~~♪」


 ♪マークが点滅し始める。どうやら、歌を歌い出すと物語が進むらしい。


〈私は孤独。誰も私の心は分からない。一人、敵国に売られた〉

「わ、私は孤独。誰も私の心は分からない。一人、敵国に売られたあああ~~」

「謀略」

「策略」

「陰謀」

「戦争」

「目が離せない~~」


「…………だけど、僕は君を」

 私とフィンセント様に、ひときわ大きな光が集まり、照らす。まるで二人だけの世界。照明効果まで反映されたミュージカルワールド。道理でさっきからそんな演出が行われていた気がするわ。 


「だ、だけど、だ、誰も私の邪魔はさせない。あ、貴方だって、利用してみせるわあああ~~~」

「構わない~~♪ 僕は君から、目が離せない~~♪ この気持ちを教えて欲しい~~~♪」

「ま、まやかしの婚約~~。そこに私達の意志はないわ~~~♪」

「僕の意志は今決まりました♪ そう、貴方の為なら、この国を担保にしても、構わない~~~♪」

「そ、そんなことを言ってはだ、ダメ。貴方は一国の王太子~~~なあのだあからあああ~~」

「でも、僕の心に灯ったこの想いは、ひょっとしたら、国の為になるものなのかもしれません~~~♪」

「わ、私は一人でいいの」

「一人にはさせません」

「かまわないで」

「目が離せない」

「そう、私は」

「君は」

「私は」

「貴女は」


 そして、私は目を瞑って、身体を震わせて、フィン様と共に歌う。

「「ロ、ロンリネスうう~~プリンセスううう~~~♪」」





 長い、永遠の様な地獄の時間の後、静寂が訪れる。



 その後、新しい歌詞は表示されない。

 なんとか、歌いきったようだ。

 ううううう。恥ずかしいよう。死ぬほど恥ずかしい。こういう世界なら演劇部とか合唱部を連れてこいよ。剣道部じゃなくて。もう、役不足だよ。って意味が違ったっけ。ああ、どうでもいいや。舞台用語嫌い!!!


 沈黙の後、どこかから、盛大な拍手が聞こえてきた、ような気がした。


 自分でも分かる。なんとも外れた音程だったろう。顔から火が出る程恥ずかしい。これは一体何の罰ゲームなの? さっきまでの浮かれ気分が全て吹っ飛んでしまった。


 現実世界に帰りたい。



 私は切実に願った。昨日とは真逆のことを。



 ああ、夢なら覚めて。お願い。


15話目にして、ようやく『ミュージカル転生』っぽくなってまいりました。

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