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13 魔眼の戦姫ヴィオランテ・マーガレット・グランセイバー(2)

 色々と考えている間に私は更に4人刺客を倒していた。

 

 基本的には全て敵の攻撃の軌道を読んでからのカウンターである。魔眼は本当に便利。相手の動きが手に取る様に分かり、自分を自分以上に動かすことの出来るこの感覚。まさに超感覚である。


 ゲームではこの場面は3D格闘ゲーム風になっていて、ノベルゲーユーザーを泣かせたっけ。

 結構複雑なコマンド技なんかもあるし、魔眼発動にもゲージや制限時間なんかの条件があるから、婚約の儀から先に進めずに詰むユーザーが続出して、発売当時クソゲー認定を受けそうになった程である。

 だから、それより生身の自分として動ける私はかなり効率よく刺客を倒していた。


 魔眼の戦姫には敵わないとみて、一人の刺客が逃げようとしている。いけない。生かして帰してはいけない。


「人の晴れ舞台を台無しにして、勝手に襲ってきて、劣勢になったからって逃げようなんて、マナーがなっていない刺客だこと」

「ぐ!!!」


 逃げる背中に向けて、波魔の魔眼でバインドをかける。要は魔力で身体を縛っているのだけれど、この力もかなり強い。静止した刺客を追い、ダンスの続きのように、流れるようなステップで近づき、その背中を鎧の隙間から貫く。雷に打たれたように震えた後、賊は崩れ落ちた。


 一分もかかっていないだろう。

 襲ってきた10人の刺客を、真紅のドレスを着た皇女が、一人で斬殺する様子は、さぞ壮観だったろう。

 最後の一人の足を斬り、地面に転がし、その背中を足蹴にする。背中から心臓を貫き、断末魔の悲鳴を上げさせる。


「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」



 静寂に包まれる会場。ここで、私は階段の踊り場の上でニッコリと笑って、シリーズ屈指の、あの台詞を一言一句違えずに口にする。


「サブリミナル王国の皆様。手厚い歓迎、どうもありがとうございます。ご挨拶がまだでしたね。ただいま、建国神ベローチェ様の御許に伝統の舞踏を捧げ、フィンセント王太子殿下と婚約させて頂きます、ヴィオランテ・マーガレット・グランセイバーでございます。さて、これは私の故郷、グランセイバー帝国流で歓迎して頂けた、ということでしょうか? そう考えますと、なるほど。この赤いドレスも――返り血が目立たなくて良いですわね」


「……………………」

「……………………」

「……………………」


 女神の様に美しく、鬼神の様に強く残酷な花嫁の豪胆な言葉に、誰も何も返せない。静まりかえる会場。ああ、この台詞を自分の口で、言えるなんて。快感だわ

 私の大好きなシーンの一つでもある。

 王国貴族、宮廷官吏、参列者からの冷たい視線、ヴィオランテの気丈な性格を見事に表現している。


 まあ「歓迎」といいながらもこれは帝国側からの刺客だから実際には王国もとばっちりなんだけどね。まあ、そう言いながら手引きした王国側の公爵がいるから一概にどうとはいえないんだけど。まったくどいつもこいつも。


 さて、ここからどうすればよかったかしら?

 そうそう、私主導で婚約の儀を成立させてしまうまでがこのエピソードの流れだったわね。


 圧倒される聴衆を尻目に、私は堂々と階段を上り直し、ベローチェの彫像に口づけをして、その右手の指輪をはめる。更に左手の指を外して、護衛騎士の横を通り過ぎ、呆然としている王太子の指をとって、はめる。

「フィンセント王太子殿下、私達、これで晴れて婚約者ですね。半年後の正式な結婚が待ち遠しいですわ」

「……………………」

 絶句するフィンセント殿下。ああ、その顔も可愛らしや。子犬みたいで


 私は実際に大好きなゲームの中でヒロインを追体験出来ることを――楽しんでいた。

 そう、楽しいのだ。もっとゲームと現実は違う、と幻滅するかと思っていたが、案外そうでもなかった。

 大体こういうものは悪役令嬢とかになって、処刑とかの運命から逃れるものが多いけど、そうじゃない。

 正規のヒロインとして、正規の手段で進めば幸せになれるって決まっているんだから、これは最高よ。

 勿論命の危険は山ほどあるから油断は禁物。だけど、私の原作知識は完璧だから、その中でも最高のルートを辿っていけばいいのよ! 

 剣道部だった私の経験と原作知識、それにヴィオランテ自身のこれまでの人生があれば、推しと仲良くなって、この世界で私は幸せに生きていける!


 ああ、だけどこの後どうなるんだろう。


 原作でもアニメでもヴィオランテが婚約宣言したら、次の場面に飛ぶんだけど。

 まさか原作みたいに、シーンが飛んだりするのかしら。それとも、実際には語られていない「繋ぎ部分」も私が演じなくてはならないのか。

 私の台詞は終わっている。今日はこのまま帰ってもいいのだろうか。



 所在に迷っていると、そこで、フィンセント王太子殿下が、口を開いた。




「おお……♪ なんだろう、この胸のトキメキは…………何故だろう、目が離せない~~♪」


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