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12 魔眼の戦姫ヴィオランテ・マーガレット・グランセイバー(1)

 刺客は抜き身の剣をそのまま振りかぶる。

 容赦なく襲い来るその凶刃を、私は鎧人形の腰元から抜いた剣で――スッといなす。


「ッッッな!?」


 暗殺者は驚いた表情を浮かべる。それもその筈。全身の力を込めて放った一撃が、まるで空気を斬ったかのように、躱されたのだから。


「おのれ!!! 魔姫め!! くらえ!!!」


 命中率を上げる為、次に刺客は私の胸目掛けて突きを放つが、それすら私はいなす。力はいらない。ただ、相手の力を私の身体以外の、外に逃がしてあげればいいのだ。そう考えると、とてもシンプルな所作である。

 私自身、剣道の経験があるし、ヴィオランテの身体能力に「魔眼」までもが加わったら、いとも簡単に避けることが出来る。

 実はつい先ほどまでは少し緊張していた。ヴィオランテはともかく私は自分の命を狙っている者と対峙したことなどなかった。だけど、これなら――いける。


「ただ、やっぱり邪魔ね。なんで原作でこうしたのか、差分CGの為のお色気シーンなだけかと思ったけど、仕方ないわね……」

 そう呟いて私は赤いドレスのスカートを破ると、腰の部分に巻き付けて足回りを動きやすくする。


「ヴィオランテ姫!」

 フィンセント様が私の名前を叫ぶ。私を庇って前に出ようとするが、控えていた護衛騎士から制止されて進めないようだ。

 まあ、それは好都合でもある。フィンセント様が出てきても、邪魔でしかない。


 細身の剣を構え、私は真眼を使う。魔眼は左目で赤色、真眼は右目で蒼色。魔眼は戦闘用、真眼は分析用、といえば分かりやすいかしら。

 これを使い分けてヴィオランテは様々なパートで攻略をしていくのだ。黒ずくめの賊を蒼き真眼で視る。


 そこには「帝国の差し金の王国兵」と記されていた。


 そう、これは原作でもヴィオランテが早々に知ることになる事実である。

 自分を襲ってきたのは王国の反帝国派、反和平派からの刺客だと思っていたが、実は彼らは帝国がヴィオランテに送り込んできた刺客なのだ。

 いや、正確に言うのならば、私が真眼で見た通りの事実を解釈するなら「帝国がヴィオランテに放った、王国の公爵家を唆した王国兵」である。

 ヴィオランテをここで始末して、それを王国の仕業と偽って(実際、唆されているのは王国の反帝国派なので、偽って、というのとも違うのだが。まさにそこが帝国側からしてみれば暗殺が成功しても失敗しても何の損もしない、絶妙な点である)、非難して、王国に攻め込む理由をつくる。それこそが、私とフィンセント様の結婚の目的の一つでもあった。

 だからロンリネスプリンセスの意味はここにもかかっているのよね。「敵国に一人で嫁ぐ姫」であり「味方からも命を狙われる姫」なのだ。本当、ヴィオランテが気弱な令嬢だったら、絶対に生き残れない物語なのよね。


 だけど、原作でもヴィオランテは折れてしまいそうな気持ちを奮い立たせて立ち上がる。

 誰一人味方がいなくてもたった一人で戦うヴィオランテの姿を見て、攻略対象や他の登場人物は彼女に惹かれていくのだから。それに、今の私が殺されたらどうなるのかは分からないが、痛いのは勘弁して欲しい。私の記憶的には昨日一度死んだ感じなので、2日連続で死にたくはない。


「おのれ! 何者だ! 騎士達よ。陛下と王妃殿下、王太子殿下を守るのだ!」

 そう大声で騎士達に指示を出すのは、王立騎士団長のランドセル・ガイア・キングヘルムだ。彼も攻略対象だが、何故か彼らは私を守ってはくれない。王様や王妃様もいるから、優先順位の話なんだろうけど。


 もとより頼みにもしていない。自分の身は自分で守るしか、ないのだから。


 手に取った剣は本物である。初めの選択肢としてだが、ここで英雄騎士ラファエロの剣を取ると、それはレプリカで、直ぐに折れてしまうのだ。だから私は迷わずに覇道騎士ガステラの剣に飛びついたというわけ。細身だけど、ガステラの剣は本物で、ヴィオランテも使いこなすことが出来る。

 真眼の次は魔眼だ。

 左目に赤い炎を宿すと、世界がゆっくりと、スローモーションで動きだす。魔眼には外界にそのまま魔力を放つ「波魔」と、相手の動きを見極める「見魔」と、自身のステータスを強化する「身魔」がある。現在は見魔と身魔を使用している状態である。


 停滞した世界の中で、冷静に判断する。賊は10人。その全てが、私を狙っている。


「うおおおお!」

「お命ちょうだい!!!」

 滲み溢れ出る魔力によって牽制された二人の賊が私に戦慄を覚え、同時に襲い掛かる。

 剣を振りかぶって一瞬の隙を見せた右手側の腹を瞬時に斬り払い、同時に左側の男の剣戟を返す刀で薙ぐ。剣を弾かれて無防備になった首にトンと刀身を置き、そのまま優しくスッと引くと、噴水の様な血しぶきを上げながら、賊が倒れた。


 二人を、殺した。


 命を奪う行為は初めてだったけど、良心の呵責だとか命の尊さだとか、そんなこと言ってられない。やらないとこっちがやられるんだから。

 それに、私の中のヴィオランテは14歳が初陣でその後16歳では数百の兵を率いて、直接的にも間接的にも今より何百倍の命を奪ってきている帝国軍の将軍である。こんなの初めてでもなければ、なんら大層なことでもなかった。その意識に私の罪悪や倫理は中和されて、一切の動揺も揺らぎも感じない。


 残りは8人。奇襲で私を殺せなかった時点で、既に彼らの勝ちはない。

 原作でいうと、ここで彼らを生かして捕らえられても、良い方向には進まない。何故なら彼らは捉えられたら簡単に「帝国の差し金」であると口にしてしまうからだ。

 そうなると何故かその責任は帝国側となり、更に更に何故か命を狙われた筈の私の責任となってしまうのよ。普通に考えてあり得ないんだけど「自作自演」と疑われてしまうのだ。


 だから、そんなややこしいことにならないように彼らは「正体不明で所属不明な暗殺者」として葬らなくてはならない。物言わぬ死体として、皆殺しにしなくてはならないのだ。


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