0 夢に見た世界
豪華絢爛に彩られた王城の大広間。
金色のシャンデリア、大理石の大階段。
白銀に輝く鎧騎士の飾り、精密かつ流麗に細工された神の彫像。
宮廷楽団の音楽が鳴り響き、多彩な宝石をちりばめたドレスを身に纏った貴婦人達がダンスを踊る。
その中心に存在する、女神の様に美しく、凛とした眼差しを称えたシルバーブロンドの女性。
夢にまで見た世界。大好きな乙女ゲームの世界、その主人公の皇女ヴィオランテに、私は転生した。
よくある人生からの、よくある異世界転生――――それは私にとって薔薇色の世界。
王国の王太子との婚約の儀の一幕。
何度も原作ゲームをプレイした、何度もアニメを繰り返し視聴した、コミカライズで読んだ、名場面。まさか自分が主人公として、憧れの王太子とのラブロマンスを経験出来る、なんて。
だけど…………ああ……………………。だけど……………………。
「おお……♪ なんだろう、この胸のトキメキは…… 何故だろう、目が離せない~~♪ 一体どうしてしまったのだろうか~~、僕のこの胸の高鳴りは~~」
違う。
違った。
ここはゲームでも、アニメでも、コミックでもなかった。
「彼女から目が離せない~~♪ 彼女は、憎き帝国の、姫~~。祖国からも売られ、王国からも嫌われ、嘲笑われ。だけど、だけど彼女は何かが違う。僕とは違う。かけ離れている。たった一人で敵国へ来た! そして放たれた刺客! なのに気高く、挫けない。あまりにも堂々として、凛として、美しい~~♪ ああ、何故だろう、目が離せなああああいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~♪」
よくある人生からの、よくある異世界転生――――なんかじゃ、全然なかった。