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王国兵日誌~取り調べ編~

作者: 鶴橋

燃え盛る船を見ながら一人思う。これで良かったのだと。

 死刑は免れないだろう。だけど、生き残ってどうしろというのだ。このまま進み続けてどうしろというのだ。

 さすがに疲れた。もうここで終わらせてしまおう。





「湿気てるなぁ」

 王国兵の制服を着た金髪のロングヘアーをした若い女性は先程読み終わった本をパタンと閉じると、周りを見渡してそう言った。

 彼女がそう言うのも無理はない。部屋の中は窓が一つ、ベッドが三脚、そして机と椅子が一脚ずつあるだけで、後は石造りの壁が広がるばかり。他に何もないのだから。

 入り口に『会議室』と書かれていたのでにわかに信じがたいが、ここは会議室らしい。

 レクタングル諸島の外れにある小さな孤島。そこは危険度の高い事件に関わった容疑者が収容されている。

 そんなところに誰も所属したがらない為、万年人手不足だ。七日前、ついにこの留置場の職員が全員辞めてしまった為、手の空いていた彼女がここに派遣されたわけである。

 今日、二人の王国兵が応援に来ると聞いているが、やはり一人だと何とも言えない湿っぽさを感じてしまう。

 気晴らしに窓の外を見てみるも、手前に容疑者が収容されている建物があるのを除けば、森と海しかない。

 良く言えば自然豊か、悪く言えば殺風景な光景だ。

「やっぱり湿気てる」

 言って何かが変わる訳ではないのだが、女性は再びそう言った。


 ガチャリと扉の開く音が突然聞こえてきた。振り向くと、頭からつま先まで甲冑で包まれた重装備の兵士がドアから顔を覗かせていた。

「もしかして海軍第2部隊のドートさんですか」

「……はい」

 女性がそう聞くとドートと呼ばれた甲冑の兵士は何処か不気味な声で静かにそう答えた。

「海軍第1部隊のバッカスです。あ、入ってきて大丈夫ですよ」

「……はい」

 ドートがそう言うとドアを開けて入って来た。

「えっ」

 バッカスは思わず声を上げる。扉に隠れて見えなかったがドートの兜は片側が不自然な形に膨らんでいるのだ。

 それだけではない。右腕が左腕より圧倒的に大きい。明らかに身体と不釣り合いだ。

 それに加えて鎧が所々錆びている。

 その姿はいかにも、神話やお伽噺といった物語に出てくる呪われた甲冑そのものだった。

「ひっ……」

 絞り出すようにそんな声が出てきたかと思うと気を失った。





 目を覚ますとバッカスはベッドに寝かされていた。

 部屋を見渡すと爽やかな印象を受ける白髪の青年がバッカスを見ていた。

「イオさん……?」

 彼女は目を擦りながらそう言った。彼女はその青年と会ったことがあった。数年前まで同じ部隊だったのだ。

「久しぶりだな、バッカス。ひとまず全員集まったみたいだな」

 爽やかそうな笑顔でイオは彼女にそう言った。バッカスは寝起きの頭でそれを聞いていたが、不意に先程までのことを思い出す。

「さっき、甲冑の化け物に襲われました。ここは危険です。直ぐに島を出ましょう。」

 バッカスは咄嗟にそう提案する。ゆっくりと丁寧な声であったが声からは確かに焦りと恐怖が感じられた。

「落ち着け、あの甲冑は敵じゃない」

「え」

「俺の同僚で、人間だ」

 イオにそう言われ、彼女の頭が数秒程止まる。しばらくしてバッカスは混乱したような口調で言った。

「え、いや、あの見た目でそれはないでしょう。アレは人を操るタイプの呪いの甲冑ですよ。小説で見ましたよ」

「落ち着け、アイツは人間だ」

 諭すようにイオは彼女に言い聞かせた。

「そろそろ入っても大丈夫そうですかね」

 そう聞こえたかと思うと、ドートが身体を縮こませながら入ってきた。甲冑は頭と右腕を除いて全て綺麗になっていた。

「待っている間に着替えてきました。幸いにもコレはサビつかないタイプみたいです」

 見せつけるようにイオの方へ左腕を伸ばしながら、ドートはそう言った。

「おお、こっちに鎧があって良かったな。着てく鎧、もう間違えるなよ」

 親指を立てながらイオはそう言う。

「もしかして……普通に人間?」

「だからそう言っただろ」

 空いた口が塞がらないバッカスに、イオは笑いながらそう言った。

「まぁ、私も最初、名前からバッカスさんを男だと勘違いしていましたし、お互い様ですね。改めてよろしくお願いします」

 そう言ってドートは左手の数倍は大きい右手を出し、握手を求めてきた。

「こちらこそ」

 何処かおぼつかない声でそう言うと、バッカスは手を取った。





 三

 

「じゃあ情報の共有しちゃいますね」

 バッカスはそう言いながら机に資料を広げる。

「まずは事件のおさらいからしましょう。今回取り調べするのはディーガル・ジャックさん、年齢不詳の龍人族ですね。

 九日前に自身が乗船していた旅客船を爆破、乗客三十一名が死亡。器物損害、殺人、加えて国家転覆の罪を問われてます」

 イオは資料を見ながら頭を掻く。

「前々から気になっていたんだが、何で国家転覆罪に問われてんだ?資料を見たんだけど良く分からなくてよ」

「そんな難しいことじゃないですよ。昔、王国が龍人族を凄い力を持っていて怖いから迫害していました。

 しかし、時代が変わったこともあって迫害が問題になりまして、友好条約結んだんですよ。

 それで、お互いに仲良くしよう、ってなった時にディーガル容疑者が船を爆破したので、『お前わざとやっただろ、このテロリストめ』ってなってる状態です」

 半ば呆れた声でドートが答えた。

「解説ありがとう。しっかし、何であんなややこしい書き方してたんだ?」

「王国側が加害者扱いされるのを嫌がってまして、長々と言い訳書いてたらあの文量になってたんですよ。まったくしょうもない」

 イオの疑問に、バッカスがため息交じりに答える。

「じゃあ、情報共有に戻っちゃいますね。次は取り調べの内容についてですよ」

 あまりあの話題について話したくなかったのか、彼女はすぐさま話しを反らしだした。

「凶器は自身の火炎弾。動機は世界を滅ぼしたかったから、だそうです」

 辺りに沈黙が広がる。

「え、それだけ?」

 イオとドートは資料を見合わせていた。取り調べで得た情報が圧倒的に少ない。

「ムゥ、しょうがないじゃないですか。雑談には応じてくれる癖に事件関連の話しになると途端に黙っちゃうんですよ。

 雑談に雑談を重ねてようやく凶器と動機を聞き出せたんですよ」

 頬を膨らませながらバッカスはそう言った。やはり内容の薄さは気にしていたらしい。

「まぁ、出来なかった物はしょうがない。早速俺達も取り調べしに行くか」

「ですね」

 不服そうなバッカスを横目に、二人は資料を片付けて部屋を出た。




 四

 

「あれがディーガル容疑者か」

 イオは鉄格子越しにディーガルを見つめる。彼はベッドに腰かけて鉄窓越しに空を見ていた。

 髪は薄い緑のショートヘアー。一見何処にでもいる無愛想な青年に見えるが、耳は人の物よりも細く、爪は鉤爪のようになっていて、目は爬虫類に近い。

「お前ら誰だ」

 不機嫌な声でディーガルはイオとドートに話しかけた。

「今日からバッカスさんと一緒に取り調べをするイオとドートと言います。よろしくお願いします」

「勝手にしろ」

 もうそろそろ取り調べの時間になるからか、ディーガルはそう言って立ち上がった。

 三人はそのまま取調室へ連れて行く。今日はドートが尋問を行うことになり、バッカスとイオは向こう側からは彼女達が見えない細工をされたガラス越しに様子を見ていた。

「被害者の方々との関係を教えてくれませんか?」

「答える義理はない」

「事件を起こしたことについてどう思いますか?」

「それ聞く意味あるか?」

「事件を起こすまでの経緯を教えてください」

「……」

「事件前日は何していましたか?」

「港の宿屋で一日中寝ていた」

「被害者とあなたの関係性は?」

「乗船した船で初めて出会った赤の他人だ」


 取り調べをジッと見ていたバッカスにイオが話しかける。

「話すことと話さないことの境界線が分かんねぇな」

「そうなんですよ。完全に黙秘してる訳でもないんで長引いちゃって。普通なら三日ぐらいで終わる取り調べが、もう一週間も続いてるんです」

 訝しげに頭を掻くと、イオは続けた。

「何が目的だ?」

「真犯人を庇っているとか?そういうの、小説で見たことありますよ」

 食いぎみにバッカスがそういう。心なしか声のトーンが高くなった印象を受ける。

「それならどの質問に対しても完全に黙秘を決め込むはずだ。些細な情報から真犯人がバレる可能性があるわけだし」

「ムゥ、確かにそうで……」

 バッカスは咄嗟に会話を止める。尋問の内容に気になる部分があったようだ。急いでノートを開くと気になった内容を書き出した。


『動機は世界を滅ぼしたかったから、とのことですが、どういう意味か教えてくれませんか?』

『断る』

『死刑になりたかった的な感じですか?』

『それだ』

『え?』

『死刑になりたかったから船を爆破した』

『もっと詳しく教えてくれませんか?』

『あのタイミングで船を爆破すれば死刑になれると思った。それだけだ』

『なるほど』


 書いた内容を覗き込んでイオが言う。

「新しい情報か?」

「はい。死刑になりたかったなんて今まで聞いたことないです」

 書き終えてからノートをパタンと閉じる。イオがふとノートの表紙を見ると、『取調ノート二十一』と書かれていた。

「ノートの数、多くないか?」

 イオは思わずそう言った。

「しょうがないですよ。事件のことはあんまり喋らないし、雑談の内容もどの情報が役に立つかわからないんですから」

「内容見ても良いか?」

「良いですよ」

 イオがそう言うと、バッカスはディーガルを見ながらサッとイオにノートを手渡した。

「えっとなになに……『カエルは動いてる物しか見えないらしいな』、『ミミズは畑には欠かせない存在らしいぞ』、『蜜蜂がこの世界から消えると一年で人類は滅びるらしい』これ関係あるか?」

「ディーガルさんの境遇を知る上で重要ですよ」

「なるほどな。農家出身なんかな?」

「龍人族は主に農作なんて出来ないような岩山に住んでるはずなんですけどね」


 しばらくしてドートが取り調べ室から出てきた。

「一旦、戻りますか」





「どうしたものですかね」

 会議室に戻ると、ドートはため息交じりにそう言った。

「情報は沢山あるのに、情報がまったく足りないな」

 イオの言葉に反応してか、ドートが肩を落として言った。

「私の尋問が下手なばかりにすいません……」

 それを聞いてバッカスが励ますようにドートの肩を叩く。

「最初は誰だってそんな物ですよ。私も最初はあんな感じでしたし」

「そうですかねぇ……」

 相変わらず消え入るような声でドートはそう言う。しかし、バッカスの明るい声に当てられてか、少し元気になった印象を受ける。

「まぁ、尋問の目的はお喋りすることじゃないですから、ドートさんのやり方もある意味正解なんだと思いますよ。

 私が尋問しても雑談しかしてきませんからね」

「そうなんですか?」

「ですよ。私が話題振るとめんどくさそうに答えてくれます。まぁ、事件関係以外ですが」

「どんな事喋ってんだ?」

 ドートとバッカスの会話にイオが混ざってきた。バッカスは少し笑ってからそれに答える。

「好きな食べ物とか、休日何してるかとか、そんなところですね。たまにさっきみたいなとんでもない新情報が飛んでくることもありますけど」

 そう言いながら彼女は尋問で分かったこと、という資料の世界を滅ぼしたかったから、という部分に二重線をして、その下に死刑になりたかったから、と書き込んだ。


「質問をしてくることもありますね」

「質問?」

「いやぁ、森の話ししてたら星はどんな風に見えるのか、とか、どんな生き物がいたのか、とか」

「ほぉ」

 イオは頷きながら取調ノートを見る。確かにノートにはそれらしい会話の内容が幾つか載っていた。

「事件現場について見せて貰うことできますか?資料だけじゃ、ちょっと情報が足りないです」

 ドートは資料をパラパラと捲りながら言った。

「それは難しいですね。何か王国から『宗教的な理由』で見せられないって言われてます」

「今までそんなことなかったのに。胡散臭い……」

「いや、やってるのは多分龍人族側です。大破した船は龍人族側の方にあるらしいですし。

 王国との関係を取り持つためにも、『龍人族が船を爆破した』のではなく、『世界を滅ぼそうとしているヤバいヤツが船を爆破した』ということにしたいのでしょう。

 あくまで噂ですけど、国上げてディーガルさんを叩く準備してるらしいですよ」

 そんなことを話しながら資料を回していると部屋の隅に本が数札積み上がってるのをドートが見つけた。

「これは?」

「私物の小説です。さすがに何もない牢屋で一人きりというのは寂しいだろうと思って持ってきたんです」

 少し食い気味になりながらバッカスは言った。

「あんまり関係なさそうじゃないか?」

 資料を見ながらイオがそう言った。

「分かりませんよ。本の中に事件の鍵があるかもしれませんよ。私、そういうの小説で見ましたもん」

 意気揚々と答えるバッカスを横目にイオが本を幾つか手に取る。

『ナメクジ騎士と僕~大丈夫、俺、雌雄同体だから~』

『カエルご令嬢とミミズ執事~種族を越えた禁断の恋~』

『オオスズメバチに花束を~そこの蜜蜂。喰われる覚悟は出来てるか?~』

 本を置いてイオは呟いた。

「あってたまるか」

「ですよねぇ」

 バッカスは笑いながらそう答える。

 「そうでもないかもしれませんよ」

 ドートがバッカスの本を見ながらそう言った。

「二人にお願いしたいことがあります。どうなるかは分かりませんが、少なくとも事態は進展すると思うので」


次の日、再びディーガルを尋問する時間になった。

「少し、お話しましょうか」

 開始早々ドートが丁寧な声で言う。

「国によって勝手は違いますが、この国では明らかな無罪が証明されない限り、取り調べの後は直ぐに裁判に出されます。このままでは……」

「そのまま死刑……だろ?国家転覆を狙ったんだ。それくらい自覚している」

 ディーガルがそう言うと、ドートの鋭い声が彼の方へと飛んできた。

「そうでしたか。では答えを早く出していただきたい」

「何のことだ?」

「しらばっくれても無駄ですよ。整合性を無視して情報を手当たり次第ばらまいて。

 操作を撹乱するのが目的かと思いましたけど、それにしては出す情報が弱い。黒幕だとか、真の目的だとかを匂わせておけば、もっと捜査を撹乱出来たはずです」

ディーガルは押し黙る。それに構わずドートは続ける。

「悩んでいるんでしょう?死刑になるかどうか」

「答える気は……」

「答えなくとも結構です」

 割り込むようにドートは言葉を押し切った。

「ただ、決断を先延ばしにするのは良くない。別に、死刑になったからと言って、いきなり殺される訳じゃないんですよ?事が事です。裁判にニ年、執行までに五年、最低でもそれくらい掛かる。その間ずっと、ああしておけばとか、こうしておけばとか、そんなことでずっと悩むつもりですか?」

 相変わらずディーガルは押し黙ったままだ。

「あなたになら見せても良いでしょう」

 そう言うとドートは兜を抜き始めた。イボにまみれた弛んだ皮膚が、人の顔を一度溶かしてから固めたかのように折り重なり、その隙間から赤と黒の目と思われる球体がディーガルを覗いていた。

 頭の半分は成長し過ぎた苔のように膨れ上がっていた。

「これが私の本当の姿です」

 さすがのディーガルも唖然とした表情でそれを見ていた。ドートは何処か悲しげに、分かりきったような表情をすると、話しを続けた。

「そんな顔するのも分かりますよ。人とは思えない顔つきしてますから。

 そりゃまぁ、ご想像の通りロクな人生じゃなかったですよ。誰からも愛されず、蔑まれる毎日。生きることに意味なんて感じちゃいませんよ。じゃあ何で生きているのか。ただ、人に飢えているだけですよ。

 どうしょうもない程誰かに選ばれたい。何よりも自分を優先してくれるような人と出会いたい。そんな思いが出てきて止まらないんです。

 ……言われなくても分かっています。誰も私なんか選んでくれないって。何度現実逃避したか分かりませんよ。けどね、逃げたところで飢えのような感情が、何度も何度も心をズタズタに引き裂いていくんです。

 選ばれたらどうなるのか、知らなければこんなことにはならなかったかもしれない。けどもう知らないフリは出来ない。

 だって、あのまま努力していたら選ばれていたのだろうか、もっと楽しい人生を送れていたんじゃないだろうかそんな呪詛のような言葉が頭から消えてくれないんですもの。

 もしかしたら、今、私がここにいる理由だって、ただ呪詛から逃げたいだけなのかもしれませんね。

 今日の尋問はこれで終わりです。死刑になるのか、抗うのか、どうするかは好きにすれば良い。ただ、どうするかちゃんと決めないと後で後悔しますよ」

 ひとしきり言い終わると、ドートは兜を被り直して、ディーガルを連れて部屋を出た。

 ディーガルは独房に戻って何を思ったのか、ただ、空を見ていた。




 

 ディーガルの前でドートが兜を脱いでからニ日後の夜。

「ドートさん、戻りましたよ」

 バッカスの元気な声が会議室に響いた。

「イオさん、バッカスさん。調査ありがとうございました。結果はどうでしたか?」

「クロでした。工場で聞いてきましたけど、あの船には龍人族の摩訶不思議な力を組込んだ特殊な力で動いていたみたいです。

 可能性は低いものの、あまりに振動を与えすぎると爆発することがあるとか」

「そんで、そんな重要なことが資料に書いていないってことは、事故の可能性が高いって訳よ」

 イオとバッカスはそんなことを喋りながら意気揚々と資料を机に並べた。

「こちらも進展がありました。今朝、ディーガルさんが証言してくれましたよ。あれは俺がやったんじゃなくて事故だった、どうせ死刑になると思って嘘をついた、と」

「おお、今までと違って事件と整合性のある証言だな。信用しても大丈夫そうか」

「本人もこれは嘘じゃないって言ってましたよ」

 会議室が温かな空気に包まれる。

「これでハッピーエンドですね」

「いや、ハッピーエンドではないです」

 バッカスの言葉にドートは即答する。固まったバッカスを他所にドートは続けた。

「直ぐに正直に言っておけば良いものの、世界を滅ぼしたいから爆破した、なんて嘘をついて色んなところを引っ掻き回してくれましたからね。最悪終身刑もありえます。

 仮に免れたとしても社会復帰はそう簡単には出来ないでしょう」

「そっかぁ……」

「それでも自白した理由は外の世界をもっと見たかったから、らしいですよ」

「と言うと?」

「動く物しか見えない、肉眼では捉えきれないほど素早く舌を出すカエルという生物に、絶滅すれば一年で人類が滅びるミツバチという生物。

 どれも岩山の故郷では知りえない物ばかり。全部知らないまま終わるのがどうしても嫌だった。だから自白したみたいで、す」

「そうですか……」

 さすがのバッカスも神妙な顔で話しを聞いていた。

 ドートは机の資料をまとめて言った。

「今日は二人もお疲れでしょうし、今日はもう寝てしまいましょう」

「そうだな」

「疲れましたしね」

 二人はそう言って更衣室へ向かって部屋を出た。

 少し遅れてドートも立ち上がり、灯りを消して部屋を出る。ふと振り返ると部屋の中はすっかり暗闇に包まれていた。窓から星明かりが少し照らす程度で何も見えない。

「良い結末を迎えられることを陰ながら祈っていますよ」

 ドートはそう言って扉をパタンと閉めた。

 

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