報せ
最悪の事態だった。
徳川クランは、アル=エルメノンではなくシャディザールに着く。
細川クランと同盟を結ぶ西岡クランにとって敵になったのだ。
彼女は、早速、周辺のクランを攻撃し始めた。
シャディザール周辺のクランは、どこも細川クランと共にアル=エルメノンに着いている。
それをあっという間に徳川クランは、その大半を平らげた。
その攻勢は、早くも西岡城に迫りつつあった。
「龍外が敵に!?」
瑠偉が戻ってくるまで待っていた十太郎は、目が飛び出すほど驚いた。
てっきり味方だとばかり思っていたからだ。
「………徳川は、豊臣を裏切って天下を取った家柄。
なんて徳川ガールは、思ってるかも知れんな。」
綾瀬が拳に顎を載せて呟いた。
まだ自分の拠点を持っていない綾瀬クランは、西岡城にやって来た。
シャディザールを攻撃するためだ。
これなら、もし死んでも西岡城で再配置される。
またノルドヘイムに引き戻されては、面倒だったからだ。
彼ら同様、徳川クランも西岡城に入る予定だった。
予定というか十太郎たちが勝手にそう思い込んでいた。
今となっては、そうなってしまう。
そこで徳川が敵軍に与している情報に接したのだ。
綾瀬も十太郎も動揺している。
「なんで…?
どうしてこんなことしたのかわからない。
細川クランが潰れるのを期待してる?」
青褪めた十太郎が綾瀬に訊いた。
陰鬱な表情で綾瀬は、首を振る。
「俺には、徳川ガールの考えが分らんよ。
話がこんがらがり過ぎてる。」
そういって綾瀬は、疲れたように頭を下げた。
まったく高校生が着いて行ける話題じゃない。
「徳川ガールは、何を考えてるんだ?
……細川クランがアル=エルメノンに着いてるんだぞ。
ほとんどの冒険者がこっちに着いてるっていうのに。」
そう呟きながら綾瀬の頭には、思い浮かぶ一つの事柄。
「………西岡ボーイ。
徳川ガールは、お前と戦う機会を作りたかったのかも知れんぜ?」
「ええっ!?」
十太郎が焦ったように飛び上がった。
標的が自分と聞いて怖くなったのだ。
「はっはっは…。
前に俺がお前に挑戦したことがあっただろう?」
「うん。」
言われるまでもなく十太郎は、先日の一件を覚えていた。
自分の態度に綾瀬や龍外が夜桜のことを勘付いている。
圧倒的な力を隠していることを二人は、感じ取った。
共に類まれな観察力や感性で十太郎の秘密に気付いたのだ。
龍外は、その後で夜桜を直に見ている。
まさか、その上で対決を望むはずがない。
幾ら何でも夜桜の戦力は、龍外の及ぶところではない。
結果は、決まり切っている。
(ひゃっ。
まあ、私にとっちゃどうでもいい話だけどな。)
そう夜桜は、言った。
拳に顎を乗せた綾瀬が十太郎に言う。
「徳川ガールもお前の実力を明かしたいと思ってるのかもな。」
「そんな……。
そんな理由で……戦争を何だと思ってるんだ?」
十太郎は、両手で拳を作った。
関節が白く浮き上がるほど強く握り締める。
「………む。
来たようだぞ。」
といって綾瀬が物見台から身を乗り出した。
東の空に異変が現れた。
ガレオン船とガレー船からなる空中艦隊が姿を見せる。
瑠偉が戻って来た。
「よっと!」
宝石を埋めた短剣と拳銃。
髑髏のバックルを付けたベルトにホットパンツ。
―――女の子からドクロは、ダサいと悪評。
海賊の恰好をしたギャルが十太郎たちの目の前に降り立つ。
ガレオン船に40名、10隻の三段櫂船にそれぞれ20名ほど。
この250人以上の海兵系職が操船要員。
その上で魔法職と銃兵系職が60名余り戦闘員として乗っている。
瑠偉たち6人がそれぞれ友達や知り合いを勧誘していく。
あっという間に大戦力を揃える事が出来た。
操船訓練しつつ勧誘した仲間を拾い集めて船団は帰還。
───現実で連絡を取り、《窖》で合流した。
瑠偉は、疲れ切った十太郎の様子に驚いた。
「うお!?
久しぶりに帰ったら十太郎がめっちゃくちゃに弱ってるんだけど。」
「ああ…。」
十太郎は、掻い摘んで事情を話した。
瑠偉は、腕組みしながら柱に寄り掛かっている。
「………3つ目の選択肢を選ぶことはできる。」
瑠偉がそう言って目を細めた。
十太郎は、意味が分からず綾瀬が怖い顔をした。
「3つ目?」
十太郎がそういった。
代わりに綾瀬が瑠偉に訊く。
「中立に回るという事か?」
すると瑠偉は、小さく何度か頷いて見せた。
「そう。
西岡クランの戦力は、他のクランを圧倒してる。」
その言葉には、傲慢さが滲み出ていた。
だが彼女は、それだけ自分の集めた戦力に自信を持っている。
「ガレオン船と10隻のガレー船団。
そして擁する300人の冒険者に、この要塞…。
私たちは、二つの勢力に対し、中立の立場を選ぶことだってできる。」
「無理だよ!」
十太郎が喚いた。
「畑も弾薬も、船に乗せてる大砲だって…!
細川クランとの協力関係で手に入ってるんだよ。
俺たちだけの力は、ほんのわずかさ。」
「その細川クランは、滅びる。
私らがこの冒険のリーダーに…。
あんたがすべてをモノにしちまえばいいじゃん?」
瑠偉は、十太郎にそう言った。
「綾瀬クラン、前田クラン、久我クラン…。
この辺、みんなあんたの味方に抱き込んじまいなって。
細川の代わりにあんたが全冒険者の先頭に立つんだ。
物資や食料、土地のすべてが自由になる。」
熱弁する瑠偉。
しかし十太郎は、気乗りしならしい。
「そんなこと俺は…。」
だが瑠偉は、話し続ける。
「じゃあ、なんであんなに女抱くんだ。
あんたは、もっと多くの人から認められたいんじゃないの?
ずっと一人ぼっちだったあんたの孤独を埋め合わせるのは、承認じゃんか。
大きな博打をやってみよう。
私たちを信じて。
後は、うんと言うだけ。」
瑠偉が話し終えると十太郎は、怒りと悲しみを顔に浮かべた。
震える声でやっと瑠偉に言う。
「それが………須山さんのやりたいこと?」
十太郎に指摘され、瑠偉は、表情を変えた。
この時、彼女が何を思ったのか。
十太郎には、心の底まで伺い知ることはできなかった。
「……確かに今言ったのは、私のやりたいことだね。
私は、組織を大きくすることに喜びを感じる。
仲間を増やすことに満足感を思える。」
瑠偉は、半ば自嘲ぎみにそういった。
「けど、あんただって……。
いや誰だって自分を大きく見せたいモノじゃない?
大勢の人から認められるようなことをしたいじゃん。」
結局、瑠偉の意見は、飛躍し過ぎていた。
アル=エルメノンとシャディザール。
二つの都市国家戦争でも皆、頭がグルグルしているのだ。
そこに第3勢力として立つ。
他の二つを倒して天下の権を握る。
これは、選択肢の中でもっとも不安が先立つものだ。
「可能性の話は、いい。」
ジョーが足を組んで言った。
瑠偉が帰って来たところで北村先生と一緒にこの議論に加わっている。
「今は、徳川がこっちに向かってくる。
この目の前の戦いについて意見を一致させようじゃない。
相手は、こっちのことは、お構いなしさ。
どうするの?」
「……一応、誰かをやってみたら?」
そう北村先生が提案した。
一度、徳川に使者を立てるというのだ。
「西岡クランもシャディザールに着くってことですか?」
十太郎が言うと北村先生が首を左右に振る。
彼女は、軽く鼻で笑うように答えた。
「ふふふ、そんなこと、どうでも良いのよ。
後で前言を覆しても誰も責めないわ。
適当に答えればいいのよ。」
要するに時間稼ぎだ。
「そんな手に徳川が乗るかな?」
綾瀬がいった。
一応、他所のクランということで控え目に加わっている。
「まだるっこしい。
………叩き潰そうぜ。」
夜桜が十太郎の身体で言った。
「龍外も俺たちも死にはしねえんだ。
だから向こうも平然と動いてんだぜ。
後で考えるって言うのなら戦った後で良い。
現実ならブチ殺した相手は、謝って来ねえ。
が、幸運にも《窖》じゃ相手が死なねえんだ。
話し合う余地は、後からでも作れるぜ。」
夜桜が十太郎の身体で攻撃的に笑う。
瑠偉、ジョー、北村先生の3人は、静かに頷いた。




