戦乱の兆し
「ブチ殺すぞ、このカス共ォォォッッッ!!!」
頼母が喚いた。
怒り狂った彼は、目から火を噴きそうになっている。
狂暴に唇を捲って歯を見せた。
彼の前で20人ほどの男女が直立不動で震え上がっていた。
細川第22砦。
ここから足利美尊が消えた。
それは、厄介事の前触れ。
「お前らのケチな脳ミソを掻き出してェェェ!!!
私の気が済むまで責め抜いてやるぞッッッ!!!
その惨めな低能ぶりを精々、悔い改めるが良いィィィー──ッッッ!!!」
泡を吹いて怒鳴り散らしながら頼母が疾走する。
部屋の調度品を次々に引っ繰り返し、破壊し、大暴れする、
怒りを物にぶつける。
やがて部屋中の壊す物が無くなった。
「はあ、はあ、はあ…。」
肩で息をしながら頼母がようやく落ち着く。
「う…うえ…う、上様を……!
みみ…みみみ…み、見失っただと?
あ、あの××××を決して…目を放すなと言ったよなァァァ!?」
一度落ち着いた頼母が再び怒り狂う。
細川クランのメンバーたちも再び青褪める。
「度し難いぞォォォッッッ!!!
揃いも揃ってこのゴミカス共ォォォッッッ!!!
そんなこと許すと思うかァァァッッッ!!!」
これほど怒りが長続きするのは、滅多にあることではない。
部下たちも緊張のあまり卒倒しそうだ。
「ぎゃ!?」
「ごおッ!!」
「お助……ひぎ!?」
遂に頼母の怒りは、物から人に移る。
彼の前で立っていた男女が5人にまで減る。
15人は、バラバラに斬り殺されていた。
「やめ…ぎゃあああ!」
「ひゃあああ!!」
「うぐうッ!」
大佐原。
歌仙。
二振りの刀を手に頼母が血塗れで仁王立ちする。
目がギラギラと光り、尋常な有り様ではない。
残る5人も死を覚悟した。
「………探せ………。」
ガラガラ声で頼母が言った。
「早く上様を連れて来い……。
見つけ次第、上様を連れ戻せぇぇぇえええッッッ!!!
ええええええー──ッッッ!!!」
気が狂ったように頼母が怒鳴った。
一斉にクランのメンバーや従属クランは、行動を開始する。
《窖》で殺されても冒険者は、死なない。
だが現実で殺されれば話は違う。
頼母ならやりかねない。
むしろ、それぐらいの制裁が必要なのだ。
美尊から目を離すとは、それほど罪が重い。
「足利美尊を連れ戻すことなどできますか?」
一人の男子が隣の男子にそう訊ねた。
察するにこちらがクランのリーダーなのだろう。
質問されたリーダーが逆に相手に訊き返す。
「………お前、頼母を取り押さえられると思うか?」
訊かれた男子は、今も叫び続けている頼母の姿を想像した。
「全く…。」
震え上がった男子は、リーダーにそう答えた。
リーダーは、もっと震えている。
「じゃあ、俺たちが束になっても美尊は、無理だろうな…。」
今回の冒険、3日目。
その信じ難い一方が西岡クランに達した。
「は?」
十太郎がカエルみたいに目も口も目一杯広げて驚いた。
「ガチの戦争です。」
青い顔で西岡城に舞い降りたのは、安藤聖夏。
細川クランの《Pマスター》で飛行部隊の隊長だ。
「冒険者同士のじゃなく、マジモンの戦争です。
アル=エルメノンという都市がシャディザールに攻め寄せました。
冒険者クランを傭兵として引き連れています。」
「そ、それで?」
顔を青くした十太郎が話の先を促した。
聖夏も目をグルグル回しながら話を進める。
「アル=エルメノンは、まだまだ冒険者に協力を要請しているでしょう。
細川クランも紳士同盟と共に参戦することになります。
西岡君がこのまま我々と共同歩調を続けるならですが…。
断わるのなら敵としてアル=エルメノンは、軍を差し向けてくるでしょうね。
私たちとも………戦うことになると。」
まさか、こんな事態になるとは。
十太郎は、額を手で抑えた。
リボンが風で揺れる。
「………シャディザールを滅ぼす?」
「ええ。」
十太郎の言葉に聖夏が答えた。
二人は、どっと疲れた。
「もともとあそこは、犯罪者の巣窟みたいな街でしたし…。
奴隷市場の中心地でもありましたから悪徳の都と評判ですしね。
アル=エルメノンの伯は、シャディザールを邪悪な都。
アムギル公を悪魔と糾弾しています。」
さっきからジョーと北村先生が黙って聞いている。
瑠偉は、ガレオン船と共に別行動中だ。
十太郎は、ジョーと北村先生の意見を求める。
「二人の意見を聞こう。」
「細川クランとそのまま協調する。
それがベターじゃないの?」
ジョーが暗い表情で言った。
まさか冒険者を傭兵として戦力に組み込むなんて。
しかし冒険者なんて本来、ほとんど傭兵みたいなものだろう。
勇者や魔王の居ない世界では、金で動く暴力屋だ。
参加する連中も死なないんだから気楽なものだ。
雇うアル=エルメノンにとっても便利な戦力だろう。
声をかければ幾らでも兵力を補充できる。
「まだ、とりあえず詳しい話を聞いても良いんじゃない?
シャディザールの戦力は?」
北村先生が訊いた。
聖夏は、スマホで何かを調べてから答える。
「騎兵が3万。」
「3万………。」
騎兵で3万という事は、相当な兵力だ。
この分だと歩兵は、10万前後動員できる国力があると思う。
「アル=エルメノンは?」
「その半分もないはずです。
彼らは、完全に冒険者頼みのようですから……。」
と聖夏が答えた。
北村先生は、呆れる。
「やれやれ…。
身の程を知らない領主ってことね。」
「どちらにしても今すぐは、無理だよ。
……須山さんが例のガレオン船を持って離れてるから。」
そう十太郎が困ったように言った。
聖夏も浮かない顔をして困ってしまう。
「ハッキリ言って、あの船を目当てに頼母も言って来てますからね。
………じゃあ、返事は待つしか。」
「ふざけんな!!」
急に話に割り込んで来たのは、結城だ。
「西岡君!!
こんな城、捨てちまおう!!」
結城が騒ぎ出した。
「どっか端っこに行こうぜ!
辺境で無双しよう!!
そこでゴブリン狩りでもしてた方が良いや…。
こんな戦争ごっこに付き合わされたり、襲撃に怯えるのは、たくさんだ!
西岡君もそう思うだろォ!?」
結城は、懸命にそう訴えた。
だが十太郎は、肯首し兼ねる。
「分かるよ…結城君。
けど………皆を、置いて逃げられない。」
「ぐ…。」
結城は、唇を剥いて怒った。
しかし彼も十太郎のいう事は、理解できる。
ここには、50人も仲間がいる。
十太郎が彼女たちを捨てて逃げることはできない。
それに加えて綾瀬や徳川。
彼らには、これまでも世話になった。
その彼らも細川クランと共に戦争に巻き込まれてしまうだろう。
「安藤さん。
須山さんが戻り次第、戦いに加わると細川君に。」
十太郎は、参戦を約束した。
聖夏も速やかに大鷹で帰っていった。
「やはり度し難い一族ですわ。」
徳川龍外が呟いた。
「で?
どうするんだ。」
徳川クランの男子がリーダーの意向を訊ねる。
答えは、すぐに返って来た。
「予は、シャディザールに着く。」
異論はなかった。
彼女のクランでは、彼女の意見だけが優先された。
「悪い判断じゃねえな。」
「………結局のところ。」
龍外が目を隅にやって呟く。
「誰に着こうと結果は、同じですわ。
あの一族にとってはね。」




