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公の伝令官




翌日。


久我クランの久我くが白亜はくあが西岡城を訪れた。

以前に結成された紳士同盟に参加するクランの一つだ。


うちには、分らんけど。」


と久我。

───彼女は、目が見えない。


「立派な拠点が出来たらしいな?

 おめでとう。」


髪から肌、着ている物まで白一色。

真っ白な少女は、杖で足元を確かめながら歩く。

これが例のごとく仕込み杖で中には、刀が入っている。


「手を貸しましょうか?」


十太郎が声をかけると手で止められた。


「おおきに。

 けど余も楽すると後で困るから…。」


そう言って久我は、杖を頼りに歩いている。

十太郎は、心配そうに彼女を見た。


「そう……ですか。」


しかしPKヘヴンとの戦争でも彼女は、先陣を切って戦っていた。

運動神経でも十太郎より勝っているハズだ。

十太郎が心配するようなことは、全くないのだろう。


「で、こんな話は、ええんや。」


久我は、そう言って座り込む。


丁度、城内の畑が一望できる場所だ。

今もゴブリンや食人種たちが忙しく畑を広げている。


畑の向こうでは、材木用に人工林も作っていた。

これも細川クランの《アルケミスト》たちが開発した木で素早く成長する。

おかげでガレオン船の修理に使う木材も確保できる。


「このスチームで木材を曲げて加工する。」


細川クランから派遣された《スミス》や《アルケミスト》が技術指導する。

なんでも工業高校や技術系の学校に通っているらしい。


「危なくない?」


研修を受ける赤城あかぎや門脇たちも身構える。


「手足の一本ぐらい平気だろう。

 《プリースト》に頼めばすぐさ。」


派遣された細川クランの《スミス》が気楽に答えた。

その反応が現場の事故の頻度を物語っている。


堪らず西岡クランの非戦闘系(クラス)、その一同がゾッとする。


「いや~!!」

「なんか慣れてるーっ!!」

「それ、怖いって!!」


などと前日に話し合っていた。


時間を現在に戻す。

久我は、十太郎に用件を切り出した。


「一緒にパランディスの探索やらへんか?

 余も協力するで。」


「それって拠点を使いたいってこと?」


十太郎がそう言うと久我は、苦笑いする。


「ストレートやなァ。

 そんな包み隠さず言われるとこっちも困るわ。」


「あっ。

 ごめんなさい。」


十太郎が謝ると久我は、手を振った。


「ええて、ええて。

 でもそうやな、あんたの言う通りや。

 余等うちらのクランが拠点を作る場所は、もう残ってへん。」


場所取り合戦は、熾烈らしい。

十太郎も難しい表情になる。


「聞けば伯は、奇特な御仁やゆう話やないか。

 余は、自分で自分の顔を見たことあらへんけど。


 どうや?

 伯から見て余は、魅力的な女やろか。

 伯のしとねには、余が入る場所がまだ残っとるやろか?」


久我は、そう言って杖に両手を置く。

そしてニッコリと微笑んだ。

見えていないハズなのにちゃんと十太郎の顔を向いている。


十太郎は、身震いした。


「ここの守りもあるしな。」


と久我は、最後に付け足した。


西岡城は、周りのクランに狙われている。

外の探索に合わせ、拠点の守備も固めなければならない。


なるほど状況を加味して久我は今、現れた訳だ。


「う~ん…。

 確かに大きな戦力を城外に出すのは、不安だけど…。」


「ふふふふ…。

 悩むふりしてもアカンで。

 これは、ええ話なんやから。」


久我は、強気でそう言い切った。




「うん?」


西岡城の城門を守っていたルンルが何か見つけた。

数名の遊牧民ベドウィンが馬で城に近づいてくる。


最近は、行商もこの街に立ち寄る。

なので現地民が訪れることは、珍しい事でもなくなりつつあった。


しかし今回、姿を見せたのは、騎兵だ。

鎧にピカピカの金メッキを張り、剣と槍を携えている。

騎兵が掲げたのは、シャディザール(アガ)の旗だ。


Agha(アガ)とは、大名とか王様のようなもの。

ここシャディザール周辺地域を治める領主だ。


現れた騎兵の装いから察するに公の伝令官だろう。

ただの使いっぱしりではない。

外交の特使だ。


「冒険者西岡(クラン)よ。

 我々は、アムギル公の使者である。

 貴殿らの頭領に取り次いで貰いたい!」


伝令官が馬上で口上を唱えた。

ルンルは、中村や聖羅せいらに意見を求める。


「どう思う?」


「開けても良いんじゃない。

 たった5人みたいだし。」


と中村。

《アーマーガンナー》の彼女は、ライフルと銃弾を確認した。

流石に抜かりはない。


「入って良いよー!」


城門が開き、伝令官たちが城内に入って来た。




「リーダー。」


久我と十太郎が話している所に愛瑠あいるがやって来た。


「シャディザールの公が使者を送って来ました。

 リーダーに伝えたいことがあると…。」


愛瑠の隣にくだんの伝令官がいた。

彼は、営業スマイルで十太郎に挨拶する。


「おお、貴殿が西岡十太郎ですか?」


早くも伝令官は、十太郎の前に進み出た。

敬意を表す所作をし、礼節に則った態度を見せる。

一応、子供相手でも表面上、外交儀礼を尽くすつもりのようだ。


「えっと…。

 アガ様は、何のご用件でしょう?」


十太郎が不安そうに訊くと伝令官は、素早く答えた。


「おおっ。

 今や西岡クランは、冒険者の中で最強と評判です。

 その戦力をアムギル閣下にお貸し願えませんか?」


「えっ?

 ………最強?」


十太郎は、目を丸くした。

久我は、含み笑いしながら助け舟を出す。


「空飛ぶガレオン船に要塞、50人以上の大所帯やからなァ。

 それも細川クランとちごうてほぼ戦闘職だけで。

 たぶん単純に戦って、ここに勝てるクランは、少ないんとちゃう?」


「ごじゅ…!?」


十太郎は、その話を聞いて驚かされた。


自分のところの話なのに十太郎は、知らされていなかった。

日増しに西岡クランの名望は高まり、入りたいという冒険者が増えている。

瑠偉や月愛、綺羅羅などは、友達をどんどん呼び寄せている。


もちろんリーダー権限がなければメンバーとして登録されない。

目下、従属クランのような扱いになっていた。

いわば2軍だ。


「俺の知らない間に勝手に人が増えてる!!」


十太郎が慌てて騒ぎ始めると伝令官も困惑した。


「ど、どうやら…。

 これは、後日に改めた方が宜しいか?」


伝令官がそう言って部屋を出て行こうとする。

十太郎は、彼らを呼び止めた。


「構いません。

 話を…続けて下さい。」


声をかけられて伝令官は、立ち止まると話を続ける。


「では、ご用件をお伝えします。

 閣下は、ノルドヘイム征伐に戦力を提供して欲しいと仰っておられます。」


ノルドヘイム。

シャディザールの北にある地域だ。

確か綾瀬たちが探索を進めている。


「分かりました。

 その件は後日、俺からシャディザールに赴いて直接、公様にお答えします。」


「それは、検討するということでしょうか?

 閣下は、貴殿の答えを知りたがっておられるのですが…。」


伝令官がそう言って両手を広げた。

困ったような顔をして十太郎の目を覗き込む。


そんな表情をされると十太郎は、同情してしまう。

軽はずみに了承してしまう。

それを感じ取った久我が横槍を入れた。


「この申し出は、受けてもええんとちゃう?」


涼やかな声が響き、十太郎が目をしばたかせた。

彼の隣に座っている白い少女は、公の伝令官に言った。


「勿論、公様の要請には、進んで協力しますよって。

 でも公様は、西岡君に何をくれるんやろう?

 その条件をこちらも聞きたいわなァ。」


外交上の鉄則として「拒否(NO)」は、ない。

もしするなら相手から断わらせることが上策ベター

可能なら「検討する」などという返事はさけるべき。


久我は、意味深に伝令官に顔を向ける。

彼女のめしいた両目は、伏せられている。

だが伝令官を睨んでいると表現できなくもない。


15歳の少女の威圧。

しかし答えた伝令官の声は、うわずっていた。


「………むう。

 ま、まずこの土地を領有することを保証します。」


「はあ?

 それは、今まで許してなかったってことかいな。」


久我が伝令官を責めるように訊いた。

何故か部外者の彼女が十太郎の代わりに折衝を始める。

しかし十太郎は、こういうことが苦手なので彼女に譲ってしまった。


「アムギル公閣下は、寛大な御方。

 でなければ許しなく冒険者たちがあちこちに砦を作ることなど見逃しませぬ。

 ………まずこちらが恩を施したのですぞ。」


「ゴブリンや食人種グール、害獣の駆除に役に立つからやろ?

 それを見逃してやったやなんて。

 これは、おかしな話や。」


そう言って久我は、ワザとらしく哄笑した。

手で口元を抑え、伝令官を侮辱するように笑い声を上げる。


「公は、義によって立つもの。

 余等、冒険者が害獣をからい、民に善を施した。

 公が恩を売る道理などあらへんわ。」


「………な。」


伝令官と彼の部下たちが色めき立つ。

子供相手に労なく話を進められると思っていたのだろう。


何憚ることなく洋々と久我は、話を進める。


「まあ、ええわ。

 つまり西尾君を正式に小領主ベグに認めてくれるってことかいな?」


Beg(ベグ)とは、伯爵あるいは県知事ぐらいの地位。

地方の軍司令官を指す称号である。


「う……むう。」


すっかり伝令官は、具合が悪くなったようだ。

あとは、気弱なことを一つ二つ答えて逃げるように退散した。




公の伝令官が帰ると畑の傍に十太郎と久我だけが残された。


「あかんで西岡君。」


久我がそう言って十太郎の肩を軽く叩いた。


「ああいう手合いは、後で考えて答えるやなんて聞かへんわ。

 今答えろって無理強いしてこっちに不利な条件を飲ませる手や。

 気弱な奴と見れば今後も強引な手で交渉してくるで?」


「でも、あんな追い返すみたいに…。」


十太郎が不安そうに帰って行く伝令官と騎兵たちを見送る。

彼らは、何やら揉めているようだ。

城門を潜って姿が見えなくなった。


久我は、呆れたように溜息を吐く。


うそないな態度でクランを引っ張って来れたなァ。

 よほど皆に良いようにされとるんちゃうんか。」


「そ、そんなことないよっ!」


十太郎は、否定したが顔に答えが出ている。


瑠偉は、勝手にメンバーや船を増やしている。

ジョーは、財宝を蓄えることにクランを利用している。

皆、十太郎が後から認めると高を括っているからだ。


もちろん自分が不在中の判断を二人に任せたのは、十太郎だ。

しかし明らかにその程度が大きく十太郎の予想を上回っている。


「………綾瀬君とも相談せんとな。」


久我が話題を変える。

それには、十太郎も同意した。


「うん。」


「ちゃうで。」


ピシャリと久我がそう言った。


十太郎は、目を丸くする。

一体何が違うのか。


「綾瀬君らは、ノルドヘイムの探索をしとるやろ?

 でもあの人らから情報を貰うだけやない。

 はよう帰ってくるように言わな。


 公の目的は、北方のモンスターとか敵を駆除させることのハズや。

 今、冒険者が勝手に敵を減らしたら公は、またそのままにするわ。

 何の報酬も貰えへんのに進んで敵を倒すなんてアホみたいやん。


 今の会話で分かったやろ?

 普通のゲームならモンスターの討伐は、依頼クエストでこなす。

 けどそんな話、どこのクランでも聞いたことないわ。


 それもそのハズやで。

 連中、余等うちらが勝手に戦いよるって腹を抱えてわろとるんや。」


久我は、物凄い早口でまくし立てた。

関西人のイメージだ。


「まあ、この辺の敵は、しゃあないなァ。

 しゃくやけど殿()()の軍隊の代わりに戦ったるしかないわ。

 ホンマ、業腹やで。」


「どっちにしても、《(ここ)》じゃスマホで連絡出来ないよ。

 ……外ならSNSで連絡できるけど。」


約8日間の冒険。


たいてい8日。

あるいは、6~9日間というランダムな日数。

この区切りが冒険者たちを悩ませた。


いつ終わるかハッキリ分からないし、その間、連絡も取れない。

なかなかに不便だ。


綾瀬たちがどこにいるのか今、分からない。

連絡は、《窖》の外で取るしかなかった。


「そうだ。」


十太郎は、あと2~3日間の間にやるべきことを決めた。




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