表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
来やがれ!ダンジョン学園!!  作者: 志摩鯵
第5話『祈れ!苦しめ!朽ちて滅びろ!忘れられた月の秘密!!』
87/213

夜の女王




露台バルコニーから部屋に入った4人は、辺りを見渡す。


「どうしてこんなことをなさいますの!?

 敵が居たらどうしますの!?」


徳川は、そう言って夜桜を責めた。

だが夜桜は、一向に聞く耳を持たない。


「まったく……。」


徳川は、用心深く中を進む。

前田は、身体が大きいので隠れようもないので堂々としている。

それが徳川を驚かせた。


あなた!?

 なんでそんな堂々としてますの!!」


「俺の身体で隠れるなんて世の中で一番、無意味なことだ…。」


そう答えながらも前田の声は、小さかった。

逆に徳川の声の大きさに前田も不満がっている。


「テメーら。

 十太郎を守れよ。

 そいつが一等トロい上に回復役なんだからな。」


夜桜がそう言いながら光の輪を作り出した。

それは、部屋中に波紋のように広がって行く。


「なんですの?」


徳川が質問したが夜桜は、答えない。

まだ術の最中だ。


大乗月陀法輪だいじょうげつだほうりん………!!」


夜桜が足を持ち上げ、思いっ切り床に踏み込む。

凄まじい衝撃で塔の壁や天井が崩落した。


壁や天井だけではない。

部屋の中に潜んでいた敵さえもだ。

塔の最上部にあるもの、全てが引力でバラバラに破砕される。


破壊の渦が一同の視界を覆い、一切を巻き上げた。


「きゃああああ!!」


徳川が叫んだ。

前田も叫ぶ。


「うおおおお!!!」


当然、十太郎も大騒ぎした。


「ぱああああああああああああああああ!!!」


しかし瓦礫は、塔の周りを輪になって浮遊している。

丁度、木星の輪に似ていた。


不思議な魔法の光に包まれた瓦礫は、しばらく塔の周りを回る。

やがて光が薄まり、次第に地表に吸い込まれるように落下した。


「伯の術は、引力を操作するものですのね。」


徳川が言った。


「つまり重力のみならず物体の距離関係、遠心力、慣性。

 宇宙における物体の運動そのものを支配する魔法。


 それは、単に物体の運動や重さを支配する以上の力。

 しかし同時にコントロールが非情に不安定なものともなりうる。

 ……ふとした拍子で人間を………プチっと潰してしまうように。」


といって徳川は、中指と親指で何かを潰す動作をした。

夜桜は、目を細める。


「何が言いたい?」


「伯は、この世界の人間ではない。

 ………《窖》のみならず、外においてもそのような術は、聞いたことがありません。」


徳川と夜桜の会話を前田は、聞いていないフリをしている。

おそらく自分と縁のない世界の会話。

隠然たる世界の住人、支配者たちの事情だ。


「《転校生(トランスファー)》。

 私の世界では、そう呼んでいる。」


夜桜がそう言うと徳川は、親指を噛んだ。


異次元を歩く者(プレインズウォーカー)

 ……実在しましたの……。」


呟くようにいうと少し考えた。

考えてから徳川は、夜桜に訊く。


「何のためにこの世界に?

 目的もなく伯等は、境界を跨ぐ許しを得られない。

 そう予等わたくしたちは、聞き及んでいます。」


「さあ?」


夜桜は、そう答えると肩を揺すって見せる。

人を小馬鹿にした態度だが徳川は、他のことで頭がいっぱいだった。


「………いずれにしても。

 予等の敵ではないのでしたら、何の問題もありませんわね。」


徳川にそう尋ねられると


「だろうな。」


と言って夜桜は、気のない返事を返しただけだった。


前田と十太郎は、顔を見合わせた。

庶民に関係のない会話が終わったのだと互いに目配せする。




やがて強力な気配が場を包み始めた。


その禍々しい気配に夜桜以外の3人は、気圧された。

しかし実体が現れると一層、身構えることになる。


「私の城を壊したのは、お前たちか?」


これまで倒して来たサッキュバスとは、遥かに次元の違う相手。

このダンジョンのボスの登場だ。


3mは、あろうかという巨大な体躯。

その声は、恐ろしくも美しい楽器の音に似ていた。

瞳は、爛々(らんらん)と星のように輝いている。


そして青白い光が身体を包んでいる。

強力な魔力が身体の内側から止め処なく溢れているようだ。

彼女の持つ力が隠し切れないことを物語っている。


「殺す前に名前ぐらい名乗っても良いんじゃねえか?

 サッキュバスの親玉では、困るからな。」


夜桜がそう言って悪態を突く。

すると相手も、ムッとした表情で答える。


「良かろう。

 私の名は、ニッサ。

 偉大なるサッキュバスの女王、夜の王族だ。」


「私の名は、ニッサぁ。

 偉大なるサッキュバスのじょーおー。」


夜桜が馬鹿にしたように真似した。

他の3人は、青褪め、震え上がって唖然としている。


「後ろのカス共は、ともかく。

 お前は、それなりに力を持っているようだな?

 名を知りたい。」


ニッサが夜桜に訊いた。

夜桜は、豊満な胸を揺らし、女王に負けない黒髪をかき上げて答えた。


「黒武夜桜。

 神も哀れむ様な低能のゴミ共を、神に代わって救ってやる者だ。」


「それは、サッキュバスの言葉では、馬鹿者というのだ。」


ニッサがそう言ってコウモリの翼を広げる。

漆黒の角が黒光りして銀色の髪の間から見えた。


「おい、お前ら。

 返事をしてやれ。

 カス呼ばわりされる覚えはないし、馬鹿に救って貰うほど低能でもないと。」


夜桜は、そう言って十太郎たち3人を前に押し出した。

彼らにニッサと戦えというのだ。


まず徳川が飛び上がった。

刀を翻し、ニッサに斬りかかる。


「ほう。

 それなりに、それなりの御物ごもつを持っているな?」


ニッサは、余裕の笑みを浮かべる。

徳川の刀は、難なく彼女に掴まれた。


「ぐ……!?」


人差し指と親指でソハヤノツルキが止められている。

久能山東照宮にある方が偽物で、ここにある方が本物である。

少なくとも自らが徳川宗家の末裔であると共に、彼らはそう称していた。


「しかし聖剣が本物であってもお前の霊験は、その程度。

 私を傷つけるには、あたわぬ。」


そう言ってニッサが指を放す。

自由になった刃がニッサの身体に触れるが、何のこともない。

ニッサの柔らかな肌が指で押した程度にへこむだけのことだ。


「そ………ソハヤノツルキが!!」


徳川の顔から自信が失せていく。


「ハー――イ!!!

 チャン・バブー――ッッッ!!!」


今度は、前田が凄まじい乱打をお見舞いする。

だが巨大な戦斧がやはり惨めに弾き返されているだけだ。


「裁きの閃光ォ!!」


十太郎の神聖魔法。

自棄になった十太郎は、思いっ切り魔力を込めて放つ。

これは、絶大な効果を発揮した。


「があああ!?

 ああ、ああああ!!」


「え!?」


聖なる光の中で苦しむニッサを見て十太郎の目が点になった。

そんな強力な魔法ではないハズだ。


「嘘でしょ………?」


「神聖魔法だから………淫魔には、効いてるんじゃありませんこと?」


徳川も驚きながらそう言った。

十太郎も言われてみれば、そんな気もしてくる。

徳川も自分で言って、そんな気がして来た。


「馬鹿な………ぐうッ!

 なぜ、これほどの威力を!?」


ニッサにも分からなかった。


「ふぐ……ッ。

 たかが《ハイプリースト》Lv17の神聖魔法に……。

 これほどの退魔の力があるというのか?」


「ちょっと!

 攻撃を続けなさいな!!」


ニッサが喋っているのを黙って見ていた十太郎に徳川が命令する。

夜桜は、腹を抱えて笑い転げていた。


「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!

 ひひひ……ひひっ。

 ……ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」


聖なる光の下、ニッサが悶え苦しんでいる。

ただ十太郎の攻撃だけが繰り返されて反撃してくる様子もない。


「ぐう……!

 ううう………ありえない。

 私が、こんなカス共に、こうまで追い詰められるとは……!!」


全身の肉が抉れ、無惨な姿に変わっていた。

もはや戦いが始まる前の妖艶な女王の威厳は、既にない。


「………。」


そうなると十太郎の手が止まった。


これまで遊牧民やゴブリン、食人種。

食人種グールの中でも人間に近い食人族も大勢殺して来た。

だが何も喜んで殺して来たばかりではない。


既にニッサは、反撃できる状態ではない。

十太郎もこれ以上の攻撃を躊躇ためらった。


「あの………。」


十太郎が恐る恐るニッサに声をかける。


「俺たち、ここから地上に戻るだけで良いですから。

 止めませんか?」


「うぐう……ッ。」


ニッサが血塗れの顔を怒りで歪ませる。

凄んでみても、もはや哀れな死にぞこないでしかないが。


「残念だが………。

 お前たちは、地上に帰ることはできぬよ。」


といってニッサが低く笑った。

しかしそこに空かさず苦痛が与えられると熱い鉄板に垂らした水玉のように悶え苦しんだ。

床の上を激しく転がり、胸を上下させ、手足を痙攣させる。


「がああッ!?

 あああッ、ぐ……ああッ!!

 ひい、ぎいいいい…ッ!!」


十太郎ではない。

夜桜の術だった。


「ああァ~。

 うぜエ………超ォォォうぜエ。

 死にぞこないの強がりなど聞きたくないィィィッ。」


夜桜は、心底、不愉快そうにそういった。


「ぎゃああああッ!!」


ニッサの耳から血がこぼれ、指が必死に床を掻き毟る。

その様子から尋常ではない苦痛が彼女に覆い被さっているのが分かった。


「あはははは…。」


しかしニッサは、勝ち誇るように笑った。

それは、正真正銘の悪魔の笑い。

人ならざる響きと音律を奏でる魔族の高笑いだった。


「サッキュバスにとってここから地上に降るなど造作もないことだ。

 ここ、月は、宇宙の光無き宙域から地上に降りる者にとって前哨基地。


 お前たち人間にとっては、立つのも困難な場所だがな。

 私たちにとって星々を渡ることは、袋の中の果実を取り出すように容易い。

 あは、ははは……。」


「……つまり秘密などない。

 ということか?」


前田が絶望を顔に現わして、やっとその言葉を紡ぎあげた。


月から人間が帰る方法などない。

サッキュバスにとって、そんなものは、必要ないからだ。


「さっさと殺せ。

 お前たちは、私の同胞に八つ裂きとなるか。

 飢えに耐えかねて互いに肉を貪るが良い。」


ニッサは、それだけ言って虫の息になって伏せた。

最後に精一杯の負け惜しみを吐いたのだ。


しかし十太郎がすぐに回復魔法をかけた。


「………可哀想だが。

 情報源は、貴方しかいない。」


夜桜も女悪魔の笑いを浮かべた。

それこそ今となっては、本物と比べても遜色のない邪悪な笑いを。


「ひゃひゃひゃひゃひゃ!

 じゃあ、何かタメになることを一つでも漏らしてから。

 ………死ね。」


夜桜が足を踏み込むと重力場が発生した。


「ああああああ!!

 があッ…ぎい、ひいいいい!!!

 お、おおおッ!?」


サッキュバスの女王に対する拷問が始まった。

目を覆いたくなる光景だが、徳川も前田も止めはしない。


「れ……あ。」


夜桜の攻撃が止む。

十太郎がスタスタとニッサの前に近づいた。


「………お願いです。

 何か、情報を教えてもらえますか?」


正直、十太郎は、ここで自分に襲い掛かって欲しかった。

そうすれば流石の夜桜も咄嗟に彼女を殺すだろう。

そうでなくとも今のニッサなら自分の神聖魔法でも殺せる。


もはや明確な理由なく彼女を許す道はない。

情報か。

こちらに危害を及ぼすかだ。


「おう………黄金の蜂蜜酒。」


ニッサは、疲れ切ったように自白した。


「これを飲めば……星界飛行に耐えよう。

 人の身で虚空を渡る力を……持たせ得る法だ。」


そう言うやニッサは、魔法で空中からガラス瓶を取り出した。

その名の通り、黄金に神々しく輝く液体が満たされている。

とろんとした粘度が、その液体が酒類であることを現わしていた。


「後は、サッキュバスに運んでもらう…こと。

 私がお前たちを地上に帰す役目を請け負おう。」


「信頼してもよろしいんですの?」


徳川が眉を吊り上げた。

まさしくとんでもない申し出だ。


黙ったまま夜桜が前田に目配せする。

それを察して前田も瞳を動かし、視線を上にやって合図をした。


「ああ…。

 ちょっと席を外そうぜ。」


前田がそう言って徳川の両肩を掴んだ。

ギョッとした徳川は、身を戦慄わななかせる。


「な、なんですの!?

 予の身体に許しなく触れるなど!!

 予を誰と心得ますの!?」


「良いから!!!」


前田がそう言って徳川を押していく。

その間、徳川は、ずっと訳の分からないことを喚き続けていた。


「無礼な!!

 甚だ無礼な!!

 予に対する無礼、必ず伯の一族に贖わせますわ!!」


夜桜も二人の後を着いて行った。


十太郎もその後に続いて行こうとする。

しかし夜桜が振り返って制止した。


「ばーか。

 着いてくるな。」


「ええっ!?」


「テメーは、そこで契約を済ませるんだ。」


「………え?」


「サッキュバスとの契約と言えばセックスだろ。」


夜桜がそう言って手を振る。

十太郎とニッサだけが残された。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ