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来やがれ!ダンジョン学園!!  作者: 志摩鯵
第5話『祈れ!苦しめ!朽ちて滅びろ!忘れられた月の秘密!!』
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押し寄せる愚民




冒険が終わり十太郎は、教室に戻された。


「う~ん。」


十太郎は、筋肉の強張りをほぐすように伸びをした。

もっともこちらでは、1秒も経っていない。

身体が強張るようなことなどなにもないのだが。


「おつかれー。」


葉月がやってきた。


彼女は、たぶん5組で転移したのだろう。

北村先生もどこか別の場所から移動しているらしい。

二人とも今は、十太郎と別に転移する。


「そっちは?」


十太郎が訊く。

葉月は、目線を泳がせて答える。


「う~ん。

 鉄鉱石が出たよ。」


「そうなんだ。

 上手く行ってるみたいだね。」


あまり葉月の会話は、有益な情報がない。

十太郎は、彼女に訊いたのを後悔した。


「もう、大変なんだよ!

 いっぱい敵が来てーっ!」


「大変だったね。

 どうしたの?」


義姉や義妹との経験で女子会話には、対応している。

中身のない話にひたすら相槌を打つ。

でも男の十太郎にとって割とキツイものがあった。




「おえっ!」


十太郎は、自分の部屋に戻ると夜桜を吐き出す。


「う~ん!

 あああ~~~っ。」


外に出た夜桜は、背伸びしてストレッチする。


「俺の中ってキツイの?」


「ううん、全然。

 普通に身体動かせるし。

 今度、攻撃とかして見ても良い?」


「やめてー。」


そう言えば考えたことなかった。

いつも夜桜は、立ったり座ったり寝転んでたりしてたけど。


「それにしても……うぜえ。」


夜桜は、ずっと怒りまくっていた。

冒険せずに襲撃ばかりしている冒険者にだ。


「戦えよ、人間以外と。」


「う~ん。

 アイテムや装備が欲しいんじゃないかなァ?」


十太郎が苦笑いした。

あれに怒ってても仕方ない気がする。


「あ~。

 ああいう屑のために色んな世界を救って来たと思うと腹立つ。

 こうやって魔王みたいな奴が増えるんだよな。」


そう言って夜桜は、後頭部を手で掻いた。


「………でも、そういうものだよね。」


十太郎がベッドに腰を降ろしてそう言った。


上手く行っている人間へのやっかみ。

他人から物を盗ることに抵抗のない人間。

警察や法律が無かったら人間は、動物だ。


「まあ、いいさ。

 私も動物だし、動物を保護してやったと思って我慢するけど。」


夜桜もベッドに腰を下ろす。

十太郎は、夜桜に顔を寄せてキスした。


「あんだよ、ふふッ?」


夜桜が意地悪く微笑んだ。

十太郎は、目を丸くする。


「えッ?

 ………あ、その………。」


十太郎は、困ったまま横になった。


「お、お休み…。」


「ちぇッ。

 たまには、テメーから誘ってみろよ。」


「え、あっ。」


夜桜が身をよじる十太郎の上に覆いかぶさった。




翌日。


「おはようございまーす。

 流川るかわでございまーす!」


「はいー?」


継母が玄関に行くと鳩巣きゅうそうが立っていた。

髪もキレイにセットして普段より抑えめにメイクしている。


「貴女、十太郎の友達?

 ………春風高じゃないみたいだけど。」


「幽霊の”幽”に攻撃の”撃”で”幽撃倶楽部ゆうげきくらぶ”ですッ!

 十太郎君とは、ユーチャンネルで一緒に活動してます。」


そんな説明で普通、信じるか?

しかし継母は、鳩巣を家にあげた。


「そうなの?

 まあ、どうぞ…。」


そういって手で廊下を差した。

鳩巣も頭を下げて靴を脱ぐ。


「えへへへー。

 朝早くから済みませーん。」


「本当に朝から来ないで頂戴。

 殺したくなったー。」


継母は、そう言ってスタスタ歩いている。


鳩巣は、そのまま台所まで闖入ちんにゅうする。

台所では、3人が朝食を摂っていた。


義姉のメイは、朝の5時ぐらいからダラダラしている。

十太郎は、ベーコンと白米をかっ食らっている。

義妹の葵は、朝食と弁当を仕上げて自分も食べ始めた。


「おはよーございまーす。」


「鳩巣?」


十太郎がそう言うと義妹が噛付いてくる。


「何コイツ。

 また新しい女の子!?」


「朝から面倒なこと聞くなよ。

 で、鳩巣は、何の用?」


そう言いながら十太郎は、義妹を静かにさせる。

いつも通り鳩巣は、スマホを取り出して説明を始めた。


「《いど》に入ってる高校生は…。」


「ねえ、何の話!?」


義妹が十太郎と鳩巣の会話に割り込む。

イライラを我慢して十太郎は、義妹を大人しく引き下がらせた。


「お願いだから静かにしててよ。

 ほら、ね?」


「うう~。」


「ともかくシャディザールに今、20万人ぐらい集まってるみたい。

 この1日で冒険の状況は、全く変わったと言って良いね。」


ちょっと前までシャディザール近辺まで進出した人数は、500人前後だった。

PKヘヴンの壊滅で状況は、そこまで変化した訳だ。


「う~ん。

 正直、酷い連中ばっかりだった。

 俺も何回もシャディザールで襲われてさ。」


十太郎は、思い出しても嫌な気分だった。


「さっさとシャディザールを離れること!」


キッパリと鳩巣は、そう答えた。


「パランディスに着いて知らない?」


十太郎が質問すると鳩巣は、スマホを見せた。

トゥーレ大陸の地図だ。


「シャディザールから南に100kmぐらいの距離にある。

 ……細川クランは、既に足を踏み入れてるね。」


「もう!?」


十太郎は、驚いた。


まだどのクランもダイナリック山系を割ける方針を選んでいないと思っていたからだ。

だが既に多くのクランは、巨大な山を迂回する選択肢を取った。

彼が思うほどには、個性的でもないアイデアなので当然だろう。


「第23砦。

 SNS上の情報では、この辺りらしいかな。」


鳩巣は、地図を指差した。

シャディザールからかなり離れた位置に見える。


「ハッキリ言って極地法の時代だね。

 みんな大量の《ベアラー(荷運び)》を動員して《ディガー》に拠点を建てさせてる。

 岩戸泰臣が確立したルートは、何の意味もなくなったよ。」


皮肉っぽく鳩巣は、そう言った。


一緒に苦労してルートを切り開いた十太郎にとって複雑なものがある。

しかしこれも変化なのだと割り切るしかない。


誰かが戦術を編み出せば、それを破る戦術が出来る。

世の中で正しいやり方は、どんどん変わって行くのだ。


「あれこそ細川クランしかできないんじゃ?」


喘ぐように十太郎が言うと鳩巣は、首を横に振って笑った。

小馬鹿にしたような乾いた笑いだった。


「ははは…。

 細川クランみたいな計画的で立派なモンじゃないんだ。


 他のクランが手放した砦に手を加えたり、奪い取ったり。

 建材も隣のクランから盗って来たり、酷いモンだよ。

 あちこちボロボロの砦がほったらかしになってるね。」


その光景は、十太郎にも容易に想像できた。


「結果として細川クランは、助かってるね。

 捨てられた砦を解体して自分たちが回収すればいいから。

 勝手にやってればいいと思ってるよ。」


「はい。

 あんたたち、さっさと学校に行きな。」


と継母が十太郎たちを注意する。

気が付くと結構な時間になっていた。


十太郎と鳩巣が家を飛び出す。

義妹の葵は、何故か遅れていた。




「あれ?」


鳩巣が十太郎と一緒に出てきたのを見て葉月が目を丸くする。


「ああ、今朝会ったんだ。

 急に家に来て。」


十太郎がそう説明すると葉月は、


「ふ~ん。」


と適当な返事だけした。

それ以上、何も追求する素振りもない。


そのままいつもの通り駅へ3人は、向かう。

駅で鳩巣だけが別れて別の電車に乗り、十太郎は、葉月と同じ学校へ。


しかし十太郎の穏やかな日常は、ゆっくりと貴腐化していた。


「ねえ、ねえ!

 西岡十太郎って君!?」


電車の中で知らない女子高生に声をかけられた。

まさにシャディザールの再現である。


「……あのっ。

 迷惑になるからやめて貰って良いですか?」


十太郎は、そう言って丁寧に断わろうとした。

だがあっという間に人だかりができる。

出勤中の会社員たちを押し退け、車両が高校生だらけになる。


「PKヘヴンとの戦争、ありがとうございます!」

「あいつらやっつけてくれて本当に助かりました!!」

「一生、感謝しますッ!!」


「ああ………そう、なの。

 はは……はははは……は。」


弱ったように十太郎は、作り笑いを浮かべる。


「俺たち、全然、先に進めなくって!

 一度でいいからシャディザールまで連れてって貰えませんか!?」


「マジ感謝します!!

 ホント、感謝するんで助けてください!!」


「余ってる分で良いんで武器ください!

 なんでも良いんで!!」


頼みごとの嵐だった。

十太郎にとってこれまで経験のない出来事だった。

おそらく普通に生活してきてこんな事態は、そうそうあるものじゃない。


というか()()の人間が経験し得ない出来事。


周囲から期待され、他を逸する存在。

綾瀬や徳川、岩戸のような特別な存在だけが見ることのできる景色。

十太郎は、遅まきながらそこにようやく立ったのだ。


今だからこそ理解できる。

徳川や綾瀬が自分の加入を断わり、岩戸も自分を追放したのは、これだ。


自分は、向こう側だった。

力ある者に頼り、縋り付く力なき者。


(うざったい。)


夜桜の我慢は、限界に達している。

こういう連中が一番、嫌いな彼女としては、良く堪えていた。


「あのっ。

 ……ははは…ここでは、困りますから。」


十太郎は、相変わらず穏やかな調子で拒絶するだけ。

集まった連中の物凄い勢いで葉月も目を回していた。


「あわわわわ………。」


結局、物乞いと懇願は、二人が春風高校の前で降りるまで逃げられなかった。

ようやく何とか二人は、人だかりから逃げ出し、駅を離れることが出来た。


(あれ?

 あいつら春風高校の生徒は、一人もいないのか?)


それに気付いた十太郎が後ろを向いた。


(流石にテメーと同じ学校ならここで押し掛けて来ねえだろ。

 お前のクランの女どもと同じだよ。)


(え………?)


夜桜の言わんとする事が十太郎には、一聴で分り兼ねた。


(つまりだよ。

 同じ学校の男と付き合って嫌な噂が流れたら面倒だろ?

 あいつ、25股もかけてる男と付き合ってるんだぜ、とか。)


(え、ああ…。)


十太郎は、ようやく理解した。


(まあ、大人数で乱交してたり…。

 それこそ《いど》でしか面識のない相手じゃないと。

 日常生活に支障が出ちまうレベルで噂が流れるしな。


 特に、あの淫乱教師なんか生徒に手ぇ出してるし。

 いや、あのバカは、教室でもテメーにセクハラし放題だけどな。)


そう言って夜桜は、女悪魔の笑いをあげた。

お前もせいぜいその仲間だろうに。


(じゃあ、学校では、俺に声をかける奴はいないかな?)


(はッ。)


十太郎に訊かれた夜桜は、鼻で笑って答えた。


(馬鹿は、何するか分からねえって事をお前も散々、見せられて来ただろうが。

 学びが少ねえなァ。)


(はあ。

 じゃあ、出て来るかな?)


十太郎は、溜め息が止まらなかった。

ずっと黙って様子を見ていた葉月が急に気合いを入れる。


「ようし!!」


「えっ、何?」


十太郎が不思議そうに訊く。

隣を歩いていた葉月は、何かを決意したように十太郎を見た。


「ああいう奴が今度、来たら私が追い返すからッ!」


「それは、ダメ。

 葉月に何かあったら俺が嫌だから。」


そう言って葉月に思い直させる十太郎。

だが自分でどうにか出来るのか。


(あのうるさい連中をどうにかしねえと。

 私が出て行って血の雨を降らせるからな。)


夜桜も十太郎に念押しした。




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