街の変化
「あ。
ひょっとして西岡十太郎君ですか?」
宿を出ると他の冒険者に呼び止められた。
PKヘヴンが壊滅以来。
ペシュカネルやカズラク近辺でのたくっていた連中が進出して来たらしい。
こうして見ればあの七面倒臭かった紳士同盟も良いことをした。
今やシャディザールにも多くの冒険者が辿り着いている。
「ええ?
………なんでしょう?」
十太郎が返事をする。
「ウチのクランに入りませんか!?」
呼び止めた男子は、そう提案した。
何言ってんだこいつ。
十太郎の顔が引きつった。
どんな表情をして良いのか顔の筋肉が混乱している。
天村、ルンル、朝田たちも顔を見合わせた。
有名になるのは、良いがこんな手合いは、断わりだ。
「あの…。
それは、俺を引き抜きたいってことですか?」
懸命に笑顔を保って十太郎がにこやかに対応する。
「はい!!」
「お断りしますー。」
「はあ!?」
急に相手は、怒りだした。
一体何の自信があったのか。
自分の申し出が断わられるという一切の疑念も可能性も思い寄らなかったらしい。
「なんでだよ!!
なんで断わるんだ!?」
呼び止めた男子がしつこく付きまとう。
逃げるように立ち去る十太郎たち。
これも有名税だと思って耐えるしかない。
思えば岩戸もこういう事があったのかも知れない。
加入希望者にドライな対応をしていて気になっていたが。
立場が逆になると彼の苦労も分かるというものだ。
だがそれは、始まりだった。
「あのー。」
「あ、すいませーん!」
「ひょっとして貴方が!?」
また別の冒険者が次々、声をかけてくる。
昼間に目立つ大通りを歩くのは、面倒だな。
といってもここは、シャディザール。
悪徳の都、罪の街だ。
ここは、奴隷商の一大市場で遊牧民の盗賊が出入りしている。
また偽司祭、泥棒、娼婦、殺し屋、詐欺師…。
あらゆる悪女、悪漢、悪徳がそろっている。
街の中心にサキュバスの住み着く魔宮がある訳だ。
といった理由で奥まった通りに入ることは、かなり危険だ。
冒険者は、この広い目抜き通りしか使わない。
一歩、裏路地に入り込めば安全の保障はできない。
「………う~ん。
一本、ズレようか?」
なので十太郎がそう提案すると他の3人は、目を白黒させたものだ。
通りを一本ズレれば、そこは、厄介事の種だ。
「ええっ!?
ヤバい奴らがウヨウヨしてるんだよ!?」
ルンルが言った。
ある意味では、《ゾンビ》の方がヤバい奴なんだが。
「ちょっと…それは。
それは、ちょっと…。」
朝田も顔を青くして抵抗した。
「十太郎がリーダーだ。
好きにさせてやれ。」
天村が大剣をいじりながらそう言った。
正直、予感がある訳ではなかったがあまり良い傾向ではない。
バカは、何を考えているか分からないものだ。
今のところ、十太郎に声をかけてくる連中の大半は、オツムの足りない人間だ。
だがその中に逆上して襲い掛かって来る奴も出るかも知れない。
あるいは、声をかけておいて隙を見て大勢で一斉にということも。
冒険者から目立つのも安全と言えない。
連中は、ほとんどモンスターの同類と見做すべきだろう。
「じゃあ、高坂さんと十太郎がそう言うのならー。」
朝田がそう言うとルンルも同調した。
正直、二人もウンザリしていたのだ。
シャディザールの裏通り。
そこは、ダンジョンで言うなら層を跨ぐようなイメージだ。
別世界だ。
大通りでさえペットショップのように奴隷市が並んでいる。
裏通りには、あらゆる美女、美少年が並んでいた。
娼館、娼館、また娼館だ。
あるいは、盗品を売る店。
暗殺の依頼を受ける店。
日本では、絶対に見つからない店がいっぱいある。
「すごいな…。
まともな商売は、ここでやってないんだ。」
十太郎は、顔がひきつっている。
「あの人、寝てるのかな?」
ルンルが指差した。
通りに人が壁に寄り掛かって座り込んでいた。
天村が答える。
「死んでる。」
「………あ。」
十太郎が上を見ると人影があった。
向こうもこちらに気が付く。
「あ。」
前にも同じことがあった。
木津原美緒。
最序盤で音を上げていた女子だ。
「ひょっとして西岡君ですか?」
娼館の壁に張り付いていた木津原が降りてくる。
いつもこいつ高い所に登ってるな。
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《!》Topics
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木津原美緒
クラス:『アサシン』 Lv20
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「久しぶりですね、死ね。」
一瞬の隙を見て木津原の左手が伸びる。
「!?」
利き手ではなく逆の手で奇襲することに意味があった。
やはり冒険者でも左手の攻撃は、警戒の外なのだ。
木津原は、十太郎の喉、心臓を続けざまに貫く。
その鮮やかな手並みは、熟練の域だ。
CCの影響とは言え、練達の高みに手をかけている。
「う…が…ああ。」
十太郎が気味の悪い声を上げる。
(………まずい。
夜桜が寝ている間に…!!)
木津原は、素早く壁を攀じ登り、ルンルたちから逃れた。
あっという間に姿を消す。
「探せッ!!」
天村が叫んだ。
もちろん逃げた木津原を探す訳ではない。
《ハイプリースト》をこれだけで仕留められるものではない。
他にも刺客が潜んでいるに違いなかった。
「………えっ!?
他にも隠れて…!!」
続いてレベルの低い朝田が狙われた。
《アサシン》が飛び出して来てやはり喉、心臓を続けて貫く。
「あ。
は…があ………ッ。」
「ルンル!!
お前は、十太郎を絶対に死なせるなッ!!」
天村は、辺りを警戒する。
ルンルは、十太郎に駆け寄った。
「平気だ。
………毒は塗られてない。」
十太郎は、すぐに自分を回復させると朝田の回復に取り掛かった。
この程度の奇襲であっさりと落ちるレベルに留まっていない。
しかしそうなると《アサシン》たちも作戦を変えてくる。
今度は、一斉に十太郎たちに襲い掛かった。
期せずして乱戦に突入する十太郎たち。
だが《アサシン》の本領は、やはり暗殺でしかない。
真っ向から戦う実力などないのだ。
そこそこ暴れて場を濁すと《アサシン》たちは、逃げ出し始めた。
「退けッ!」
一人が合図を出すと一斉に十太郎たちに背を向ける。
申し訳程度に切り結ぶと這う這うの体で逃げ出した。
しかしこれは、十太郎にとって致命的な誤算だった。
冒険者の流入は、街の中まで戦闘の危険が広がることを意味した。
もはやシャディザールは、かつての街と違っている。
「ああ、もうっ!!
これじゃゲルガ宮殿に行くどころじゃないよ!!」
どこに行っても勧誘と襲撃を受ける。
これでは、RPGの遭遇戦だ。
「今日は、疲れたよ。
ゲルガ宮殿に行くのは、諦めよう。」
十太郎がそう言うとルンルと朝田がすぐに同意する。
「うん。」
「そうですね。」
「ごめんねー。」
十太郎が3人に謝った。
「最初に襲撃して来た木津原美緒って女子。
あれは、もともと同じクランに居た子なんだ。」
「岩戸クラン?」
ルンルが訊いた。
十太郎は、首を横に振って悲しそうに答えた。
「いや、ジョークラン。
俺とジョーと結城と一緒にやってた。
といっても半日だけなんだけど…。」
「恨みでも買ってたの?」
ルンルに訊かれて十太郎は、首を傾げた。
「恨まれるような覚えはない。
けど向こうが何を考えてるのかは、分からない。
単に顔見知りの俺が油断すると思ってたのかも知れないし。
自分が抜けたクランが上手く行ってるのが気に食わないのかも。
でなきゃ、本当に偶然なのか。」
きっと、こういう事は、他でも起きてるんだろう。
4人ともゾッとした。
「ペシュカネルは、こんな感じだったね。
私が西岡クランに入る前はー。」
朝田がそう言って苦笑した。
十太郎やジョーは、良い時期にペシュカネルを離れられたようだ。
7日目は、上手くゲルガ宮殿にたどり着いた。
しかしやはり4人では、足りないという事でレベリングして終わる。
朝田がLv12になったので《ニンジャマスター》にCCした。
結局、目立った成果は、それぐらいのものだった。




