ゲルガ宮殿
時間を戻して2日前。
今回の冒険5日目。
十太郎たちは、シャディザールの旧市街に入った。
シャディザールの中心には、ゲルガ宮殿という廃城がある。
街は、この宮殿を中心に広がっている。
だが城自体は、放棄されて早200年以上経っていた。
この古い宮殿を住民たちは、今や新市街から遠く見つめるだけだ。
「うわー…。
思えば、こんなのダンジョン以外の何物でもないなー。」
十太郎が不気味な城を見上げて言った。
城内は、夢魔の巣窟だという。
そのため住民は、ゲルガ宮殿に近づかない。
「夢魔。
……サッキュバスか。
お前にぴったりだな?」
天村が、ふふっと笑った。
「うう…。
否定はしないけどさ。」
十太郎は、項垂れた。
天村は、大剣を握り直して答えた。
「責めはしない。
女にも非がある。」
「まず私が先行して道を調べます。」
朝田がそう言って素早く壁を攀じ登る。
見事なものだ。
「新入りを慣れさせるためか?」
天村が朝田が見えなくなってから十太郎に訊いた。
十太郎は、困ったように首を横に振る。
「俺は、そんな複雑に考えてないよ。
単に……。」
十太郎が言葉を途切れさせた。
天村が十太郎の前に回り込む。
そのまま胸を押し付けて劣情のままに抱き締めた。
「入り口が見つかりました。」
朝田が戻って来た。
十太郎が返事する。
「ありがとう。
じゃあ、行こう。
案内して。」
「とりあえず私が先頭で良いですよね?」
ルンルが恐れながらと申し出る。
死なない自分が壁となろう。
「いや、真ん中に入って。」
十太郎は、そう言って天村を先頭に立てる。
「もし敵が襲ってくるなら最後尾か、中間だと思う。」
先頭と敵がぶつかるのは、お互いに予期しない遭遇戦。
敵が奇襲を仕掛けるなら最後尾か中央部だ。
戦闘における定石である。
先頭なら残りは、後退して立て直すことができる。
最後尾なら、この遭遇戦の定石である後退ができない。
攻撃された側は、情報の少ない前方にしか逃げ道がない。
敵集団の中央に割り込めば指揮能力を麻痺させることが期待できる。
やはりこの場合も前進も後退もできなくなる。
ただ結局、遭遇戦は、最初の攻撃がどこから来るか分からない。
どこに配置されても安全とは言い切れないものだ。
「行くぞ。」
天村が声をかける。
まるで彼女がリーダーだ。
天村が先頭、次に十太郎、ルンル、最後尾に朝田が並ぶ。
ゲルガ宮殿は、漆黒に照る黒大理石で作られている。
怪しげな緑の松明、緑の煙といかにもダンジョンらしい。
「思ったより………分かり易い場所だな。」
天村がいった。
彼女にしては、口が図が多い。
緊張しているからだろう。
「うえッ!?」
早速、ルンルに敵が襲い掛かった。
これには、種も仕掛けもある。
基本的に食人種であれ、ゴブリンであれ。
自然の猛獣でなければ亜人種は、《ゾンビ》を優先的に狙う。
これは、彼らの本能的なものなのか。
実態は、知れないが十太郎は、最初から知っていて狙っていた。
ルンルは、可哀想だが気付いていない。
「ひいい!!」
一気に20本ぐらい矢がルンルに刺さる。
暗闇に姿が浮かび上がるのは、サッキュバスの群れだ。
コウモリの翼、黒く長い角、細長い尻尾。
大きく盛り上がった乳房と臀部、括れた細腰の若い女の姿。
「サッキュバスの《アーチャー》か。
あっちのは、《ウォーリア》だな。」
他にも《ホプリタイ》、《マージ》、《プリースト》もいる。
どうやら魔宮の護衛団らしい。
「キエエエエ!!」
鷲獅子まで宮殿の天井と柱の間を旋回している。
翼を折り畳んで天村の前に降り立った。
「行けるか?」
十太郎は、いきなりのピンチに焦っている。
しかし夜桜は、ニヤニヤと笑うだけだ。
(おお、おお…。
雑魚ばっかりウヨウヨと…。)
夜桜にとって取るに足らない敵でも十太郎たちにとって窮地に変わりない。
だが最後の切り札が常にこちらにあるのは、心強い。
4人は、力を振り絞って戦った。
当初の予想と違う狭いダンジョンでの遭遇戦でないのは、苦戦を強いられた。
まさか広場で敵の集団と会敵することになるとは。
「く!
数が多いな…。」
天村が歯を食いしばって耐え凌ぐ。
ルンルは、もう何回、バラバラにされただろう。
「聖抱の力場!!」
十太郎の神聖魔法。
この辺り一帯を聖なる光が包む。
自動回復を場にかけた。
円にして範囲100mをカバーできる。
ただし、ルンルには効果がない。
「神々の抱擁!!」
さらに個別に自動回復をかける。
ルンルにだけは、これはかけれない。
「退魔の獅子!!
退魔の獅子!!
退魔の獅子!!」
その上、三連続で魔物の能力値を下げる神聖魔法を重ねる。
これは、サッキュバスには強烈な効果を発揮するハズだ。
「なんか一人でいっぱい魔法使ってますね…。」
朝田が目を丸くする。
普段は、ただの立ってるだけの回復アイテムだと思っていた。
十太郎が普段、どうやってクランを十全に機能させているのか。
それは、メンバーが27人体勢になってからは分かり難くなっている。
彼は、敵を倒したりしないからだ。
「あいつ、めっちゃ魔法の回転が速いんだよ。」
天村が敵を斬り捨てて振り返った。
(ちょっと安全な場所に移すぞ。)
夜桜が十太郎の身体を浮かび上がらせる。
何も知らない連中には、これも《ハイプリースト》の神聖魔法に見える。
「裁きの門!!」
光の帯が十太郎から放たれ、敵を同時に撃つ。
本来、それほどでもない攻撃魔法だがこの状態なら障害物を気にせず撃てる。
敵の頭上から打ち放題だ。
攻撃を終えると十太郎がゆっくりと着地する。
「えええーっ!
なんかすごく強くないですか!?」
朝田は、大興奮する。
「当たり前だろ?
《ハイプリースト》Lv16なんだから。」
と天村は、あっさりしている。
しかし朝田は、激しく首を横に振る。
「こ、こんな《プリースト》見たことないってぇ!!」
(当たり前だろ。
重力魔法は、属性魔法なんだから。
神聖魔法しか使えない奴が空に飛ぶか。)
夜桜が馬鹿にしたようにいった。
もちろん朝田には、聞こえない。
魔力も夜桜からほぼ無尽蔵に回して貰える。
誰も戦闘中に真剣に計算していないから気付かれないが…。
そもそも味方を疑うようなことは、誰もしない。
「ダメだ!
この人数じゃ、いつか全滅する!!
一旦、引き上げよう。」
十太郎がそう言って皆を下がらせる。
あまりにも早いお帰りだ。
だがその決断は、間違っていない。




