空戦
実に3時間後。
《セーラー》たちは、敵船を捕捉した。
「………は?」
報せを受け、四半甲板に上がったジョーと瑠偉。
二人は、双眼鏡を握ったまま口をあんぐりと開ける。
25隻のガレオン船団が一斉に向かってくる。
空飛ぶガレオン船が25隻。
どれもピカピカに輝いていて装飾も豪勢で真新しい。
艦列を整えて地平線からこちらに向かって来ている。
「な、なんだ…あれ?」
「うそでしょ…?」
二人は、驚いたがサバンナのあちこちにガレオン船の残骸がある。
そこから考えればこれまで気付いてなかっただけだった訳だ。
空飛ぶガレオン船は、東から定期的に西へ向かって来ている。
「距離を取れッ!!」
瑠偉は、大急ぎで風を掴もうとする。
あるいは、魔法の力場のようなモノを巧みに利用した。
彼女の仲間たちも懸命に働いた。
しかし足の速い敵船が一隻、こっちを追ってくる。
あきらかに向こうの方が上手だ。
「うわー!」
「嫌ぁ!」
「敵が来るー!」
船の上は、パニックに陥った。
空は、安全だと思っていただけに混乱は大きい。
「どうすんの!?
どうすんの!?
どうすんの!?」
大騒ぎする葉月は、ビニールプールを蹴飛ばして甲板を滑っている。
「ほ、砲列甲板に集まって!!」
ジョーが叫んだ。
一斉に皆、上甲板から下甲板に移動する。
一応、細川クランがガレオン船に大砲を備えつけてくれた。
それ自体は、彼らが砦に装備するためのものを譲ってくれた。
「出来の悪い奴を廻してるんじゃないだろうな?」
ジョーが大砲を一つ一つ点検した。
細川クランの連中は、困っていたがそれだけに性能は、折り紙付きだ。
「こ、こんなの撃ったことないよ!?」
月愛が狼狽える。
ジョーは、懸命に指揮を執った。
「落ち着いて!
一度、撃ったら次撃つには、時間がかかるから!
間違っても慌てて撃たないで!!」
皆、慣れない手つきで大砲に火薬を込め、砲弾を込める。
船の片舷に大砲を揃え、恐る恐る砲門を開いた。
敵船は、すっかり目の前まで来ている。
皆、固唾を飲んで覚悟を固める。
「撃てー!!!」
轟音が響き、青白い炎と共に黒煙が船内に広がる。
女子たちの悲鳴が砲列甲板を駆け巡った。
足元の覚束ない操船で敵艦は、油断していたのだろう。
まんまとジョーの指揮する艦砲戦で撃沈された。
「当たったー!」
「やったー!」
「あっはっはっは!!」
崩れる敵船の姿を見て歓声が上がる。
その中で
「つ、次の攻撃に備えろ!」
結城が大急ぎで再装填の準備を始めようとする。
他の皆もそれにつられた。
「いや、無理だ。
大砲は、そんな連続で撃てない。」
ジョーが皆を止めた。
そんな大急ぎで次の攻撃ができる訳でもないのだ。
敵船団は、ジョーたちをこれ以上、相手にする気もないらしい。
残る24隻は、どんどん遠ざかって行く。
皆が砲列甲板にいる中、一人で瑠偉が双眼鏡を覗き込む。
まるで船長気取りだ。
「……拿捕しても20人ちょっとが奴隷になるだけだしな。
ちょっとちょっかいを出してやるつもりだったんだろう。」
瑠偉が離れていくガレオン船団を檣楼から見送った。
下では、ジョーが大興奮している。
「船を降ろせー!
船を降ろせー!!」
「なんだい、砲術長?
船長は、私だぞ。」
瑠偉がおどけた様子で縄梯子を降りてくる。
ジョーは、目の前まで来た瑠偉の尻を叩いた。
「なんだいだって?
船長、撃沈した敵船の荷を改めるのさ!
ほかに何がある!?」
おおはしゃぎするジョーは、指で地面を何度も指差す。
だが瑠偉は、慎重だ。
「待って。
敵船が引き返して来たら全員、臭いオッサンのケツ穴を舐めさせられることになるよ。」
「じゃあ、時間を置いて船を降ろそう。
どっちにしても新鮮な難破船だ。
お宝は、手付かずだ。」
ジョーは、そういって皆に準備をさせる。
瑠偉は、困ったように目を回した。
「そりゃ、まあ………確かに。」
二人の間で意見の一致を見た。
しかし北村先生にお伺いを立てねばならない。
「アリス先生ー。
さっき撃沈した船の荷を奪おうと思うんですけど。」
ジョーがそう声をかけると北村先生は、難色を示した。
「………う~ん。
きっと今、下は、死体でいっぱいよ?
私は、ちょっとキツイかな。」
「じゃあ、先生は、ここに居てくれればいいです。」
ジョーは、そう言ってガレオン船を旋回させる。
何が何でも撃墜したガレオン船を諦める気はないだろう。
じっと30分ほど時を置き、敵船が引き返してこないのを確かめた。
偵察にやった円香が戻ってくる。
「敵船団は、かなり西に進んでる。」
「奴らは、ダイナリック山系を知らないのかな?」
ジョーが瑠偉にいった。
瑠偉も首を傾げる。
「あいつらが何者なのか。
それは、下の船から分かることだ。」
「………そうか。」
思えば、これまで彼らについては、船の残骸しか知らない。
明らかに空飛ぶガレオン船は、この地域の文明と異なっている。
シャディザールは、アラビア風だし、アグィーッパスは、ギリシア風だ。
このガレオン船は、ヨーロッパ風の様式で作られている。
もっとも見慣れたデザインのものはなく代わりに怪物が彫り込まれている。
奇妙な海洋生物に似た名伏し難い海の怪物を象った人形たちだ。
「発狂!」
《マージ》の小川恵梨香が言った。
「クトゥルフなんとかでよくある奴!
見たら頭おかしくなるアレ。」
「ああ…。
ようやくこの船に乗ってる生き物を初めて目にする訳ね。」
円香も腕組みした。
彼女の目線には、タコの頭をした女神像がある。
おっぱいには、海星が張り付いていた。
他の皆も深く考えるとゾッとする。
「うう~~っ。」
不思議なものだ。
人間の死体には、もう慣れてしまったというのに。
未知なるものに対する恐怖は、依然として存在する。
「だあああ!!
行くなら行こうぜ!!」
結城が拳を振るって声を張り上げる。
葉月も同調した。
「皆、そういうの良いから。
ホント、良いから。」
怖がってるふりは止めろという事だ。
そんな普通の女の子アピールは、ここではもう必要ないだろう。




