接触
綾瀬クランは、北を目指していた。
あまり西岡クランと衝突したくないということが一点。
今一つは、お互いに別の場所を探索した方が情報のやり取りがし易いということだ。
綾瀬も十太郎も相手が嘘を吐くと思っていない。
この二つのクランは、一定以上の信頼関係を結んでいた。
「おおっ。
これは、俺にくれるのか?」
先日、十太郎は、空飛ぶ三段櫂船をプレゼントした。
ペレ=アッコンを攻撃して略奪したものだ。
同じ物を徳川にも送っている。
「ありがたい。
だが、こんなもの受け取っても良いのか?」
綾瀬がそう言うと十太郎は、恥ずかしそうに照れた。
「ああ…ははは…。
これからも仲良くやって行こうってことで。」
「はっはっはっはっはっはっは!
こんな物貰わなくてもウチとそっちは、協力し合ってるじゃないか、ボーイ!!」
そう言って綾瀬は、破顔した。
しかし今度は、酷く困った顔になる。
「これほどの物を貰って返す物がないな。
………見て貰えるか?」
「え?」
十太郎は、キョトンとする。
それを綾瀬は、笑った。
「はっはっは…。
相変わらず人が良いな。
返す物がないと答えられて、そのまま信じるな。
一応、ウチの持ってるアイテムや装備を見てみろ。
欲しい物があればこちらからも喜んで出す。」
そう話すと綾瀬クランのメンバーが荷をほどく。
一斉に武器や防具、アイテムを並べていく。
何一つ、誤魔化さず、十太郎に装備を明かした。
「こ、こんなことしなくても…。」
「一番、分かり易いのは、金だな。
しかし金なんか貰っても今後の冒険にすぐ役に立たんだろう。」
ジョーなら飛びつくような金塊、宝石の山が示された。
だが綾瀬も十太郎もこんなものに今、興味はない。
「これなんかどうだ?
魔力の回復量を上昇させる指輪だ。」
「へえ。」
綾瀬が宝石を着けた質素な指輪を取り出した。
装飾の無い地味な指輪だが着けてみると力の充足を感じた。
(うおっと。
それ、綾瀬との婚約指輪なんじゃねえの。)
すかさず夜桜が揶揄った。
十太郎は、思わず不快な表情を作ってしまう。
それが綾瀬に伝わった。
「ん?
何か気に入らないことがあったか。」
「ううん、全然、ちっとも問題ないよっ。
はははは…。」
(余計な事言うなよ。
綾瀬が勘ぐってるじゃないか。)
(ひゃひゃひゃひゃひゃ。
だって………悪ィ。)
何がそんなに面白いのか。
夜桜は、口元を手で抑えて笑い転げる。
「このライフルは?」
十太郎は、並んだ武器の中から長い鉄砲を選び出す。
美麗な装飾が施され、花鳥の彫金には、宝石が埋められている。
「遊牧民の盗賊が装備していた。
それなりの物らしい。
要るか?」
「うん。
ジョーにあげるよ。」
十太郎は、早速、そのライフルを魔法の袋に押し込む。
重さだけ増えるが大きさは変わらない収納アイテムだ。
「それ、綾瀬が取っておいたんだよ。
十太郎のところに《ガンナー》が居たからって。」
と高本がいった。
高橋もケラケラ笑っている。
「十太郎ー。
気を付けないとね。」
「はっはっはっはっはっはっは!!
俺も西岡ボーイのハーレムに入ろうかな!!」
そう言って綾瀬が十太郎を後ろから抱き締めた。
十太郎も頬を赤らめる。
───と、これが先日の出来事である。
ジョーたちは、位置特定アプリで綾瀬たちを追尾する。
相変わらず電話はできないがこういうアプリは、小ダンジョンなどで見つかる。
「スマホのアプリがダンジョンの報酬って…。」
結城が嫌そうな顔をして唇を歪めた。
隣で葉月も同じ顔を作る。
「スケロスって魔法使いは、ちょっと変わってるね。」
「あった!」
帆柱の上にある檣楼から《セーラー》の莉理の声がする。
綾瀬の三段櫂船を見つけた。
「おーい!!」
「むう?」
綾瀬クランのメンバーたちもガレオン船の接近に気付いた。
互いに船を近づけるが綾瀬クランの方がみっともなくもたつく。
流石に《セーラー》の有無は、大きな違いになって現れた。
「《セーラー》、海兵だと?
まさかこんなサバンナの上でそんな職業が必要になるなんて。」
綾瀬クランの青柳が眉を寄せ、目を細めた。
「はっはっは。
私らに言わせれば陸の上の部活ばっかり優遇されてたら敵わないよ。」
と瑠偉は、手を振った。
それは、確かにそうだ。
「で?
用件というのは、何だ。」
敵として警戒している訳ではないが青柳は、弓を手に話を始めた。
「綾瀬は?」
ジョーが青柳に訊く。
彼は、端的におよそ訊かれるであろう質問を先に答えた。
「今、北の探索に出ている。
………あっちは、森林地帯だ。
雪深いステージが広がっている。」
「なるほど…。」
ジョーは、金貨を指で弾いた。
青柳がそれを空中でキャッチする。
「情報料だ。」
「ふん。
金貨1枚で威張られも困るが気持ちは受け取った。」
その金貨1枚が外の世界なら1万円弱の価値がある。
だが《窖》の現地民は、冒険者から必要以上にふんだくる。
この金貨もここでは、たいした価値にならない。
「私たちは、南の探索に入った。」
「知っている。
だから俺たちは、北だ。」
と青柳。
野球部らしい精悍な顔つきでキビキビしている。
「そこで細川クランの砦みたいなものを作るつもりだ。
ガレオン船の修理や点検をいつまでも連中に頼れないしな。
でだ。
私たちがそう言うものを作ると場所の奪い合いになる。
綾瀬クランには、事前に申し合わせておこうと思った。」
ジョーは、スマホで位置情報を送る。
「良いのか?」
「ああ…。
攻撃されたらかなわないしな。」
「いきなり攻撃せんさ。」
青柳は、請け負ったがジョーは、慎重だ。
瑠偉が答える。
「海の上では、そういう事も起こる。」
それは、事前に警告しなければ騙し打ちもあるということだ。
確かに自分たちの拠点の場所を教えるのは、攻撃の機会を与える。
だが知っている以上、知らずに攻撃したという言訳は効かない。
「ここは、スポーツ大会じゃない。
敵は、ユニフォームで区別を着けない。
戦いも申し合わせた時間に始めたりしない。」
「分かった。
しかしそうなると俺たちも、ということになるな。」
青柳が両手を腰についた。
「その時は、そちらも申し出てくれると嬉しい。
不期遭遇戦など、願い下げだからな。」
ジョーは、それだけ言って別れた。
「徳川と細川にもこちらから言っておく!」
と青柳が手を振る。
今、《Pライダー》が2騎、東に向かって飛び出した。
「ありがとう!!」
「ああ、上手くやれよ!
お前らが上手くやればお互いに利益がある!!」
二つの軍船は、離れて再び南北に舳先を向けた。




