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来やがれ!ダンジョン学園!!  作者: 志摩鯵
第3話「出て行け!西岡十太郎!!」
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略奪行




「タナスル?」


高橋が土虫を食べながら訊いた。

十太郎は、細川に貰った地図情報を見せる。


「うん。

 カズラクに戻るつもりだったけど。

 新しい街なら岩戸が落した連中がいないと思うんだ。」


流石にそんな連中と組めない。

どう考えても岩戸に拒否された人間同士で煮詰まってしまう。

そしてPKクランの仲間入りだ。


「なるほど。

 あそこは、もう他のクランに落された人間がウヨウヨしてるもんね。」


悲しい現実だ。

先に進むには、必要ないと判断された人間の溜まり場。


予定を変更し、新しい街を目指すのは、かなりリスクがある。

しかし十太郎の目的を考えればタナスルに向かうのは、妥当といえた。


高橋と高本も十太郎に協力するよう綾瀬に言われている。

お互いにこれまでも世話になった間柄だ。

最大限、協力してやりたい。


綾瀬クラン(ウチ)としても情報が増えるしね。

 行ってみようか?」


高橋がそう言うと高本は、難しい顔をする。

ボウガンを整備しながら会話に加わった。


「どうだろう。

 ………その位置情報、本当にあるの?」


「ちょっと心配し過ぎじゃない?」


高橋がちょっと苦笑いした。

といってもないことでもない。


「ちょっと冒険してみようよ。

 何のために冒険してるの!?」


高橋に説得され、高本も仕方なく承服した。


「うん。

 うん?

 ……うん。」


正直、高本は探索とかが好きなタイプじゃない。


高本は、戦ってるのが好きなだけだ。

体育系だし勝負事は、好きだ。

自分の思い通りに身体が動くのが楽しい。


(いつまで良い子ちゃんぶってんだ。

 とっとと二人とも食っちまえよ。)


夜桜がじれったそうに頭の中で騒ぎ出した。

子供みたいに手足をバタつかせ、口を尖らせている。


二人とも巨乳とは言えないが上着を突き上げる乳、丸みを帯びた下半身。

特に陸上部の高本は、魅力的な身体をしていた。


(お前なァ。

 面白がってるだろ?)


(当たり前じゃん。

 女は、男を揶揄からかうモン。

 男は、女で遊ぶモンでしょ。)


道徳0点だな。

十太郎は、困って首を横に振る。


しかし健全な男子高校生は、抑えられない。

夜桜に言われるまでもなくちゃんと性欲が備わった男子だ。

十太郎は、固唾を飲んで情欲を我慢した。


しかし…。

性!


がまん。

性欲!!


「うう……。」


十太郎は、必死になって、その夜を乗り越えた。




翌朝。

三人は、タナスルに向かう。


これまでも調査の経験のある三人だ。

今回は、目的地の位置情報まで事前に貰っている。

それほど苦労しないと思ったが意外と難航した。


「また人喰い族の集落だ…。」


細川が事前に話した通り、枯れ谷や丘の上に集落がある。


彼らは、人類ホモサピエンスとは、別の猿から進化した。

つまり原種から違うがやはり霊長類の一種ではある。

しかしそこから邪悪な神によって進化をネジ曲げられた種だという。


ヒトに近いがゴリラのように拳を使って前屈みで歩行する。

しかし前屈みだが人間のように歩き、道具を使うこともできる。

牙があり、恐ろしい咬合力こうごうりょくで骨まで噛み砕く。


伝承では、人間の血肉を得ることで徐々に人に近づいているという。

科学的にナンセンスだが、異世界ここでは関係ない。


《ビーストテイマー》という職業クラスの奴らがこの辺に詳しい。

しかし彼らは、大半が単独ソロ活動している。


もともと彼ら自身の性格に難があるというか。

繊細だったり、被害妄想が強かったり、動物が好き過ぎたり。

それがこの異世界のせいで人間不信が一層、悪化してしまった。


PKだとか騙し合いだとか仲間外れだとか。

繊細な彼らは、もう人外にしか心を許さない。

人間と違って仲間にしたモンスターや獣は、逆らわないし裏切らない。


おかげで街にも寄り付かない。

今、彼らがどこで何をしているのかさえ全く掴めない。


細川は、うるさい奴がいると言っていた。

どうも彼のクランには、《ビーストテイマー》がいるらしい。

結構、聞かない話だ。


話を戻そう。

今、三人は、人食い族の集落の前まで来ている。


「もう避けて通れない。

 一気に行くよ!」


と高橋が声を上げた。

他の二人も嫌々ながら承諾する。


結局、”略奪行”で行くしかない。


食人種は、仕留めた冒険者を持ち帰っている。

彼らの狙いは、人間の血肉だ。

装備、干し肉のような保存の効く食料は、そのまま残っている。


略奪行と呼ばれる攻略法は、食人族の集落を次々襲い、補給しながら前進する。

彼らも生き物である以上、水源もある。

かなり乱暴だが、戦闘に自信があれば効率的で確実な移動である。


問題は、人間の死体を目撃したり敵からの反撃に会うことだ。

だからあまり好き好んでこの攻略をするクランはいない。


「おわー!」

「でやー!」

「いやー!」


十太郎、高橋、高本の三人は、戦意を奮い立たせて突進した。


「××××××××××!!」


人食い族が耳障りな声で吠える。

完全に犬とかに近い感じだ。


連中の祭壇には、バステト神が飾られている。

グリュ=ヴォの上位者が信仰した古々(ふるぶる)しい神。

喰屍鬼グールの守護神だ。


ペシュカネルの神殿の物とデザインが多少、異なる。

しかしトゥーレ東海岸で崇められる同じ神だ。


だがこうして本物の人間の血で染まっていると不快感が増す。


「うわ。

 グロ…!」


遊牧民ベドウィン、行商人、冒険者。

近づいた人間は、調理され、神に一度、差し出されている。


祭壇は、流血に染まり、毒々しい髑髏が山となっている。

黄金の山刀がこれ見よがしに輝き、嫌らしく血に濡れていた。


「あんま意識して見ない方が良いって!」


高本が高橋に言った。

今、最後の食人種が彼女の剣でトドメを刺される。


「×××××××…!」


真っ白な肌。

ゴムのような質感は、人間と似ても似つかない。

別の生き物が何かの力で無理矢理、人間に似せて作り直されたようだ。


「うわあ…。

 干し肉、乾パン、干し果物あったよぉ。」


震える声で十太郎が報告した。

左手に血塗れの袋が握られている。

腰には、三人分の水筒が下がっていて水を井戸から汲んで来た。


「ありがと、西岡ボーイ!

 じゃあ、撤収しよう!!

 秒で!!!」


高橋が叫ぶ。


三人は、集落から走り去った。

この調子で次々に集落を襲撃していく。


「金貨あった!」


「次!!」


「なんかアイテム拾った!!」


「次!!」


「やっべえ、何もねえ…。」


「次ィッ!!」


「砂嵐だー!」


「近くに洞窟あるよ!」


「次!」


やがて、そろそろ夜になる。

だが略奪行に休息はない。


食人族の領域内で休むところはない。

集落の食人種がいなくなっても外へ狩りに出ている連中がいる。

冒険者が思っている以上に連中は、数が多い。


「××××!!」

「××××××ーッ!!」


「しまった、待ち伏せだ!!」


暗くなると相手の方が有利になる。

次々にピンチが降り掛かる。


「うわああ、ライオンだ!!」


十太郎が懸命に棍棒メイスを振り回し、距離を離して魔法で戦う。


ゴブリンや食人種にも職業クラスがある。

きっと食人族の《ビーストテイマー》だ。

肉食獣やモンスターを手懐け、狩りに参加させているのだろう。


「裁きの光!!」


光の柱がライオンに落ちる。

一撃で雌ライオンは、見事な挽肉に変わった。


これは、今の少ないMPで使える切り札だ。

しかし出し惜しみできない。


「灯り!!」


三人は、松明を準備して付近を警戒する。

敵からも目立つようだが既に向こうからは、見えている。


「はあ、はあ、はあ…。

 わわ、わたつ…私、短距離選手なんだけどな…。」


高本が太腿をパンパンと手ではたいていう。

十太郎は、目を回している。


「やっぱ目的地がおおまかにしか分からない略奪行は、キツイな。」


しかし略奪行は、やはり移動スピードが違う。

疲労は、大きいが常に補給に困ることがない。


それでも無理の甲斐はあった。

夜明け頃、ようやく目的の街が見えて来た。


カズラクと同じぐらい大きな街だ。

市場が城壁の外に広がり、四角い塔が幾つもそびえている。


「あった、タナスルだ!!」


十太郎は、スマホで位置を確認する。

しかし問題は、タナスルは、今いる崖の下にある。


「うわー…っ。

 地図の上では近いけど段差が…。」


高橋が崖から下を覗き込む。

思わず震えが登って来る光景だ。


「やっぱ《F(フェニックス)ライダー》になれば良かったー!!」


高本は、尻もちを着いて座り込む。

そのまま空を仰いでぐったりと首を傾げた。


「降りれるだろ、これ。」


十太郎の身体で夜桜がいった。

平然と崖下へぶら下がり、そのまま指をかけて降りていく。


「うわああ!!

 西岡ボーイ、危ないって!!」


高橋が叫ぶ。

へたり込んでしまった高本も慌てて崖から顔を出す。


「た、確かにゲームとかでやる奴だけど…!!」


二人が見ている間にも十太郎は、どんどん下に向かう。

夜桜にとってこの程度、屁でもない。

一息で都庁ビルをクライミングできる自身もある。


(やっば…。)


と思っていたが夜桜が急に焦り始めた。

眠い。


(嘘…!

 ここで眠気が来るか!?)


十太郎が急いで身体の主導権を代わる。

どんどん夜桜の意識が薄らいで眠りに入るのが分かる。


(嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!!

 頼むからこんな場所で俺を一人にしないで!!)


(絶対、放すな…。

 ………眠い……。)


それだけ言って夜桜の意識が途切れる。

これが他人に身体を預けた大馬鹿者の末路だ。


じっとりと嫌な汗が背中から噴き出した。

唇を噛みしめて自分の甘さを責めるが時間を戻す術はない。


「落ち着け。

 こ、こんなのジャングルジムみたいなモンだ。」


しかし十太郎は、ジャングルジムなど得意じゃない。

だがやるしかない。


「うわー、うわー。」


「怖ッ、怖ッ。」


上を見上げると高橋たちも崖を降り始めた。

十太郎が降りていくのでイケると思ったのだろう。

二人のケツなんか見てる場合じゃないのに。


「落ち着け…。

 お・ち・つ・け…。」


他の連中は、この異世界では死なない。

だが夜桜が死なない保証はない。

十太郎は、死ねない。


一歩、一歩と下に降りていく。

疲れと焦りが気持ちをはやらせる。


「はあ、はあ、はあ…。

 うええ!?」


気が付くと高橋と高本が近くまで来ている。

さすが運動神経で強豪校に入った連中は、違う。

ロッククライミングやボルダリングの経験がなくても十太郎と同じにはならない。


「やばい…。

 俺が降りないと…二人とも…。」


目が眩む高所に耐えながらルートを探す。

足場をしっかりとさだめ、着実に進む。


「こっちイケそう。」


「なんか楽しくなって来た。」


しかし高橋と高本は、運動能力が段違いだ。

十太郎では、届かない足場、掴めない出っ張りを頼りに進む。


「ああ…早いね、二人とも…。」


十太郎がそういう間に二人は、どんどん降りていく。

もう完全に勝負モードになっている。

これが体育系の本能だ。


「ほら、ほら。

 西岡ボーイも競争だよ!」


さっきまで崖の上で様子見してた癖に。

と十太郎は、思ったがそれも夜桜に頼ってる人間の台詞じゃない。


「あ、よ……ああ、うわ……!

 ち、ちくしょう……なんでこんな目に……!」


あとちょっと。

この後ちょっとが一番難しい。

そう分かっているのだが…。


「ッ…!?

 ぱああああ!!!」


足が滑った。


十太郎が斜面を転がって行く。

崖下に落ち、血だらけになって転がる。


「あ、あああ…。」


骨が折れてる。

早く回復魔法で治療しないと…。


「ひい!?」


痛くて集中できない。

これがゲームなら文句言うところだけ自分だから言えない!


「西岡ボーイ!!」

「大丈夫、西岡ボーイ!!」


後から高橋と高本が急いで崖を降り、走って来る。


綾瀬クランは、青柳以外の全員が《ナイト》だ。

《プリースト》より効果が低いが回復魔法が使える。

二人は、急いで十太郎の負傷を回復させにかかった。


「痛いの!?」


高橋が十太郎を抱き抱えて叫んだ。


「うう…。

 ありがとう、二人とも。」


負傷が治った十太郎は、起き上がって二人に礼を言う。

三人とも一安心だ。




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